第十二話:遅延結界と、途切れた通信
第十二話です!
「私の力があれば大丈夫」――そんな慢心が、最悪の事態を引き起こすことに。
敵の冷徹な分断作戦により、身動きを封じられてしまったアイラ。
遠く離れた生徒会室で仲間たちが襲撃を受ける中、アイラは自らの過ちを痛感することになります。
緊迫の第12話、スタートです!
エントランスに充満するアイラの『絶対凝固』の魔力圧に対し、第一魔導執行部の面々が即座に反応する。
団員たちが腰の魔導短剣や杖に手をかけ、寸分の隙もない扇形の戦闘フォーメーションを展開。
「副長、敵性魔力反応を確認。……迎撃許可を」
レオンは冷徹な眼差しのまま片手をわずかに上げ、部下を制止する。
「待て。……野生動物が牙を剥いた程度で騒ぐな」
はぁ?!ふざけんじゃないわよ!
「野生動物ですって!? こっちは歴としたこの学園の生徒会長なんですけど!」
一触即発の火花が散る中、廊下の奥からペタペタと慌ただしい足音が響き渡る。
「な、何事ですかねぇええええっ!? 生徒会役員が集まって何を騒いでおるのです!」
額に汗を浮かべた教頭(魔法の存在を知らない一般の管理職教員)が、両手をパタパタさせながら割り込んでくる。
やっば……
私は一瞬で「外面の良い優等生モード」に切り替え、魔力圧をスッと消し去る。
「あ、教頭先生! いえ、ちょっと他校の生徒さんが迷子になられていたので、ご案内を――」
一般人の前で魔法騒ぎを起こすわけにはいかないため、リサやタクトも咄嗟に愛想笑いで誤魔化す。
教頭は執行部の黒と金の制服を見て、ペコペコと腰を低くする。
「おや、鷲宮高等学院の皆様でしたか! 事前のご連絡もなくどうされたのですか?」
レオンは教頭を一瞥することすらなく、懐へ指令書を戻しながら私を見据える。
「……なるほど。一般人を盾にした茶番か。田舎学園らしい無様さだ」
……ぐぬぬっ、言ってくれるじゃない!
レオンは踵を返し、踵の音をコツリと鳴らして出口へ歩き出す。
「所詮は法規も知らぬ素人の集まり。期日は明日の正午だ。それまでに全てのデータとアンプルを引き渡さねば、実力行使で排除する」
「……忠告しておく。後悔したくなければ、身の程を知ることだな」
黒と金の集団は乱れのない足並みで去っていき、エントランスには冷たい風だけが吹き抜ける。
私は悔しさに拳を握りしめることしかできなかった。
生徒会室に戻るなり、私は机をバンッと叩いた。
「なんなのアイツら! 身の程知らずだの野生動物だの、言いたい放題言ってくれちゃってさ!」
激昂する私に対し、リサは冷めた紅茶を淹れ直しながら冷静に状況を整理する。
「感情的にならないでください会長。相手は魔法省公認のエリートです。法的な後ろ盾と権限を持っているのは事実ですよ」
ソファの端で腕を組んでいたセナが、珍しく深刻な顔つきで口を開く。
「アンタたち、第一魔導の『執行部』を甘く見すぎてる。アイツらはただの学生じゃない。魔法省の特務局が直々に訓練した、実質的な軍事暗殺・制圧部隊だよ」
「個人の実力もだけど、一番ヤバいのは『徹底した組織戦術』。相手の弱点や魔力特性を事前に完全解析して、逃げ場を塞いでから確実にすり潰すのがアイツらのやり口なの」
ノアも端末の画面をみんなに向けながら頷く。
「僕の方でもログを洗いましたが、彼らの魔力展開速度と暗号解除の精度、プロの特務魔導士レベルっすね……」
そんなこと知ったものか、と私は鼻をフンスと鳴らして胸を張る。
「大丈夫だって! どんな戦術だろうと、近づいて私の『瞬間凝固』で相手の足場ごと凍らせて、右ストレートを一発叩き込めば終わりでしょ!」
この時自分では気付いてなかった。先日の一件が自分の判断を完全に曇らせていることを。
「まあ、会長のパンチは物理法則バグってますからね……」
タクトがあはは……と付け加えながら言う。
「でも会長、相手は私たちの手の内を調べてきているはずよ。力押しだけで通用する相手とは思えないわ」
と、セリアは心配そうに言う。
「ええ、セリアの言う通りです。明日の正午までは下手に動かず、生徒会室の防衛結界を多重展開して篭城戦の構えをとるべきです」
「えー、守りに入るなんてガラじゃないよ。向こうから仕掛けてくるなら、返り討ちにして鼻を明かしてやった方が早いのに!」
この生徒会内の「危機感のズレ」と私の慢心こそが、敵の狙い通りの展開を呼び寄せることになるとは、この時の私は露ほども知らないのであった。
夜が更け、薄暗くなった生徒会室。防衛結界の強化作業を進める中、ノアの監視用サブモニターが赤く激しく明滅し始める。
「……っ! 会長、旧市街の廃倉庫エリアで高濃度の魔力反応を検知しました! この波形……バルトロメウスの『遺留薬物』と完全に一致してます!」
画面には、街の境界付近で脈動する強い魔力シグナルが映し出される。
セリアは画面を覗き込んで言う。
「こんな夜中に……? 誰かが残されたアンプルを持ち出そうとしているのかしら」
チャンスじゃんこんなの!私はソファから跳ね起き、瞳を輝かせる。
「やっぱり! 第一魔導のヤツらが回収する前に、私たちが先に押さえちゃえば勝ちじゃん! 手柄ごと奪って、明日の正午にドヤ顔で突き返してやる!」
飛び出そうとする私の腕を、リサが咄嗟に掴んで引き留める。何するのよ!
