移動
朝。
拠点は、静かだった。
だが、空気が変わっている。
「ここはもう使わない」
力嶽が言った。
「盗賊が来た以上、場所が割れてる」
龍は頷く。
反論はない。
準備はすぐに終わった。
持っていくものは少ない。
持てる分だけだ。
かんたは、まだ寝ている。
「運ぶぞ」
龍が言い、肩に担ぐ。
「雑だな」
「文句言う相手起きてねえだろ」
幸人は何も言わず、先に歩き出した。
移動は長かった。
道は整っていない。
岩場、森、斜面。
同じ場所に長く留まらないための動き。
昼を過ぎた頃。
かんたの身体が、わずかに動いた。
「……ん」
龍が足を止める。
「起きるか?」
反応がある。
次の瞬間、かんたが目を開けた。
「……どこ」
声はかすれている。
「移動中だ」
龍が答える。
「三週間寝てたぞ」
「は?」
かんたの思考が止まる。
「腹、貫かれてたぞ」
「は???」
かんたは慌てて自分の腹を触る。
何もない。
「え、ちょ、待て、俺死んでない?」
「死んでたら喋ってねえ」
幸人が前を向いたまま言う。
かんたはしばらく黙り、
状況を飲み込もうとする。
「……え、じゃあ」
「あとで説明する」
龍が言った。
かんたは深く息を吐く。
「……生きてるのか、俺」
「一応な」
少しだけ、歩く速度が落ちた。
だが、止まらない。
背後には何もない。
それでも、戻る理由もない。
力嶽が先頭で進む。
「場所を変える」
それだけ言った。
かんたは、まだ完全には動けない。
だが、目は開いている。
意識は戻った。
それだけで十分だった。
前に進む。
戦いは、まだ終わっていない。




