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第60章 潜む蛇

真昼の太陽が容赦なく照りつける中、ユダの黒いセダンがアルカディア・プライムの駐車場へと滑り込んだ。時計の針は午後一時三十分を指している。警察署の近くにあるスンダ料理店で、シャニア、アルデン、ナディアと囲んだささやかな祝杯は、トリアの頬にようやく微かな赤みを取り戻させていた。


車から降りたのは、トリアとユダ、そしてバスカラと二人の顧問弁護士たちだ。トリアの心は、数ヶ月もの間その足を縛り付けていた鉄の鎖がようやく断ち切られたかのように、以前よりもずっと軽くなっていた。


しかし、ロビーの入り口に近づくにつれ、彼女の足取りはわずかに鈍った。昨日、大勢の前で辱めを受けたトラウマが、まだ心の隅に澱のように残っている。


ユダはその躊躇いを見逃さなかった。彼は何も言わず、トリアのすぐ隣へと歩み寄る。二人の肩が触れ合うほどの距離だった。


「顔を上げて、トリア」


ユダが低く、穏やかに囁いた。


「君は被害者としてではなく、勝者としてここへ入るんだ」


トリアは顔を上げ、ユダの穏やかな瞳を見つめた。そして、力強く頷く。彼女は自分を守ってくれる「盾」のような仲間たちと共に、自動ドアの先へと足を踏み入れた。


いつもは騒がしいロビーが、彼らが通りかかった瞬間に静まり返った。受付の近くで談笑していた社員たちが一斉に黙り込み、手元のスマートフォンに目を落として忙しいふりをする。


だが、今回彼らが向ける視線は昨日とは違っていた。嘲笑するような囁きも、冷ややかな蔑みもない。そこにあるのは、重苦しいほどの気まずさと罪悪感だった。


住民の家を破壊して逮捕されたハルランのニュースと、トリアがストーカー被害に遭っていたという事実は、すでに社内の「裏ルート」を通じて広まっていた。おそらく、犯人を痛烈に批判するステータスを更新したシャニアの功績だろう。


三階でエレベーターの扉が開くと、そこでも同じような沈黙が迎えていた。トリアは自分のデスクへと向かい、ユダがその後ろを静かに見守るように歩く。


突然、ロジスティック部門のブースから一人の女性が立ち上がった。リナだ。昨日の社内グループチャットで、トリアに心ない言葉を投げつけた張本人である。


リナの顔は赤らみ、落ち着かない様子でブラウスの裾を握りしめていた。彼女はおずおずとした足取りでトリアに歩み寄る。


「トリアさん……」


リナが消え入りそうな声で呼んだ。


トリアの足が止まる。ユダは鋭い視線をリナに向け、再び不躾な言葉が飛び出すようなら、いつでも割って入る構えを見せた。


「あの……謝りたくて」


リナは言葉を詰まらせ、その瞳には涙が浮かんでいた。


「昨日のチャットのこと。あんなに危険な状況だったなんて、本当に知らなかったの。噂を鵜呑みにして……てっきり、あなたがただ……」


言葉が途切れ、彼女は恥ずかしさに顔を伏せた。トリアはしばしリナを見つめた。他人がいかに簡単に人を裁くかという事実に胸が痛んだが、今のトリアには恨みを抱き続ける気力さえ残っていなかった。


人生で最大の重荷を下ろしたばかりの今、新しい重荷を背負い込みたくはなかったのだ。


トリアは微かに、けれど心からの微笑みを浮かべた。


「もういいんです、リナさん。気にしないでください。大切なのは、すべてが明らかになったことですから」


リナはその寛大さに驚いたように目を見開き、安堵と羞恥の入り混じった表情で何度も頷いた。


「ありがとう、トリアさん。本当にごめんなさい」


ユダはトリアの対応を誇らしげに見つめ、自分の執務室へ向かう前に彼女の肩を優しく叩いた。


「一度部屋に戻るよ。何かあったら呼びなさい」


トリアが席に着くと、ミラとセラが温かい抱擁で彼女を迎えた。その一方で、廊下の突き当たりでは、バスカラ・リンタンが自分の部屋には戻らず、サーバー室へと向かっていた。


