第十一話:平和な放課後と、黒と金の来訪者
第十一話です!
平穏を取り戻した学園に、突如として現れた帝国立・鷲宮高等学院の「執行部」。
圧倒的な権限を盾に手柄の引き渡しを迫る彼らに対し、首席会長アイラが一歩前に出る――。
浮かれた日常から一転、一触即発の睨み合いをお楽しみください!
夕暮れの生徒会室。
私は長机に肘をつきご機嫌な笑みを浮かべてる。
だってそりゃぁ……ねぇ……?
「ふふん……思い出すなぁ。あの悪徳局長をワンパンで沈めた私の華麗な跳躍、そして完璧な右ストレート! もはやこの学園どころか、国中の悪党が私を恐れて震え上がってるんじゃない?」
完全に調子に乗っているアイラの頭へ、リサが分厚い予算申請書の角でパシッ!と容赦なくツッコミを入れる。
「いったぁ!? ちょっとリサ、英雄に対する扱いが雑すぎない!?」
「はいはい、偉大な英雄サマ。浮かれてないでこの『旧校舎中庭の破損修繕費』と『第2理科室の薬品補充申請』にサインしてください。あと姿勢が悪いです」
もうリサったらつれないなぁ……ちょっとくらい褒めてくれたっていいじゃん。
ガチャリと生徒会室の扉が開き、両手に紙袋を提げたセナが息を切らして入ってくる。
「はぁ……はぁ……買ってきたわよ! 購買のタイムセール限定『幻の濃厚カスタードシュー』全員分! 階段を転がり落ちそうになりながら死守したんだから、感謝しなさいよね!」
偉そうに胸を張るセナだが、額にはうっすら汗が滲み、制服のネクタイも少し曲がっている。
タクトは手をふりふりして
「あ、セナ先輩おかえりっす〜! さっすが足が速い!」
と言う。
セリアは紅茶を淹れながら
「ふふ、ありがとうセナさん。ちょうど淹れたてのベルガモットティーが入ったところよ」
と微笑む。
ノアは早速シュークリームに食らいつき「シュークリームの糖分、最高です……」
と悦にひたってる。
テーブルを囲み、シュークリームを頬張る一同。
「ん〜〜っ! 美味しい! やっぱり平和な放課後に食べる甘いものは格別ね!」
クリームを口元につけながら無邪気に笑うアイラを見て、セナが呆れ半分、感心半分でため息をつく。
「まったく……魔法省の局長を失脚させた大事件の後だってのに、この部屋だけ緊張感ゼロなんだから。まあ、アンタたちの規格外な強さなら、どんなヤツが攻めてきても大丈夫そうだけどさ」
「でしょ? 私たちの生徒会室は無敵なんだから! どんな悪党が来ようと、私がぜーんぶ返り討ちにしてあげる!」
仲間たちに囲まれ、自分の力に絶対の自信を見せる。
この「無敵の日常がずっと続く」という確信こそが、後の挫折への前兆となることなど知る由もなかった。
ティータイムの和やかな空気を切り裂くように、部屋の魔導インターホンから「ウーッ! ウーッ!」と耳障りな甲高い侵入警告アラームが鳴り響く。
私は口元にクリームを付けたまま目を丸くする。
「な、何事!?また電線綱渡り!?」
リサが顔色を変えて言う。
「違います、これは学園の外門に設置した第一種防衛結界の警報です!」
さっきまでの冗談めかした雰囲気は一転、全員の表情が引き締まる。
ノアがシュークリームをデスクに置き、猛スピードで携帯端末を操作する。
画面に浮かび上がるのは、正門の魔法障壁が『破壊』されたのではなく、信じられない形で『無力化』されたことを示す青いシステムログだった。
「……嘘だろ。正門のセキュリティプロトコルが、最上位の正規アクセスコードで『強制承認』されて突破されてます」
セナが勢いよく立ち上がり叫ぶ。
「はあ!? うちの防衛コードなんて、魔法省の特務局か監査局の上層部しか持ってないはずだよ!?」
タクトが外のドローン映像を見ながら言う。
「しかもこの歩いてくる速度……隠れる気ゼロっすね。堂々と正面突破してきてます」
窓の外から、校舎全体を覆うように重苦しく冷たい魔力圧がじわじわと広がってくる。バルトロメウスのような「暴走した狂気の魔力」ではない。刃物のように研ぎ澄まされ、寸分の乱れもなく統率された、まるで軍隊そのもののような冷徹なプレッシャー。
セリアもティーカップを置いて言う。
「……乱暴な魔獣とはわけが違うわね。極めて洗練された、規律正しい魔導士の集団だわ」
私は口元のクリームを制服の袖でパッパッと拭き取り、瞳に鋭い光を灯す。
「誰だか知らないけど、放課後のスイーツタイムを邪魔するなんていい度胸じゃない。……みんな、正面玄関に行くよ!」
会長の合図とともに、生徒会メンバーが一斉に立ち上がる。
窓の外の夕暮れのグラウンドには、正門を抜けて校舎へと真っ直ぐ進軍してくる「黒い集団」の影が落ちていた。
階段を駆け下りたアイラたちが正面玄関ホールへ踏み込むと、吹き抜けのロビーは冷え切った静寂に包まれていた。
エントランスの重い両開き扉が軋む音を立てて開き、夕日を背にして数名の生徒たちが足並みを揃えて入ってくる。
全員が身に纏うのは、黒を基調に金の刺繍が施された、隙のない軍服調のブレザー。
左胸には魔法省直属の最上位学生機関を示す「特務監査ライセンス」の黄金の鷲の徽章が鈍く光っている。
私の背後に控えていたセナが、その制服と徽章を見た瞬間に息を呑み、小さく後ずさる。
(う、嘘でしょ……!? なんでアイツらがここに……!)
