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創世の欠片は禁忌の石  作者: Aevum the Sun


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22/26

取調べ


ジョセル王の階段ピラミッド内部、中央シャフト奥の暗がり。

懐中電灯の強烈な光が、鉄格子の先に入り込んだ2人を真っ白に照らし出していた。




「مستحيل! حتى لو لا تفهم العربية، اليافطة مكتوبة بالإنجليزية. لا يمكن أن تدخل هنا بالخطأ. سأحتجزكما الآن!」

(そんな訳はない! アラビア語が分からなくても英語で標識があるだろう。うっかり入れる場所じゃない。2人とも拘束する!)




私服警察の男は、鋭く睨みつけ、アラビア語で話しながらその場で銃等持っていないか服の上からチェックした。




「ماذا كنتما تحاولان أن تفعلا في المنطقة المحظورة؟ قولا الحقيقة! هل تحملان أي متفجرات؟」

(立入禁止区域で何をしようとしていた? 正直に話せ!爆発物など持っていないだろうな?)




降伏した状態でロゼリーは答えた。




「لا يمكن أن يكون بحوزتنا أي مواد متفجرة! نحن مجرد زائرين!」

(私たちが爆発物等持ってるはずもありません!)




ヴェスティ家の名を傷つける原因を起こしたリベーロは、ロゼリーを拘束しようとする警察官の男の前へ、身を乗り出すように進み出て、英語で必死に叫んだ。




「ストップ!!俺が勝手に入ったんだ!俺を捕まえろ」




警察官の男は鬱陶しそうにリベーロを一蹴し、アラビア語で低く吐き捨てた。




「ماذا يقول هذا الأمريكي؟ اخرس واتبعني، هل تنوي المقاومة؟」

(このアメリカ人は、何を言ってるんだ?黙ってついて来い、抵抗するつもりか?)




ロゼリーが素早く一歩前に出て、切迫した声で警察官を制止する。




「انتظر من فضلك! هو لا يفهم اللغة العربية.」

(待って下さい!彼はアラビア語がわからないの)




「سواء فهم أم لم يفهم، فهذا لا يغير حقيقة أنكما انتهكتما المنطقة المحظورة! تحركا!»

(分かるか分からないかは関係ない。お前たちが立入禁止区域に侵入した事実は変わらない! ついて来い!)




男はロゼリーの制止を冷たく切り捨てた。もう一人の警察官が2人の背後に回り、退路を塞ぐ。2人は両腕を押さえられ、暗い通路から地上へと連れ出された。




「ロゼリー!すまない、俺のせいだ!」




待たせてあったチャーター車へ戻ることは許されなかった。2人はそれぞれ遺跡の敷地内に待機していた警察車両へと誘導され、そのまま警察官に挟まれる様に後部座席に乗せられた。




「ちょっと待ってください! 僕たちは!」




リベーロが車内で説明しようとしたが、警察官は取り合わなかった。

車のドアが閉められ、それぞれの警察車両が走り出す。

前の車両から、ロゼリーの暗い横顔が見える。

警察車両で護送されるその姿は、とても衝撃的で。リベーロは耐えられない罪の気持ちに胸が押しつぶされた。




(もしロゼリーに前科がついたら、どう責任をとればいいのか)




やがて車両は遺跡の敷地を離れ、現地の警察施設へと運んだ。

通されたのは、観光客向けの施設とは無縁の、簡素な建物だった。

警察官に促されて廊下を進み、小さな部屋へ入る。

室内には机と椅子が置かれ、壁には目立った装飾もない。

警察官は2人を椅子に座らせると、机の向こうに立ち、厳しい口調で命じた。




「أخرجا كل ما في حقائبكما وضَعاه على الطاولة! سنفتش كل شيء!»

(バッグの中身をすべて出して、机の上に置け! 全部調べる!)