彼は誰かに手で合図を送る。トリアとの抱擁を解いたばかりのセラが、その合図に気づいた。彼女のスマートフォンが震える。


バスカラ:『今すぐサーバー室へ。裏口から来い。誰にも、特にマーケティング部の連中には見られるな』


セラは眉をひそめてメッセージを読んだ。彼女は隣のミラに「ちょっとトイレ」と囁くと、わざと遠回りのルートを選んでサーバー室へと向かった。


セラが中に入ると、バスカラはすぐに扉を閉めた。室内には、ITセキュリティ部門長のヘンドラが、深刻な表情でノートパソコンに向かっていた。


「座れ、セラ」


バスカラの声は低く、厳格だった。


「君の鋭い観察力が必要だ。君の仕事はマーケティングチームと接点が多いからな」


「どうしたんですか、バスカラさん?」


セラの探偵のような本能が即座に火を灯した。


「ヘンドラが、社内ネットワークからトリアの個人データへの不正アクセスの形跡を見つけた。そして、すべての足跡はある一つのIPアドレスを指し示している」


バスカラがヘンドラの画面を指差した。


「ユニ・ララサティの端末だ」


ヘンドラが淡々と付け加えた。


セラの目が見開かれた。頭の中のパズルのピースが次々と繋がっていく。ユニの嫌味な態度、トリアが恐怖に晒されていた時の狡猾な笑み、そして噂が広まる異常な速さ。


「物的証拠が必要なんだ。サーバーのログだけでは『偶然だ』とか『誰か他の人間が使った』と言い逃れされる可能性がある。今すぐ、彼女のパソコンを実機調査してほしい」


バスカラが言った。


「今ですか?」


セラは壁時計に目をやった。


「ユニは外で昼食を食べています。いつもなら二時には戻りますが」


「好都合だ。時間は四十五分ある。ヘンドラがここから管理者権限でアクセスを解放する。君の任務は、ローカルファイルや保存されたチャット履歴、証拠になりそうなものをすべて探し出すことだ。できるか?」


セラは背筋を伸ばした。プロ意識のために押し殺してきたユニへの怒りが、今、正当な出口を見つけたのだ。


「お任せください。喜んで!」


バスカラが執務室へ戻る頃、セラはすでに誰もいないユニのデスクの前に立っていた。休憩時間のため、オフィス内は静まり返っている。激しく波打つ鼓動を抑え、セラは安定した手つきで作業を開始した。


ユニのコンピューターの画面が点灯する。ヘンドラが遠隔操作でログインパスワードを無効化していた。


セラは時間を無駄にしなかった。キーボードとマウスの上で指が軽快に踊る。普通のドキュメントフォルダなどは探さない。ユニのような狡猾な人間はそんな場所に証拠を残さない。セラは直接Dドライブを開き、素人が無視しがちなシステムフォルダの中にある隠しフォルダを検索した。


「さあ、ユニ……どこに毒を隠したの」


セラが低く呟く。


数分が経過した。セラのこめかみに冷や汗が滲む。腕時計に目をやると、午後一時四十五分。ユニはいつ戻ってきてもおかしくない。


ブラウザを開くが、履歴は綺麗に消去されていた。


「ちっ、あの女、手際がいいわね」


セラが毒づく。


しかし、セラはユニがクラウド同期に関しては疎かったことを思い出した。彼女は怪しげなフォルダの一つを開いた。


「ビンゴ」


そこには、まだ削除されていない写真ファイルがいくつか残っていた。駐車場でのトリアとユダの盗撮写真。ロビーで泣き崩れるトリアの姿。


セラは即座にそれらをフラッシュメモリにコピーした。だが、これだけでは直接的な関与を証明するには不十分だ。通信の記録が必要だった。


その時、セラの目にタスクバーに最小化されていたデスクトップ版のWhatsAppが留まった。通常、このアプリはログアウトすると再スキャンを要求するが、ユニは「ログイン状態を維持する」機能を切り忘れることが多かった。


