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第4.2ミッション ミッションこんぷりーと! 前編

 「帰りたい」


 電車を乗り継ぎ、車内ではまるで存在しないように装い、どうにか指定されたメイド喫茶゛ニャンカフェ゛の前で佇む僕。

 ふぅとため息をついた後、心の声がつい口から漏れてしまった。

 小学生の時に友達だった杉浦かおる君からの呼び出しでここにいる訳だけどもう帰りたい。

 まず帰りたい理由として緊張してお腹が痛い。

 どんな話をするか誰がいるかなど聞かされておらず、キリキリ来る痛みで完全にストレス性だとわかる。

 腹痛でこのまま昼に食べたものがあわなかったと言って帰ろうかと思い付く。

 が、そんな事をしたら家に鬼の形相をしたかおる君が押し寄せて来るだろう。

 次に緊張させる要因が築何十年だろうと思うビルの一室に喫茶店はあった。

 古い。古すぎる。

 喫茶店の扉は綺麗に飾りなどされており見栄えはいいと思うが、他の部屋は本当に住民が住んでいるアパートで、少し錆びた扉、新聞が大量に突っ込まれた郵便受け。

 かおる君から、ここに来るように指定があって着たのはいいが、緊張と得体の知れないレトロ感に、僕の危険メーターがレッドゾーンまで上がっている。

 しかし、せっかくここまで着たし、かおる君に黙って帰る事は無理そうなので覚悟を決めて気合いを入れる。


 「と、とりあえず入ってみるか」


 扉のノブに手をかけるも、急に心臓がドキドキし始め、へたれスキルが発動してしまい嫌な妄想がよぎる。


※妄想※

 「実はここまで来てもらったのはいいカモがまた騙される所を見たかったからだよ!」

 「水代800円になります。あん?!800円もするのはどこの水かだって?○甲の美味しい水に決まってるだろ!あん?さっき水道水で入れてたのを見た?その水道水が六○の美味しい水になってんだよ」

 「チャージ代10分で5000円になります。あん払えない?テンチョー出番です!」

※妄想終わり※


 など妄想が次から次に浮かんでくる。

 しかし、かおる君の顔を思い浮かべると真剣な眼差しが印象に残っており、僕の背中を押す。

 さぁノブを回すぞと思った所で後ろから耳に息を吹きかけられて飛び上がる。

 耳を押さえて後を振り替えるとかおる君が立っていた。


 「うぉ?!か、かおる君?!」

 「遅い~。何してたの?待ってたんだよ。みんなもいるし早く入って」


 妄想の中では少し悪者の顔をしていた時と違い、綺麗に化粧をして、どっからどう見ても女の子にしか見えないリアルのかおる君が僕の背中を押し喫茶店の扉を開ける。


 「ちょ、ちょっと待って心の準備が!」


 (み、みんなって誰?!今からぼこぼこにされる?!ほ、本当に僕また騙された?!)


 と思った瞬間゛お帰りにゃ~。ご主人さま~゛と甘えたような声でメイド服に、猫耳そしてお尻には尻尾をくっつけたカスタマイズメイドが二人出迎えてくれた。

 ポカーンとする僕。きっと間抜けな顔をしているだろう。

 自分が妄想した悪い状況とはかけ離れてむしろ嬉しい誤算だった事で、脳があまりの緊張に今度は違うメルヘンな妄想でも始めたのかなと思うほどだった。

 メイド服は胸元がぱっくりと割れており、寄せて上げているのかは分からないけど見事な谷間が出来上がっていた。

 さらに絶対領域が見えそうで見えないもどかしいスカート。そこからもれる見える2つのおみ足。パンストで生足とはいかなかったけど、それはそれでいいかもと思う。

 そんな彼女達に見とれてしまい僕の顔は大変な事になっているだろう。


 (か、かわいぃ。さなえちゃんとみかんちゃんか)


 さっきまでビクついていた自分が嘘のように思考が高速で動き、彼女達の上から下までの容姿とネームプレートを確認していた。

 顔が小さくて、まだ駆け出しのアイドルのような雰囲気を持つ二人に、僕の鼻の下がぴくぴくとひきつるのを必死に我慢する。

 どうにかクールボーイを演じようとするが、彼女達が僕がまだ状況を理解出来ず固まって反応しないことに首を傾げる。

 またその仕草が可愛くて心の中ではひゃはぁーと○龍拳のポーズを取りながら雄叫びを上げている。

 引きこもっていたとはいえ、健全な20代前の少年である僕がこんな可愛い女の子達を見たら、紳士として容姿とネームプレートの確認は絶対しておくべきだろう。

 いやするべきだ。

 そう、名前を間違えるは失礼だから!