ロゼリーは警察官の表情をうかがいながら、リベーロに通訳した。




「荷物を全部出して、机の上に置けって。中身を調べるそうよ」




「うん。分かったよ」




リベーロは素直に従い、罪を軽くしたかった。すぐバッグから持ち物を取り出して机の上に並べた。ロゼリーも自分の荷物を同じように出す。

警察官は一つひとつ手に取り、慎重に確認していった。2人の身分証明書にも目を通し、何か不審なものがないか確かめながら、2人を交互に見た。




「لماذا دخلتما إلى ذلك المكان تحديدًا؟ ماذا كنتما تفعلان في أعماق الهرم؟ هل كان ذلك لمجرد المزاح أو نشر شيء على وسائل التواصل الاجتماعي؟»


(なぜ、よりによってあの場所に入った? ピラミッドの奥で何をしていた? ただのいたずらか、SNSに何か投稿するためだったのか?)




ロゼリーは質問の内容を理解すると、リベーロにも伝わるように英語で説明した。




「どうしてあそこに入ったのか、ピラミッドの奥で何をするつもりだったのかって。SNSに投稿するためのいたずらだったのか、とも聞いているわ」




「違う! そんなつもりじゃない!」




リベーロは身を乗り出した。

ロゼリーは彼の言葉をアラビア語に訳し、警察官へ向き直った。




「لا، ليس هذا صحيحًا! دخلنا بدافع الفضول الأثري، ولم نفكر في العواقب.」

(いいえ、違います! 考古学的な好奇心から入ってしまい、その結果を考えていませんでした。)




「هذا يحدث كثيرًا. هناك سياح يتسلقون الأهرامات ويسببون المتاعب. وأنتما في العمر نفسه تقريبًا. إذا كان لديكما ما تخفيانه، فأخرجا كل شيء الآن!」

(よくあることだ。ピラミッドに登って迷惑をかける観光客がな。お前たちもそいつらと同じくらいの年齢だ。隠していることがあるなら、今すぐ全部出せ!)




リベーロの所持品を確認していた警察官が、ベンベン石の欠片に手を伸ばした、その時だった。

重い鉄扉が乱暴に開き、署内の責任者と見られる男が息を切らして飛び込んできた。




「لقد دُفعت الكفالة! أفرجوا عنهما فورًا!」

(保釈金が支払われた! 2人を直ちに解放しろ!)




「لكن، سيدي، لقد دخلا منطقة محظورة...」

(しかし、責任者。2人は立入禁止区域に侵入し……)




「قلتُ أفرجوا عنهما!」

(解放しろと言ったんだ!)




責任者の剣幕に、尋問を担当していた警察官は渋々手を止めた。

手続きのために書類を受け取った責任者は、支払い記録と身元確認書類を照らし合わせる。そこに記された名前を目にした瞬間、彼の指が止まった。




「روزيلي فيستي...؟」

(ロゼリー・ヴェスティ……?)




彼はもう一度、名前を確認した。

そして、ゆっくりと顔を上げる。

目の前にいる少女。整った身なりと、周囲に動じない落ち着いた態度。そして、書類に記された姓。




「عائلة فيستي... يا إلهي! إنها ابنة عائلة فيستي!」

(ヴェスティ家……なんということだ! ヴェスティ家のご令嬢じゃないか!)




責任者の声に、室内の警察官たちが一斉に顔を見合わせた。

先ほどまで高圧的な態度を崩さなかった尋問官も、見る見るうちに顔色を変える。




「أهذه حقًا ابنة عائلة فيستي؟!」

(本当に、あのヴェスティ家のご令嬢なのか!?)




「نعم! انظر إلى الاسم بنفسك!」

(そうだ! 自分で名前を確認しろ!)




責任者は書類を突きつけると、慌ててロゼリーに向き直った。




「نعتذر بشدة عن سوء المعاملة! لقد كان هذا مجرد سوء تفاهم مؤسف!」

(大変申し訳ございません! これは不幸な誤解にすぎませんでした!)




