第4ミッション 見守ってくれている人に顔を向けて挨拶を 後編
今回の話に性的表現、イジメ的表現が含まれております。
苦手な方はご遠慮ください。
そうあれは1年前の話で思い出すと吐き気がするが、僕はここから始めなければ、前に進めない気がする。
当時、僕は大学の映画研究会に所属していた。
「1年生だけで映画制作を行ってもらう。監督志望、自分の作品を撮りたいヤツは皆の前でプレゼンテーションを行ってもらって投票によってどの内容にするか決めてもらうから。初めは戸惑いもあるがやり遂げた時の・・・」
夏に入る前に3年生の先輩達から1年生だけで映画を撮れと言われて映画のプレゼンテーションをやることになった。
準備期間は一週間。
監督候補は前もってエントリーすることになっており、四人名乗りをあげた。
その中に僕も入っている。
このときは恐いもの知らずで目立つことが好きだった。
誰もが同じ準備期間が与えられたのだが、今思うと僕はよく先輩達について話を聞いたりしていたので他の候補者から先輩達に、先にこの話を聞かされていたと思われていても仕方ない。
本当は全くそんな事なかったのだが。
一週間後、小会議室に3年生と1年生の部員全員が集まる。
まずトップバッターは茶髪にロン毛。日焼けサロンに通っていて、いかにもチャラ男感満載の早瀬哲哉だった。
普段サークルに顔を出すことがなく、都市部の街をふらつき業界関係者のスカウトから声がかかるのを待っていると言う話を聞いた事がある。
しかし、こんなヤツは正直何処にでもいる。
何か輝く物を持っているようには僕には見えなかった。
そんなヤツが始めたプレゼンは何の資料も用意せず、ただ自分の考えてきたお粗末な設定を、モミアゲをいじりながら。
「俺の~考えでは~」
何を説明するにも、始めにこの台詞が入る。
こんな説明をされているのに、みんな黙って聞いている。
何故か?
大学という所は大人が集まり勉学に励む場所なのでこんなヤツは即刻退場させられても文句は出ないはずなのだが、こいつの親がどうも権力者らしい。
”そんな所”だけ大人(賢く)になっても仕方ないのだが、僕も退場しろと言えないので人の事は言えない。
興味もないので、どこの権力者かなんて知ったことではないし正直関わりたくない。
ヤツは意気揚々と持ち時間10分の所を30分も使い、何処かで見てきたような内容、それも話が纏まっておらずストーリーにもなっていない設定(自分ではストーリーを語っているつもり)ばかり聞かせ、CGを駆使しないと出来ないような演出、最後まで何がしたいのか分からない内容を垂れ流してくれた。
最後に細部について質問されると、反応されたのが嬉しいのか、もったいぶった言い方ではぐらかし、さらに突っ込まれるとそんなの皆で決めればいいんじゃね~の返し。で極めつけが監督兼主役。
映画制作を初めてやる奴の典型的なダメパターンだった。
まぁ、監督兼主役がダメな訳ではないが正直初めて作る作品で、こんなヤツには無理だと断言出来る。
後二人がやりにくそうに続き、ヤツのお陰で会議室を使用出来る時間が押してしまい、ほとんど説明しきれないままプレゼンが終わる。
だけど、しっかりとした資料を作り込んできて、資料を読んでいるだけでもストーリーに引き込まれる内容だった。
もう少しプレゼンをする時間があれば彼らの作品を作る事になっていたかも知れないが、それでも僕には勝算があった。
僕も知人を頼りイラスト付きの資料を用意。
プレゼンで用意したストーリー内容は上映時間10分と短いと思われる中に゛失恋゛をメインテーマにヒロインと一部キャストの体だけが上映されるサイレントメインムービーだった。
「10分短けーな!ちん○も短いんじゃねー!」
ギャハハハハと大声で笑い、下品な事をいいながら、馬鹿じゃねーのと追加で聞こえくるが、そこは無視してプレゼンを進める。
一部の人間(チャラ男とその仲間達)には理解出来ない内容らしいが大部分では唸る声が聞こえる。
サイレントムービーは演技する役者の難易度は高いが、そこもしっかりと考えてあるので、説明を入れて回りを納得させる。
ヒロイン以外のキャストは手だけと身体だけで顔は映さないので役者に撮影日、都合がつかなければ代役がきく。
さらにモノクロ映画で、初めてカメラを持つカメラマンでも、少々甘く撮れてもそれが逆に味になる。
そう、撮影スタッフを目指す部員に取って手始めにするには、この辺りからかなと思われる内容であり、演出にこだわれば絶対に面白くなると確信していたし、難しい事をやらない分、脚本に専念出来る時間が算出が可能。