 後で機会があればお話してみたいな。などとそんな事を考えていたら、後でいくらでも話が出来るからと、かおる君に背中を押されて、奥にあるカラオケボックスの大人数が入れる大部屋のような密閉性が高い扉がついている部屋に通される。

 重たいドアノブを回し、扉を開けるとそこには広いソファが2個L字に配置されており、真ん中に黒のテーブル。

 それとは別にクッションのような丸椅子が何個かあった。

 ソファに座って長い足を組み、こちらを睨み付けていた男性が立ち上がる。

 長身でカジュアルなジャケットの下には白シャツ。胸板が分かるほどで存在感の熱量がハンパない。

 そんな彼が急に甘えた声でかおる君に言葉をかける。


 「かおるぅ~。遅いぞ。お前がいなくて寂しかった・・ん!なんだその腕を組んで親しげな男は?!ま、まさか本当に?!」

 「うるさい。たつみはそこに座ってろ」

 「かおるぅ~いつも言ってるだろ。俺だけにはには優しくしろって」

 「うざい。もう本気で泣くな!あー鼻から鼻水が出てるし。恥ずかしいな」

 「か、かおるぅ~」


 男は本気で泣きながらかおる君に軽々しく扱われた事を抗議している。そういうご関係なのかと思ってしまうが、二人の雰囲気から親密とはちょっと違うのかと思える。


 「たつみが絡んで来るから紹介が遅れたでしょ。えーと改めて隣にいてる彼はロディですぅ」

 「・・・え?!ぇええ?!」


 な、なんでかおる君が僕のゲームのキャラ名なんて知ってるんだ?!

 そ、それに僕のキャラ名なんかこんな所で出しても、それを知ってる人なんているはずが。

 驚いた顔をしてかおる君を見つめるが、ニヤァっと笑顔を向けてくるだけで説明する気はなさそうたった。

 さっきまで僕とかおる君の関係性に懐疑的な顔をしていた、たつみ君が何か納得したように言う。


 「あー今日大事な話と、紹介したいヤツがいるっていうから俺はてっきり゛恋人゛を連れて着たかなと思ったじゃねーか。ふぅー危うく゛ロディ゛をぼこぼこにする所だったわ」


 何故かたつみ君が゛ロディ゛を知っている口振りで元の席に戻る。

 どういう事か全く理解出来ていない僕はどうしていいのか分からない。

 ソファは8人掛と5人掛に別れており、目の前にいるかおる君の知り合いは男女合わせて13人。比率は男子5で女子が8となっている。

 男子はみんな僕より歳上っぽい。女子のほうは顔から見る年齢的にまばらな気がする。


 「か、かおる君これって・・?」


 かおる君の耳に口を近づけ小声で話すと、男子全員から鋭い視線を放ち僕を睨みつけてくる。


 「もう、ちょっとたっくんくすぐったいよ」


 と小声で言いながら嬉しそうに反応するかおる君の言葉に男性陣の視線は殺気が混じり始めギラギラとさらに鋭さを増す。

 なにこれ?こいつら全員、かおる君狙いなのか?