セラがそのアイコンをクリックする。


アプリが開いた。


セラは息を呑んだ。チャットの一番上にある連絡先は「ルリ・ナワセナ」。そしてその下には、名前は登録されていないが、長い会話履歴を持つ番号があった。


セラはその未知の番号とのチャットを開いた。その内容に、彼女の血は逆流せんばかりに沸き立った。


ユニ:『(トリアとユダの写真を送信)』


ユニ:『見てください、ハルランさん。あなたの婚約者候補が、私のボスとイチャついていますよ。本当に黙って見ているつもりですか?』


ユニ:『彼女は今ロビーにいます。横の入り口から来てください。警備が手薄になっていますから』


怒りでセラの指が激しく震えた。これは単なる噂話ではない。教唆だ。ユニはトリアを破滅させるために、自ら危険を社内へと招き入れたのだ。


「見つけたわよ、この雌狐」


セラはすべての会話をスクリーンショットに収め、フラッシュメモリに保存すると、何事もなかったかのようにすべてのアプリを閉じた。


フラッシュメモリを抜き取り、自分の席に戻ろうとしたその時、廊下からハイヒールの足音が聞こえてきた。


セラは素早く隣のデスクにあった書類の束を掴み、置き忘れた書類を探しているふりをした。


角からユニが現れた。昼食を終えたばかりの彼女の顔は晴れやかだったが、自分のデスクの近くに立つセラを見るなり、その表情は険しくなった。


「そこで何してるの?」


ユニが鋭く咎めた。


セラは顔を上げ、精一杯の無表情を装った。


「別に……マーケティング部が、外出前にデータを揃えておけってうるさいから」


ユニは鼻を鳴らし、セラを追い越して自分の席に着いた。向かい側のトリアのデスクに目を向けると、彼女は小馬鹿にしたような笑い声を漏らした。


「ふん……見てなさいよ、あの悲劇のヒロイン気取り。オフィス中をかき乱しておいて、今は世界一の被害者みたいな顔して座ってるんだから」


ユニはセラに聞こえるような大きな声で嘲笑った。


彼女は乱暴にバッグを置いた。


「不思議よね、なんでバスカラさんは彼女をクビにしないのかしら? もしかして、ユダさんが泣きついて頼み込んだとか?」


まだそこに立っていたセラは、フラッシュメモリを握る手に力を込めた。今すぐその口を平手打ちしてやりたい衝動に駆られる。


「口には気をつけたほうがいいわよ、ユニ。壁に耳あり、よ」


セラが冷ややかに言った。


「あらそう? でも、私が言ってるのは事実よ」


ユニは傲慢に言い返すと、椅子に座って顔にパウダーを叩き始めた。この会社での自分の「命」が、あと数分で尽きようとしていることなど、微塵も気づかずに。


セラは二度と答えなかった。彼女は背を向け、半分駆け足で人事部へと向かった。途中で、ファイルの束を持ったミラとすれ違う。


「セラ? なんで走ってるの? 顔が真っ赤よ」


ミラが不思議そうに尋ねた。


セラは足を止め、燃えるような瞳でミラを見つめた。


「ポップコーンの用意しといて。今から、今年一番面白いショーが始まるわ」


セラはそう囁くと、再びバスカラの執務室の扉へと走り出した。


人事部の中で、バスカラはセラの震える手からフラッシュメモリを受け取った。彼はそれをノートパソコンに差し込み、キャプチャされたファイルを開いていく。


一つ、また一つと、証拠が鮮明に映し出される。盗撮写真。教唆のチャット。さらには、ユニが社外の人間にオフィスのセキュリティ情報へのアクセスを許していた証拠まで。


いつもは穏やかなバスカラの顔が、次第に怒りで赤黒く染まっていく。顎のラインが強張り、こめかみの血管が浮き出た。社員の誠実さと安全を何よりも重んじる人事責任者として、ユニの行為は単なる規律違反ではない。これは犯罪だった。


バスカラは静かに、けれど威圧的な動作でノートパソコンを閉じた。


「ありがとう、セラ。戻っていい。それから……ユダをここへ呼んでくれ。処刑の前に、彼にもこれを見る権利がある」


セラは満足げに頷いた。「承知いたしました」


バスカラはデスクの電話を取り、ユニのデスクに直通するインターコムのボタンを押した。


自分のデスクで、ユニがちょうどインスタグラムを開こうとした時、電話が鳴った。彼女は気だるそうに受話器を取る。


「はい、マーケティング部です」


『私の部屋に来なさい。今すぐにだ』


バスカラの声は平坦で、冷たく、そして致命的だった。


ツッ、という音と共に通信が切れた。


ユニは不思議そうに眉を寄せた。「珍しいわね、バスカラさんが直接呼ぶなんて」


彼女は肩をすくめ、髪を整えると、自信満々に立ち上がった。昇進か、あるいは新しいプロジェクトの話に違いないと思い込みながら。

第60章、お読みいただきありがとうございます。 ついにユニの正体が暴かれましたね。 スカッとする展開だったでしょうか?

Ceritaがさらに面白くなるよう、これからも頑張ります。 感想や「次はこうなってほしい!」といったリクエストがあれば、コメントやブックマークをいただけると嬉しいです。

X(@mrnoxvane)やLINE(ID: noxvane)でも気軽に話しかけてくださいね。 皆さんの反応を楽しみに待っています。

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