サイレントムービーで、声は入れないが実際の撮影中は声を出して演技してもらうので脚本は必要だった。
さらに字幕を入れる予定で、映画らしい雰囲気が部員を引き付ける。
後の三人が持ってきた話は、1時間を超す大作ばかりだったのだ。
投票が行われ僅差の上で僕の映画が採用された。
「ふざけんなよー!あんな奴の映画より俺の話のほうが面白いに決まってんだろ!」
と、チャラ男が叫んでいるが先輩達から何かを言われて黙って壁に八つ当たりしながら文句を垂れつつ消える。
回りから気まずい雰囲気が出るが、先輩達の取りなしで、この後の打ち合わせも兼ねて飲み会が開かれる。
「上杉にはやられたわ。確かに俺らの考えてた話は風呂敷を広げ過ぎかもな。けど次は俺の作品でやるからな!」
今回の監督候補の一人から声をかけられ、色々映画について話をして楽しかった。
それからは撮影に向けて怒濤の忙しさだった。
僕は監督というポジションではなく、どちらかというとプロデューサーに近い位置で、部員全員のスケジュール管理、雑用、撮影経費の管理までこなして、監督、助監督にはプレゼンに参加した二人を採用した。(勿論チャラ男ではない)
脚本もブラッシュアップするために部員から二人を置き、もしもの為に自分もスペア脚本を書いた。
全てが順調に見えていた。実際撮影自体は順調だったのだ。裏で罠が仕掛けられていなければ。
一番難航したのがヒロイン選びだった。
部員から募集したのだが手が上がらなかった。
やりたそうにはするのだが、どうも歯切れが悪い。
そんな時、部員の一人から知人でイメージに合う娘がいるから紹介すると言われて、一度会う事になった。
「星山志帆です」
彼女を見たインパクトは大きかった。
ロングの黒髪で、卵型の顔。大きな瞳、柔らかそうな唇。
そう、天使がいた。
この映画は彼女を撮る為にあるような気がして僕の中で全ての歯車が噛み合った気がした。
それからは撮影に追われ、秋に入る前に何とか撮影を全て終える。
その頃には僕はすっかり彼女に恋をしていた。
撮影の間は彼女と毎日が幸せだったけど、撮影を終え編集作業に入るとぱったり会わなくなった。
凄い寂しさが込み上げてきて、連絡用に聞いていた個人的LINEに何度連絡しようかと思ったか分からない。
だけど何をどう送っていいのか分からず結局憧れだったんだと諦めが先にきて、自然と恋が冷めていった。
「「カンパーイ!!」」
秋の学園祭が終わり大学から少し離れた居酒屋での打ち上げの真っ最中だった。
映画は大成功で幕を閉じた。
見てくれた観覧者から、本当に良かったと声をかけられ、僕は心から満足していた。
表だって話を受けてるのは監督と助監督の二人。
僕は目立つことが好きだが人前に立つと緊張して何も言えなくなってしまう。
プロデューサーとして裏方で何かをやっているほうが距離感的に丁度良かったのかも知れない。テロップに名前が出ない訳ではないし。
そんな事より奇跡が起きた。
僕の隣には今回ヒロインをやって貰った星山志帆が座っていた。僕が座っている席は玄関入って一番左側の席。
つまり隣は彼女だけになる。
あんまりお酒を飲まない僕だったけど、彼女がいるとどうしても緊張してかペースが上がる。
久しぶりにあった彼女は、僕のイメージよりはるかに美人だった。
舞い上がって何を話したか全く覚えていない。
目の前にムスッとしたカメラマンを勤めてくれた、鵜飼千尋が何を自棄になっているのか明らかなオーバーペースでビールを飲んでいた。
「えーでは、そろそろお時間となりましたのでこの辺で二次会にいくヤツ・・」
(もう、そんな時間か。本当に幸せな時間が立つのは早いな)
僕はこの後用事があったので、先に帰ると伝えると、みんなから非難の声が上がる。
「う、上杉。まって、わ、私もかえ・・」
「あ、じゃあ。私も帰ります。上杉君送ってくれる?」
鵜飼千尋が何かを言ってきたが、その声に被せるように星山志帆が寄り添ってきて、僕の中で思考が固まる。
(え?ど、どういう事?!)
色んな所からブーイングが上がるが、星山志帆が僕の腕に腕を絡ませてお疲れ様と、タクシーを止める。
腕に当たる柔らかい感触に僕の思考は停止。
強引に腕を引っ張られタクシーに乗り込む。
そんな時ふと、後部座席の窓から泣きそうな鵜飼千尋の顔が見えた。
(あいつなんであんな顔。何だろ。凄い罪悪感が)
タクシーに乗り込んで会話もなく、彼女が先に運転手に伝えた場所へと向かっているようだった。
「あ、こっちじゃ」
てっきり駅に向かっていると思っていたがそうではないらしい。
「もう、女に恥をかかせるんですか?」
(は、は、は、恥って何?!)