 まぁ、人間愛は否定しないが僕はそっち系ではないので本気で睨むのをやめて下さい。怖いから。


 「かおるぅ、そういえばさっき小声でロディの事を゛たっくん゛って呼んでたけどそいつ昔いたあの゛ただみち゛じゃねーか?」


 ゛小声゛でかおる君が言った言葉が聞こえてるってどんなけ耳がいいんだこの人。

 しかし、たつみ君が投げてきた質問は聞き捨てならなかった。

 何故なら僕の事を知っているようだったからだ。

 おちゃらけた雰囲気から、急に胃に何か重くのしかかってくる。

 あいつらの知り合いでは無さそうだが、直接的ではなくても間接的な知り合いと言う事もあり得る。


 「その辺も含めて説明しようと思ってたけど、たつみが思い出してくれた見たいで、説明する手間が省けたかな。そう。小学校の時に一緒にいた上杉則道君。今は私のかれしーです」

 「おぃぃぃ~!か、かおるくん?!」

 「か、かおるぅう~~!?」


 かおる君の爆弾発言に゛全員゛が僕に注目する。

 さらりと重要な部分も含まれていたような気がするが今はそれどころじゃない。

 男性陣が全員立ち上がり、アニメだったら、絶対にこめかみに青筋を立ててるだろうなという顔でこちらに近づいてくる。

 かおる君はお茶目な感じで言ったかも知れないが、かなりアウトな嘘をつくから男性陣の目が殺気と充血した眼差しでガン見されてるじゃないですか!

 それになんか一部女性陣からも非難の目で見られた気がするんですけど。

 僕はさっきまで抱えていた漠然とした不安から別の今すぐにヤバそうな懸案事項が出来たことでどうしよぉ?!とオロオロした気持ちになる。

 目の前に迫ってくる男性陣に゛もうウソウソ゛と言いながらかおる君が彼らを押し返す。


 「もう、あんたらすぐに本気にしすぎ。私とロディが何かあるわけないでしょ。大丈夫だから。さて冗談はこの辺にして、本題に入ろうか。ロディはあそこに座って」


 かおる君が冗談と言った事で、一旦は男性陣の殺気が和らぐが違う危機が訪れる。

 しかし、かおる君が指差した場所は、なんと女性陣のソファだった。


 「ちょ、かおる君。無理だって。女の子の中に混じって座るなんて。しかもすでにぎゅーぎゅーだし」


 8人掛けソファに体が小さいとは言え8人全員座っていたら空きなんてあるはずもない。


 「じゃあっちの怖そうなお兄さん達の所に座る?」


 さっきの一件があったせいで、ギラギラした眼差しを向けられ、ヤバそうな雰囲気が出ており座るにはかなりの勇気がいる。

 同じ勇気を使うなら女性陣の中に行きたい。


 「女性陣のソファがいいです」

 「正直でよろしい。マディア。こっちに来て私の隣の椅子に座って、そこの場所をあけてもらっていい?」

 「イエス。マスター」


 マディアと呼ばれた女性がかおる君の所にやってくる。

 ってマディアさんと言えば僕がやってるゲームのサブギルドマスターの名前だ。


 (これってもしかして・・・オフ会?)


 マディアさんの開いた場所に僕が移動する。そこはソファのど真ん中で左右に可愛い女の子が座っている。

 一人は綺麗なストレートの黒髪の女の子で、何処か゛例の彼女゛を思い出してしまう。

 もう一人は黒ベースのフリルが一杯付いたゴスロリ女の子だった。

 色は徹底しているのか口紅、アイシャドウ、全てが黒で統一されている。

 しかし、変かと言えばそうでもなく彼女によく似合っていた。

 左右の女の子に聞こえるか聞こえないか程度のボリュームでボソボソと失礼しますと声をかけながら肩をすくめて座ろうとソファに向かって正面を見たときお尻を捻られたらしく、鈍い痛みが走る。


 「痛い!ちょっ何するんですか?!」


 振り返り、ゴスロリの女の子を見る。

 捻ってきた手がまだ、僕のお尻の辺りに合ったので彼女が犯人だと思われる。

 そして真顔で返答される。


 「積年の恨みをはらした」

 「はぁ?」


 彼女の言葉が全くなんの事が分からなかったがかおる君に早く座ってと言われて、お尻をさすりながら理不尽な気分になりつつ席に座る。

 初めて会った女の子にお尻を捻られる理由なんて思い付く訳もなく、もやもやした気分で柔らかいソファに腰をつける。

 今度は捻られる事はなかったが、左に座っているさっきのゴスロリの女の子はまだムスッとしている。

 さらにゴスロリの彼女だけならまだ僕に何かよく分からないけど恨み事があるようでまだしも、右に座るストレートの髪の女の子も同じような感じように顔に不機嫌ですと書かれているような表情をしている。