さきほどまでの威圧的な態度を一変させ、ロゼリーに向かって深々と頭を下げた。




「سنوصلكما إلى آثار سقارة فورًا. أرجو أن تتقبلي اعتذارنا!」

(すぐにサッカラ遺跡までお送りいたします。どうか謝罪をお受けください!)




拘束は解かれた。帰るだけなら、もう何も問題はない。

だが、彼女はすぐには動かなかった。

視線の先には、先ほどまで2人を遺跡で迷惑行為する観光客のように問い詰めていた男がいる。

ロゼリーは、その頭部をじっと見つめた。

そして、静かに口を開く。




「إذا كان لديك ما تخفيه، فأخرجه كله... هكذا قلتَ، أليس كذلك؟」

(「隠しごとがあるなら、全部出せ」……あなた、そう言ったわよね?)




尋問官は、何を言われたのか分からないという顔をした。

ロゼリーは一歩、彼に近づく。




「ولكن الذي يخفي شيئًا حقًا هو أنت!」

(だけど、本当に隠しごとをしているのは――あなたの方よ!)




次の瞬間。


ロゼリーの手が、男の頭に伸びた。


「えっ――!?」


完璧に整えられた髪を、彼女はためらいなくつかむ。

そして、一気に引き剥がした。

その下から現れたのは、一部分だけが間抜けに毛が生えてない頭頂部だった。




「ああっ!」




男は固まった。

ロゼリーは手にしたカツラを、彼の目の前に掲げる。




「أظن أن هذا يخصك.」

(これ、あなたのものよね)




「取ったのだから、そうに決まってる!」




男の顔が、みるみる赤くなった。




「أعيديه! أعيديها إليّ فورًا!」

(返せ! 今すぐそれを返せ!)




彼は慌ててカツラを奪い返そうとするが、ロゼリーは手を上げて奪わせなかった。

その光景を見ていたリベーロが、ぽかんと口を開けた。

そして、次の瞬間。




「わはははははっ! マジかよ! ロゼリー俺より酷いやり方だよ!」




リベーロの笑い声が取調室に響いた。




「お腹痛い。ロゼリーがそんなことやるなんて、わはははは!」




「リベーロ、こうでしょ?」




ロゼリーは優雅にカツラを宙へ放り投げた。

その動きが、更にリベーロの笑いを加速させた。

一方、カツラを失った尋問官は、真っ赤な顔で必死に頭を隠しながら、床に落ちたカツラを拾おうとしていた。

先ほどまでの威圧的な態度は、見る影もない。

同僚の警察官たちも、最初は必死に笑いをこらえていた。だが、一人が吹き出すと、もう誰も耐えられなかった。




「هاها...!」

(ははっ……!)




「كفّ عن الضحك! لا تنظر إليّ!」

(笑うな! こっちを見るな……っ!)




「لا أستطيع التوقف، آسف...!」

(笑いが止まらない、すまん……!)




ついには全員が腹を抱えて笑い始めた。




「اصمتوا! قلت لكم ألا تضحكوا!」

(黙れ! 笑うなと言っているだろう!)




尋問官の怒鳴り声は、もはや誰にも効かなかった。

責任者までもが顔を背けて肩を震わせている。やがてとうとう堪えきれずに大声で笑い出した。




「هاهاهاها! اذهبا، اذهبا بسرعة قبل أن يستعيد شعره!」

(わはははは! さあ、行った行った! そいつが髪を取り戻す前に、早く行きなさい!)




ロゼリーは頷くと、くるりと背を向けた。




「行きましょう、リベーロ」




「行こう。ロゼリーを怒らせると大変だね」




そうして2人は取調室を出た。

背後からは、怒鳴り声と笑い声がいつまでも聞こえていた。

ロゼリーは一度も振り返らなかった。


立入禁止区域への侵入という事実は消えない。だが、最後に誰が恥をかき、誰が頭を下げることになったのか――それだけは、誰の目にも明らかだった。

帰りの警察車両は2人一緒に後部座席に座った。




「心から謝る。ロゼリーごめんなさい。どう責任とればいいかわからない」

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