タクシーが着いた場所は裏道のどこにでもあるような少し古めのラブホテルの前だった。
(う、ウソ。マジ?!ちょ、ちょー!)
タクシーの中で固まってると彼女に手を引っ張られ、そのまま中へ。
フロントを素通りして、エレベーターに乗り込む。
「上杉君の事が気になっていて~」
色々彼女が話しかけてくるが全く頭に入って来ない。
完全に混乱してる僕はどうにも出来なくて、ドキドキするしかなかった。
部屋に着き彼女が鍵を開け扉を開く。
ドラマで見るような大きなベッドが目の前にあった。
リアルな臭い、感触、そしてそういう事を今からするという雰囲気。
「じゃあ、先にシャワーして欲しいんだけど」
彼女の何気ない言葉に、体がビクっと反応する。
「シャ、シャワー?!」
「綺麗になってから。ね。」
彼女の何か物凄い手慣れてる感があって、僕のイメージが一気に崩れるがそれ以上の期待値が大きすぎて、彼女のなすがままに脱衣場に向かう。
(こ、こんな初体験って何か違う気がするんだけど・・・)
全裸になって、下を向くとすでに息子さんは臨戦態勢だった。
(はぁ~。僕ってヤツは)
シャワーに打たれながら、体を洗っていると最後に見た悲しそうな鵜飼千尋の顔が急に浮かんでくる。
(そう言えば、鵜飼のヤツ何か言いたそうにしてたな)
これから別の女性と事をなそうとしているのに、鵜飼千尋の事ばかり考えてしまう。
けどここまできて、やめれるほど僕は大人じゃなかった。
シャワー室から出てかけてあったバスローブに手を伸ばす。
部屋に戻ると、真っ暗だった。
彼女の演出で雰囲気を出しているのかと思って声をかけてみる。
「あ、あの~」
パンパンパン!
パーティー用のクラッカーが鳴り響き、部屋に明かりがつけられる。
目の前から五人ぐらいの男集団が入ってくる。
「アァーーイ!どっきり大成功ーー!」
バスローブを着た僕は訳が分からず方針状態だった。
そんな僕に肩に腕を回し、魚臭い息を吐きながら目の前の仲間が持つカメラに向かってピースをしている早瀬哲哉がいる。
胸の辺りが締め付けられた気分になり、目に映る全てが気持ち悪かった。
(あぁ僕は、こいつに踊らされていたみたいだな)
はめられた事を冷静に受け止めている僕と、そんな自分が許せない僕がいる。
「先輩にさぁ~、お前の作品は面白くない。悔しかったら面白い作品を考えてこいって言われたわけ。で志帆に話をしたらさ~ドッキリを仕掛けてみればって話になって。今回のどっきりを考えてもらって、お前が面白くフラれる瞬間を撮ってたのよ~」
何も言えず震えている僕に、凄いゲスの表情を浮かべながら説明してくれた。
ずっと口が臭かった覚えしかない。
「まぁ童貞はそこにあるAVでも見てそのお粗末なマ○でもかいてろ。な?ギャハハハハ。あ、最後の仕上げに、撮った俺の作品をお前の目の前で動画サイトにアップしてやるよ」
「や、やめろ!」
早瀬の肩を掴もうと、手を伸ばしたけど二人の仲間に捕まり、腹に膝を入れられる。
「ぐ!」
「ふはははは。聞いたか?ぐっ!だって。マジで笑える」
「哲哉ちょっとやり過ぎ。あぁもう、この後このキモオタをフッて終りだったのに、こんな暴力シーン流せるわけないじゃない」
「まぁ。編集すつもりだったし。いいんじゃね~」
僕がおなかを抑えながら星山志帆を見る。
「何見てるのよ。キモオタが。あんたのような人種嫌いなんだよね。人の事考えないで電車の中で、大声で話とかしてすっごい迷惑かけるじゃない?」
それはオタクでなくても、お前らだって同じだ。と言い返せなかった。
「だから今回の件ですっきりしたわ。もう本当に童貞キモオタはイクジがなくて、今回の動画撮るのに苦労したわ。じゃあね。キモオタ」
部屋を出ていく集団に何も言い返せず、ただ虚しさだけが僕の中に残った。
失恋した辛さとかではない。
だって僕は星山志帆を自分の性処理の道具としか見てなかった。
すでに冷め切っていた恋心は、飲み屋で彼女を見かけても蘇る事はなく、ただ残滓が肉の欲求に負けてしまったのだ。
「うががががあーーーー!!」
ベットに両手を叩きつける。何度も何度も。
こんな時のために、格闘技をやっておけばと思った。しかし、5人も相手にして無傷でいられるはずがない。アニメじゃないんだし、こんな所に来て女性を性処理にしようとするヒーローなんて嫌だ。
ホテルを出るとすでに空が明るくなっていた。
それから三日何事もなく大学へ通い、普通の生活を送っていたのだが、急に周りの目が僕を軽蔑するような視線に変わる。
(なんなんだ?一体?)