 僕の体臭が気になるのかなと思ったりするが、今日は外に出るために綺麗に体を洗ってきたし、かおる君に男の子は漂う香りに気をつけるべきだと、香りのいいボディローションをもらい、塗ってあげようか?(目が物凄く怪しかった)と聞かれたので丁寧にお断りさせてもらった。

 今日はそれも使って万全な香り対策をしている。

 体臭は抜かりないはずだ。

 

 (じゃあなんで、この子達からこんなに不機嫌な空気が出てるんだ?)

 

 そんな僕の表情から心の声を読み取ったのか、ちらちら僕の顔のを見ていた2人から同じタイミングで呟かれる。


 「鼻の下が伸びていた」

 「鼻の下が伸びていたから」


 左右から綺麗にハモられて、一瞬何を言ったのか理解出来ない。


 (えーと。僕の鼻の下が伸びていた??一体なんの事?)


 少し考えて、あ!と声をつい出してしまい、視線が集中して恥ずかしくて、下を向き考える。

 思い当たる事がある。さっきメイドさんの胸の谷間に目がいった時の話かも知れない。

 けど僕があれで鼻の下を伸ばしただけでなんでお尻を捻られ、左右の女の子に怒られるのか、いまいち理解出来ない。

 仮説を立てるなら彼女達は僕に・・。


 「・いてる?たっくん聞いてる?!」


 思考の森に迷い混んでいた僕は意識を深く集中していたようで、名前を呼ばれた事ではぁ!と現実に帰ってくる。

 そして目の前でぷりぷり怒った顔をしているかおる君と目があう。

 何故か怒っているのにかおる君が可愛いく見えて、ついいらない言葉が真顔で口から出てしまった。


 「怒ってる顔、可愛いですよ」

 「っ?!も、もうバカロディ。と、とりあえず、大事な話をするから聞いてよね」


 かおる君の赤くなった顔に、あ、やってしまったと後悔するも、至るところから殺気が沸き立ってしまって冷や汗が出てくる。

 引きこもりが長かったせいで独り言が増えて、つい今回も思った事が口に出てしまったみたいだ。

 やらかした感満載の雰囲気の中で僕の太ももに2つの痛みが走る。

 左右から女の子につねられているのだ。

 もうかおる君が話をし始めているので痛みを我慢してなんとか声を出さず、あごに梅干し種のような皺を作りながら涙目で頑張っている。

 

 「さて今日みんなに来てもらったのはギルドのオフ会という名目もあったんだけど、それとは別に聞いてもらいたい事があったの」

 

 まさかここで、かおる君は僕の事を話し始めるのかと思ったが、話の内容が考えていたのとは違った。

 

 「いま、悪鬼が生贄に選んだ幼気いたいけな少女を地獄へ陥れようとしているの」

 「悪鬼?幼気な少女?かおる何の話なんだ?ゲームかリアルの話か?」

 

 誰もが頭に?マークを浮かべていた。

 その中で反応した、たつみ君がかおる君に尋ねる。

 どうもここにいるメンバーも今から話す内容は聞いていないようだった。

 

 「リアルの話だよ。ちょっと待ってね。画面にその悪鬼の顔を映すから」

 

 かおる君が大きめのレザーバックからタブレットを取り出すと、部屋に備え付けられている大型ディスプレイに接続する。

 そのモニターに映されたのは見たくもない”あいつ”の顔だった。

 幸せそうに以前に比べてふっくらとした面を見ていると急に吐き気が込みあがってくる。

 気持ち悪くなったことで青くなった顔の僕に左右の少女達は、さっきまで怒っていたこと忘れたように心配してくれる。

 

 「ロディ大丈夫?顔色が真っ青だよ?」

 「お水」

 「ありがとう」

 

 水を入れたコップを受け取る時に、ゴスロリ少女の手に一瞬触れる。

 

 (柔らかい。ちょっとしか触れてないのに女の子の手ってこんなに柔らかい物なんだ)

