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番外編「本日の閣下」第4話

城の片隅の書庫準備室で、魔王陛下と宰相閣下と書庫室長とその部下が、仲良く机を囲んでお茶しているなど、誰が想像出来るでしょう。

他国の者が見れば、異質な光景だと言うでしょうね。

しかし魔族の上層部ともなると、あまりに長生きな為か、細かいことはどうでも良くなるみたいです。

今の所、贔屓をしているという声も上がっていません。

書庫に回された予算が、今まで通りだからかも知れませんけれどね。

「美味しいですね、このサバンナ」

「チトセ、ハバンナだよ」

「……一文字しか間違ってないじゃないですか」

「チトセ、間違いを指摘されたら、素直に受け止めることが大事ですよ」

「う。はい、室長」

どうやらチトセさんは室長を尊敬しているらしく、彼女の言うことは素直に聞きます。

にこにこ笑いながらチトセさんにちょっかいをお出しになられている陛下をご覧になって、

閣下はかすかに眉間のしわが薄れています。

何だかんだ仰っても、閣下は陛下の幸せを一番願っているのです。

室長もじゃれあっているように見える陛下とチトセさんを、温かい目で見守っています。

「いつも申していることですけど、いちいちこちらまで来られなくてもいいんですよ。休憩時間も忙しくて、どうせお相手出来ないんですから」

遠回しかつ丁寧に、来られると迷惑であるという意味合いを込めて、チトセさんが言います。

それに対して陛下は、子どものように口を尖らせて返されました。

「また敬語になって。使わなくていいって言っているのに。僕はチトセに会いたいから来ているだけだよ? 邪魔しないように大人しく部屋の隅から、チトセを見ているじゃないか。それでも駄目なの?」

「駄目です。気になります」

天下の魔王陛下が部屋の片隅で膝を抱えて座りながら、じぃっとこちらをご覧になっている様子を想像してみてください。気にするなと言われても、ものすご〜く気になりますよね?

「だって僕から会いに行かないと、チトセは僕の所に来てくれないよね」

「行く必要がありませんからね」

「会いたいと思わない?」

「は? 誰にですか?」

「僕に」

にっこりとお笑いになる陛下に、チトセさんもにっこりと笑い返して言いました。

「思いません」

「チトセのいけず」

「……抱きつかないでいただけませんか? へ・い・か?」

「反応が冷たい……」

隣の席のチトセさんを抱きしめられたまま、陛下は意気消沈してらっしゃいます。

チトセさんはと言いますと、そんな陛下を無視して、普通にハバンナを食べています。

まともに相手をすると余計に疲れるから、とはチトセさんの談です。

「あらあら、仲良しさんねぇ」

「室長、これのどこが仲良しに見えるんですか?」

ウンザリした声を上げるチトセさん。

「見えるわよ。そう思いませんか? 閣下」

「いや……それは……何とも言えんな……」

ふふと笑いながら同意を求める室長と、同意すんじゃねぇぞと目で訴えるチトセさん、チトセさんの首筋に顔を埋めつつ、横目で圧力をかける陛下に挟まれて、閣下は適当にお茶を濁しました。

どちらに転んでも、面倒になることは明白ですからね。

まぁ、大体、こんな感じで毎日のお茶会は開かれているのです。


夕餉を終えた閣下は、日記に今日あったことを、つらつらとお書きになります。

初めて城に上がった時からつけてらっしゃるので、すでにその冊数は数百冊に及んでいます。

その一頁、一頁に、思い出がたくさん詰まっているのです。

時折その日記を読み返して、あぁ、そんなこともあったのだなぁ、と懐かしく思われます。

特にチトセさんが来た辺りから、賑やかな出来事が続いています。

心労も多いですが、楽しいこと、嬉しいこともまた多いのです。

日記を書き終えた閣下は、明日の仕込みをして、ご就寝なさいます。

今日も寂しい一人寝です。

お休みなさいませ、閣下。

どうぞ、よい夢を。

そしてまた明日一日、頑張ってくださいましね。


さて、閣下の一日はいかがでしたでしょうか?

意外と普通?

まぁ、人生なんてそんなものですよ。

あまり劇的なものを求め過ぎると、目先の幸せを逃してしまいますからね。

皆さんもご注意ください。

そんな。余計なお世話だなんて仰らずに。ね?

そして毎度のご注意ですが、閣下他の心の声などは、わたくしたちの想像に過ぎません。

本心とは著しくことなる場合もございます。そのことをしっかりとご留意ください。

今日の「本日の閣下」は、わたくし、『敬愛する閣下を温かい目で見守り続ける会』、会員番号一〇七、シュパンネット=タカタがお送り致しました。

明日は会員番号二八六、ベルヘゾン=ツーハンがお送りします。

お楽しみに!(大嘘)

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