そして、なぜか校長室に呼び出しを受けて向かうと、異様な雰囲気が漂っていた。
「まぁ座りたまえ。上杉君」
ソファに腰をかけると、校長から急に話が切り出される。
「例の動画の内容は本当の事かね?」
「例の動画?何の事です?」
「とぼけるのかね?まぁいい。これを見た前」
校長から見せられた動画の内容は、映画オタクの僕がヒロイン役の星山志帆に恋をして1度告白するも撃沈。それでも諦めきれない僕はLINEで何度も彼女を食事に誘うように連絡をし、挙句の果てには打ち上げの飲み屋で強引に自分の横に座らせ、嫌がる彼女にお酌までさせた挙句にラブホテルに連れ込むも彼女を助けにきた仲間に成敗されるという内容だった。
「ノンフィクション映画とあるがこれはどういう事かね?」
「知りませんよ!なんなんですかこの動画。全部嘘に決まってるじゃないですか!!」
「・・・この事を本校ではかなり重く見ていてね。君には申し訳ないがほとぼりが冷めるまで停学となってもらう事が決まっているんだよ」
「はぁ!?そんな横暴が許されるのが大学なんですか!?」
「最近マスコミがうるさくてね。事が公になる事を本校としては避けたいんだよ」
大学側はこの動画が真実かどうかは関係なく、この事をマスコミに問題視されて面倒になる前に何らかの処分を下したという実績を作りたかったようだった。
真実を曲げられ個人的に否定し続けるのには限界があった。
結果、大学から停学処分を受けた僕は、停学明けに休学を申請。
大人の腐った世界を見た僕は外に出るのが怖くなり、引きこもりとなった。
これが僕が隠してきた、引きこもりの全部である。
今は自室で、カオル君と僕の引きこもりの理由について事実確認をしていた。
「私が調査した内容とほぼ一緒だった。タッくんの事を動画で知って、こちらで調査を開始したんだけど、色々とひどいものよね」
「ひどいってどういう?」
「かなり裏で情報が操作されていたわ。たぶん校長もグルね」
「あの時もそうでしたけど、僕個人ではもうどうしようもなかったんです。動画を見た人たちはあれが真実だと思っているはずです」
「最近そうでもなくなってきてるの」
カオル君が告げた意外な一言に、下を向いていた僕は顔を上げる。
「え?」
「あれから、もう2本同じような内容で、動画があいつらに撮られてるの」
「どういう事ですか?」
「”夏色の思い出”あなたが作った作品。あれ凄く評判が良くてね。学祭終わっても上映されていたんだよ。でその監督と助監督の2人が目立つようになってね」
「あいつらに狙われたと?」
「そう。2人もはめられて、ハニートラップに引っかかって、普通のデートとか繰り返してた内容を、女性を強姦という内容にすり替えられて動画をアップされたの。けど同じような内容を続けた事もあってヤラセだという意見が増えてきてね」
「話の流れが変わって来たんですね」
カオル君が頷き、溜息をつく。
「はぁ。あいつらバカだから一回ウケると同じ内容でしか勝負できないのよ。でここからが本題。タッくん今がチャンスなの。戦う?それとも逃げる?」
「戦うってどうやって?」
「私に任せてくれたら大丈夫。けどあなたが外に出ない事には始まらないの」
「・・・。僕は人間不信になってしまいました。けどもう一度カオル君を信じてみたいです」
「あぁもう男の子の顔しちゃって。子宮があったらうずいちゃうシーンだったわ。今の顔もう一回やって。スマホの壁紙にしてもいい?」
「だ、ダメに決まってるじゃないですか!」
いじわるそうに笑みを浮かべるカオル君から、後日ある場所に来て欲しいと言われる。
なんなら迎えに来てくれると言ってくれたが、頑張っていきますと答えた。
本当は凄く怖い。
世間に僕はどう認知されているか想像するだけで震えが来る。
全国、いや全世界に配信されている動画だ。
よく見れば穴のある内容だったけど、そんなのは初見の人から見ればわかる話ではない。
顔にペイントをしていこうか、出店のお面を付けていこうかなど迷う。
僕が取った行動は、伊達メガネにレッグウォーマーを着けての変装だった。
そして今立っている場所はメイド喫茶”ニャンカフェ”の前だった。