 

 初めて知った真実に驚きが生まれる。ほんの少し触れただけだ。それなのに暖か味も感じたし、柔らかさも感じた。

 人生の中で女の子の手に触れるシーンなんて記憶にあるのは保育園以来だろう。

 小、中、高とあまり記憶にない・・。

 なんて寂しい人生なんだ。僕は人生の一番の楽しみは女の子との恋愛にある。

 引きこもりで膨れ上がった想像力の中、何度”理想の女の子”とデートに出かけたかわからない。

 そんな寂しい妄想を抱き小さな幸せを感じる僕と、今ディスプレイに映る”あいつ”はそれ以上の事をリアルな女性にしているはずだ。

 気持ち悪さより、次に湧き上がってきた感情は”悔しさと怒り”だった。

 この感情の渦は羨ましさが半分以上で出来ているで、自分勝手な気持ちといえるだろう。

 しかし、もしあの一件がなければ僕も、女の子に触れる機会がもっと増えていたかもしれない。

 

 (だめだ。こんなこと考えちゃいけない)

 

 ”かもしれない”は考えてはいけないと引きこもりを始めた時に決めた僕のルールだ。

 停滞して一歩も動けない僕がifもしもを考えるのは卑怯だ。どんな現実でも受け入れて前に進む人間にこそ道を切り開く事ができると僕は思っている。

 沸き立つ負の感情を自分ルールを思い出して、少しずつ抑えていく。

 

 (僕も道を切り開く為の一歩を踏み出す為ここに来たんだ。あいつの顔を見たぐらいで感情がコントロール出来なくなってどうするんだよ)

 

 水を飲みほして一息ついた所で、たつみ君がディスプレイを指しながら首をかしげる。

 

 「こいつは、あれじゃねーか。巷でちょっといい気になってるおぼっちゃんの・・・。なんだっけ?」

 「早瀬はやせ哲哉てつやだ。お前は昔から興味のない奴の名前は憶えないな」

 「おぉ!そんな名前だった気がする。興味のねー奴の名前なんて覚えるだけ俺の脳内メモリが無駄になるじゃねーか。それよりまぁ見てくれからして、悪党顔してるなこいつ」

 

 たつみ君とその横にいるインテリ眼鏡の男性の会話に、一同がクスクスと笑いが漏れる。

 笑い声が収まるとかおる君が説明を始める。

 

 「こいつは、狙っていた女の子にフラれて腹いせをする為に、彼女との卑猥な動画を撮って動画サイトにアップしようとしているの」

 「それって完全に犯罪じゃーねーかよ」

 「そう。犯罪は罪を償えば消えてしまうけど、一度動画サイトにアップされた動画は消すことは出来ないの・・・。マスターテープがなくなってもコピーが出回る事になり、彼女の人生はどうなるかわからない。彼女の周りにいい人達だけがいるわけではないし、未来にそれを悪用して彼女に迫る人も出てくるかもしれない」

 「で、どうするんだよ?やるのか?」

 

 たつみ君の顔がやる=殺すのかと聞いている顔になる。目がマジだ。

 この人、シ○ィハンターだったの?

 

 「3日後に彼らが開くサークルの飲み会があるらしいの。彼女もそれに強制参加させられるみたい。それまでに彼らが”今”行っている不正を掴んで置きたいの」

 「こいつら今不正をしているのか?」

 「あげればきりがないわね。議員である早瀬の親が彼らから若い女性を買うために大金が流れてたり、悪質な動画を動画サイトに投稿してポイントを稼いでお金を荒稼ぎしていたり。オレオレ詐欺的な事もやってるみたいよ」

 「証拠は?」

 

 かおる君はタブレットを操作すると、何枚かの写真を表示させる。

 そこに映し出されたのは、60代のおっさんと若い女性がホテルに入っていく所を捉えた写真と、動画サイトにアップされている女性に卑猥な行為をさせている悪質な動画。

 

 「ロディみんなにあれを見せるけどいい?」

 

 ここの流れだと、僕の話が出てもおかしくはない。

 これだけの人数を前にあれを見せるのかという思いと、あれを見て僕の事を軽蔑しないかという不安があった。

 

