亡霊
黒い空間。
音がない。
足音だけが、わずかに響く。
力嶽は動かない。
目の前。
亡霊が立っている。
揺れている。
形が不安定だ。
だが――
“いる”。
次の瞬間。
亡霊が消える。
速い。
だが、直線だ。
力嶽は踏み込む。
斬る。
すり抜ける。
同時に。
背後から、衝撃。
「……っ」
重い。
身体が鈍る。
さっきと同じ。
「触れた分、削るか」
振り返る。
亡霊はもう別の位置にいる。
距離を取っている。
だが、攻めてくる。
一定の間隔で。
同じような軌道で。
繰り返す。
「……同じだな」
力嶽が言う。
次。
また来る。
同じ動き。
同じ角度。
同じ距離。
斬る。
当たらない。
反撃を受ける。
削られる。
繰り返し。
だが――
違和感がある。
「……自由じゃない」
亡霊の動き。
速い。
だが、制限がある。
動ける範囲が決まっている。
位置が固定されている。
「……なるほどな」
力嶽が足元を見る。
何もない。
はずだった。
だが、わずかに違う。
踏んだ感触。
均一すぎる。
人工的だ。
そして。
亡霊が止まる。
動かない。
こちらを見ている。
次の瞬間。
また、同じ動きで来る。
「……順番か」
力嶽が言う。
攻撃の“番”がある。
連続では来ない。
必ず間がある。
決まっている。
何かのルールに従っている。
「……面白い」
構える。
今度は、待つ。
動かない。
亡霊が来る。
だが――
今度は避ける。
反撃しない。
観察する。
位置。
距離。
角度。
全て、記憶する。
もう一度。
来る。
同じ。
完全に同じ。
「……そういうことか」
まだ確信じゃない。
だが、見えてきている。
これは、戦いじゃない。
“別の何か”だ。
力嶽は、ゆっくり息を吐く。
「……ルールがあるなら」
剣を構える。
「破ればいい」
亡霊が、再び動いた。