「待ってください、会長! タイミングが良すぎます、罠の可能性が高いです! まずはタクトに偵察を――」
「そんな悠長なこと言ってたら、第一魔導に先回りされちゃうよ! 罠なら罠ごと叩き割ればいいだけの話!」
セナも必死に私を止めようとしてくる。
「アイラちゃん、アンタ馬鹿なの!? 一人で行くなんてカモネギもいいとこだよ!」
セナの必死の静止に対しても、私は不敵に笑って親指を立てる。
「平気平気! 私の足なら数分で往復できるし、何かあったら大声で叫ぶから! みんなはここで生徒会室の結界とデータのバックアップをお願い!」
みんな心配しすぎなんだって、私の手にかかればこのくらいなんてことないんだから。
リサの手をすり抜け、私は窓枠を蹴り開けて夜の帳へと身を躍らせる。
空中で不可視の足場を連続展開し、夜風を切り裂きながら旧市街へと一直線にカッ飛んでいく。
一方、生徒会室に残されたリサは、開け放たれた窓から吹き込む冷たい夜風に眉をひそめ、胸のざわつきを抑えられない。
「……嫌な予感がします。ノア、生徒会室の防壁を最大出力に!」
旧市街の廃倉庫。私は割れた天窓から勢いよく着地する。
部屋の中央、台座の上に青白く光る「薬物アンプル」のようなものが置かれている。
「あった! 案外あっさり見つかったじゃ――え?」
手を伸ばした瞬間、アンプルがパシュッと煙を上げて消滅し……残されたのは小型の『魔力増幅ダミー発信機』。
「……ダミー!? おとりだったってこと……!?」
パチン、と倉庫の暗がりから指を鳴らす乾いた音が響く。
倉庫の四隅に配置されていた執行部の魔導士たちが一斉に印を結び、床一面に幾何学模様の黒い魔法陣が浮かび上がる。
空気がねっとりと重く、まるで水飴の中に沈められたように粘度を増していく。
「目標の拘束術式『深層遅延結界』、展開完了」
「くっ……体が重い……!? 空間そのものが引き摺られてる……!?」
空間を蹴って跳ぼうとするが、いつもの爆発的な初速が出ず、動きがスローモーションのように鈍くなる。
暗がりから、通信魔道具を手にしたレオンの幻影(立体映像)が冷淡に浮かび上がる。
「力しか能のない獣を釣るのは容易いな。貴様の『瞬間凝固』による推進力と破壊力は、空間の抵抗値を極限まで引き上げることで無力化できる。……あらかじめ計算通りだ」
「最初から私をおびき出すのが目的だったわけ!? 卑怯な真似を……っ!」
「卑怯? 戦術と言え。……貴様という最大の障害を排除した今、あのがらくた部屋の制圧など数分もかからん」
今___何て________
耳元につけた生徒会専用の小型インカムから、ノアの激しい悲鳴と爆発音がノイズ混じりに響き渡る。
『がはっ……!? か、会長……っ! 結界が……外側から一瞬で突破され……っ!』
『ノア! タクト、セリアを連れて逃げ――きゃああああっ!!』
ドンッ、という激しい破壊音と、何かが砕け散る音のあと、通信がプツリと途絶える。
「リサ!? ノア!? 返事して、みんな……っ!!」
________私のせいだ、私の浅はかな行動のせいでみんなを危険に晒して________!!
目を見開き、顔から完全に血の気が引いたのを感じる。
アイラはお調子者なんですよね……これまで挫折とか経験してこなかったんだろうなって。
だからここで大きな挫折を経験して欲しくて苦しめました(?)
ほら、可哀想って可愛いじゃん?(オタクの妄言)
さてさて生徒会最大のピンチをどう乗り越えるのか……