セナは内心そう思いながら数歩下がった。
「セナ、知り合い?」
「知り合いも何も……! 帝国立・鷲宮高等学院の『執行部』だよ! 魔法省のエリート候補生ばかりを集めた、実質的な国の非公式軍事組織……!」
集団の先頭に立つのは、銀髪をオールバックに撫で付け、冷たい灰色の瞳をした長身の少年――執行部副長・レオン。
彼は一歩前に出ると、足元に埃一つ落とさない所作で生徒会メンバーを値踏みするように見渡す。
「……報告にあった通りだな。規律もなければ統率もない、ただの烏合の衆か」
その声には怒りすらなく、道端の石ころを見るような完全な冷淡さが滲んでいる。
タクトが
「うわ、初対面でめちゃくちゃ失礼なヤツっすね〜」
と呑気に言う。
「第一魔導の生徒が、何の権限があって他校の敷地内へ土足で踏み込んできたのですか? 正式な事前通達は受けていませんが」
リサの冷静な問いかけに対し、レオンは懐から魔法省の刻印が押された黒い特務指令書を冷酷に掲げる。
「事前通達など、三流校の貴様らに必要ない。我々は魔法省直属の特務部隊だ」
「貴様らが先日、分不相応にも首を突っ込んだバルトロメウスの事件……その『未回収の研究データ』および『遺留薬物アンプル』の押収権限は、現時刻をもって我々執行部へ完全移管された」
傲岸不遜な態度で生徒会室の活動そのものを踏みにじるような発言に、私の眉がピクリと跳ね上がった。
レオンが冷淡な手つきで特務指令書を翻し、さらに一歩踏み込んでくる。
「貴様らのような素人が勝手に証拠品を抱え込むことは、国家反逆幇助に等しい。生徒会室にある全ての捜査記録、押収した試薬データ、そして関与した全生徒の身元リストを直ちに差し出せ」
……は?こいつ今なんて?
その要求は、命がけで仲間や学園を守った生徒会の活動そのものを「犯罪紛いの愚行」として切り捨てるものだ。
「……横暴すぎますね。僕らの集めたデータを全部手柄ごと持っていく気満々じゃないですか」
とノアが不服そうに言う。
「それに、生徒の身元リストまで……? そんなものを渡せば、今回の被害者たちまで魔法省の監視対象にされてしまうわ」
と、セリアが続ける。
その通りだ。よくもまぁ言ってくれるじゃない。
私は何も言わず、リサの前にスッと進み出る。
瞳には静かで絶対的な怒りの炎が宿っている。
「……三流校の素人、ね。よくもまあ、人の学園に土足で上がり込んで好き放題言ってくれるじゃない」
レオンは眉一つ動かさず、侮蔑の混じった視線でアイラを一瞥する。
「事実を言ったまでだ。田舎学園の生徒会長ごっこに付き合っている暇はない。大人しく従え、小娘」
………プチン。
我慢の限界を迎える音がした。
「小娘ですって……?」
パキリ、と乾いた音がエントランスの空気を裂く。
私が右手をわずかに握り込んだ瞬間、足元からドーム状に広がる空気そのものが『絶対凝固』の魔力で凍りつき、床のタイルに蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
吹き抜ける突風が私のポニーテールを揺らし、その圧倒的な単体魔力圧に、レオンの背後にいた執行部の団員たちが思わず息を呑んで防御陣形をとる。
「なっ……なんだこの魔力量は……!? 詠唱も陣の展開もなしだと!?」
レオンの灰色の瞳だけが、わずかに細められる。
「ほう……なるほど。力任せの野蛮人というわけか」
私は冷徹な眼差しでレオンを指差し、不敵に言い放つ。
「言っとくけど、この生徒会室は私の隠れ家で、私の仲間たちの居場所なの。国のエリートか何か知らないけど、これ以上偉そうに指図するなら――」
ガッと床を踏み締め、エントランス全体を揺るがすほどの気迫を込める。
「生徒会長として、あんたたち全員に『特別生活指導』を叩き込んであげるわよ!」
互いの魔力が火花を散らし、エリート執行部との全面抗争の火蓋が切って落とされる
新シーズンです!
魔法省にまで突っ込んでコテンパンにしてきた生徒会役員たちがなんとピンチを迎えます。
さてさてこの図々しいレオンに対してアイラたちはどうなってしまうのか……
レオンのビジュは私の性癖です(素直)