 「ロディ私はあなたを信じてる」

 「私も信じています」

 

 左右の女の子から、信じていると告げられ僕はかおる君にうなずく。

 タブレットを操作して、動画が始まる。

 じっくり見たのはこれが初めてだ。

 なんだろう。確かに僕が映っているのだが、自分じゃない違う人間が映し出されている感覚になる。

 内容は、うまく加工されているが詳細を知っている人物が見れば穴だらけだ。

 場面のつなぎがうまくない。

 最後まで見終わり、シーンとした空気が流れる。

 そんな沈黙を気にした様子もなく、たつみ君が声をかけてくる。

 

 「お前も変な奴にかかわって大変だな」

 「え?」

 

 周りの反応からして、これを見たのはかおる君を除いてみんな初めてなはずだ。

 初見で見れば僕は悪者にしか見れない。

 

 「お前って意外と頭が回らない奴なのか?かおるがお前についているって事はお前は”白”なんだよ」

 「けどそれって・・・」

 「例え黒であったとしても、かおるが味方している限り”白”になるんだよ。そして俺らが味方に付く。な。ただみち」

 

 昔、この言葉を言った人物を思い出した。

 

 「たつにいなのか?」

 「あん?今気が付いたのかよ。相変わらずどっかぬけてんな」

 

 小学生の時、地域のちびっこが集まってかおる君のグループが出来上がっていた。そこのナンバー2がたつにいだった。

 どんな場面でもかおる君が手助けした奴は、白になるといってほかの勢力と喧嘩をしたりもした。

 たつにいを含め5天王と呼ばれる5人の幹部を従え、かおる君は頂点に立って自分の正義を貫いた。

 例え大人であっても悪と戦っていた記憶がある。

 そしてよく見れば男性陣全員あの頃の面影がある。

 

 「かおる5天王!?」

 「懐かしいな。その名前」

 

 たつみ君以外の4人から改めて挨拶される。

 ひろにい(インテリ眼鏡)、しげっち(カレー大好き)、ささの君(普通の人)、まさきん(子供のころから筋肉にあこがれていた武闘派)。

 懐かしさと安心感から涙が出てきた。

 

 「けど、かおるぅ~水くせ~よ。ロディがただみちって教えてくれてもいいじゃねーかよ」

 「感動の再会を演出といいたいけど、私も知ったのは最近なんだよ」

 「そうなのか。けどどうやって知ったんだよ?さっきからかおるぅなんか隠しているだろ?」

 「まぁ、それはおいおいね。話を戻すけど今見せた証拠は実は”証拠”にならないの」

 「どういうことだ?そのまま使えばいいじゃね~か」

 「ちょっとしたツテを頼ってね入手したんだけど、うまくいえないんだけど、もうすぐこの証拠ファイルが消えてしまうの」

 「なんだそりゃ?」

 「ごめん。それはこの件が解決したらゆっくり話すから、今は”そう”理解しておいて。それで別の証拠写真が必要になってね」

 「なるほど。それで僕たちの出番なんですね」

 

 ささの君が会話に交じるが、普通の彼は声もほかのメンバーに比べるとインパクトが弱い。なんでこの人5天王なんだろう?

 ささの君の話をくみ取ってかおる君が指針を話す。

 

 「抑えるのは、早瀬父の援助交際写真と、女の子を無理やり卑猥な事をさせようとする動画を撮っている現場を押さえる事。それと、うちのXXX大学の校長との金のつながり」

 「あの禿げ頭。そんな事してたのか」

 「うちの大学って・・・。それって僕が通っていた大学。かおる君もXXX大学だったの?!」

 「あれいってなかった?」

 「言ってないよ!!」

 

 にやぁ~と不敵な笑みを浮かべるかおる君がどんどん昔に見たいたずらをする前の顔に見えてくる。

 

 「さぁみんな手伝ってくれる?」

 「「我がギルド”ミッションこんぷりーと”のギルドマスターの指令に否はなし!」」

 

 そう、うちのギルドでギルドマスター:ハゲマゲドンに逆らえる人なんていないのだ。

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