第10話 受付嬢ギャリー
ーー今回は受付嬢ギャリー視点です
「おい、あれはS級のシルバーナイトじゃないか?」
「そういや最近見た事なかったが、帰ってきてたのか」
「これでまたサマリの街も安泰だな」
サマリの街から駆け出す一頭の黒馬に、フルアーマーの騎士が一人。
その鎧はシルバーに輝き、風で流れる赤茶の髪が騎乗する騎士の美しさを際立たせる。しかしその眼光は鋭く、美しさに騙され見た者を畏怖させた。
私はキャサリン=ヘンドリクセン。いや、今はただの元S級冒険者のギャリー。
このファンダリアのヘンドリクセン公爵家に産まれ、女でありながら騎士団長にまで駆け上がった。……それがいけなかったのだろう。
私は自分が公爵家の人間であるが故に、この王国内に於いて私に楯突く者など居ないと思っていた。騎士といえど所詮は公爵家の姫、籠の中の鳥であったのだろう。ーー私は騙された。
有りもしない罪を着せられ私はこの辺境街サマリへと逃げ落ち、冒険者として活動する事になった。これも自分の意思ではなく、陰から私を助けてくれた両親の勧めであった。
命を落とすかも知れない危険な仕事ーー冒険者。今思えば、王国に巣食う悪意に比べれば私の武の部分だけを見れば冒険者の方が安全と考えての事だったのだろう。
私は髪を切り、名を変え冒険者となった。冒険者として順調に成長した。サマリの街周辺の魔物を狩り、ダンジョンへ潜り、いつしか仲間も出来、S級へと登り詰め順風かと思われたその時。ーー私と現ギルド長を残し仲間が死んだ。
後で知った話し話しだが、彼等は両親から送られた公爵家の家臣であった。また私は家に迷惑を掛けてしまった。
彼等を殺したのはゴールデンサーペント。
ダンジョンを根城とする巨大ヘビの魔物で、住まうダンジョンを転々と移動する事から別名動く死神と恐れられらるダブルS級の魔物だ。
魔物の階級は冒険者が勝手に付けたものだが、それらは的外れなものではない。
S級を超えるダブルS、私独りでなんとかなる魔物ではない。まして4人居た仲間の内、全員がS級に迫るAランクの冒険者、いや騎士と言うべき達人だったのだ。それでも私は逃げる事しか出来なかった。
それから私は冒険者を止め、二度と無駄な死を出さぬ様に冒険者ギルドで受付嬢として若き冒険者を育て支える事に力を注いだ。
ーーある日黒い3人組が冒険者ギルドを訪れた。
私はその3人が放つ異様さに何処かの国のS級冒険者チームかと思った。
一人は魔力の塊の様な黒いドレスの吊り目の女性。
二人目はガタイの良い道着を着た格闘家。
そして3人目は裸同然の鎧を装備した無手の剣士?武器を持って居ないので空間魔法の使い手かもしれないがその裸の様なアーマーは、己の身軽さスピードを最大限に、そして最小の防御で敵を討つ最適解とも言えるものだった。
「魔物買い取りは隣の建物です」
だから私がこう発言した事を誰が責める事が出来るだろあか。
「違うわ。私達は冒険者登録をしに来たの」
その言葉に愕然とした。
本当に初めて冒険者登録をするの?と。いや、多分彼等は私に似た境遇の持ち主かも知れない。目の前の黒いドレスの女性は魔力はあるが、何処か世間知らずな雰囲気もあり、まして一般人がそんなドレスを持てるはずは無いのだ。
なら先ずはちゃんと冒険者の規約を説明するべきだろう。冒険者カードのステータスを確認すれば何か分かるかも知れないし。
説明を終え、3人の冒険者カードを発行する。
ーー驚きだった。
彼等のステータスは見た目と全然違う事に驚いたのだ。
先ず1番強いだろうと思っていた格闘家のステータスはどう見ても魔法使いのそれであった。
2番目に黒いドレスの女性も魔法使いだが、その強さは魔法使いとしては異常と思える数値。しかも予想通り他国の貴族なのだろう、ゴッド家と言う貴族の様だ。
3番目の剣士?が1番強かった。体力の数値は一般男性を遥かに超え、無手でこの強さの数値。……武器を持ったらどれだけの数値に跳ね上がるのか。
彼等は宿屋の場所を聞くと、魔物イノシシを狩ったらしく隣の買い取り所へと去って行った。
ちぐはぐな数値ではあったが、強いのは間違い無い様に思う。叶うなら、ゴールデンサーペントと遭遇せずに冒険者を続けて貰いたい。……ゴールデンサーペント、例え彼等が倍に増えても逃げるのがやっとであろう。
ーー翌日、驚いた事に裸剣士が私のフルフェイスと似た仮面を装備していた。
裸アーマーに騎士仮面。そのセンスの良さに私は戦慄を覚える程興奮した。
私が現役であれば彼女ともに同じ装備で共に戦いたかったと思う程に。
しかし驚いたのは初心者ダンジョンを知らなかった事と、貴族であるのに30万ゼニが高いと言っていた事だ。
丁度魔物イノシシ討伐依頼が30万ゼニであったため、彼らに依頼を請けてからダンジョンへ行く様に勧めた。ーーこれから彼等の冒険者が始まるのだろう。私は彼等の後ろ姿を、見つめながら旅立つあの日の自分を重ね合わせた。
ーーその日の午後。
「そんな話し聞いていません!」
私は受付に顔を出した冒険者に声を荒げていた。
ゴールデンサーペントが初心者ダンジョンを根城にしたなど初めて聞かされたからだ。直ぐ様その足でギルド長へ確認を取ると、情報の行き違いが原因で私が知るのが遅れた様だ。
しかし問題は彼等をダンジョンへ送り出してしまった事実。
私は彼等を救うべく、鎧を装備し黒馬を走らせたが、ここまでで既に半日が経過している。ゴールデンサーペントのせいで魔物イノシシが逃げて居なくなっていたとしたら、既にダンジョンへ入ってしまっているだろう。
そうなれば既に彼等の命は無い。
しかし例え遅かったとしても、私は行かずにはいられなかった。
「お願い……間に合って!」
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ーー
しかし無情にも、私が現場へ到着した時そこは血の海に沈む肉片と異臭で目を覆う惨状と化していたのだった。
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