第8話【 荒野の夜明けと、消えた亡霊 】
デスクの上には、飲み干した缶コーヒーの空き缶が相変わらず無造作に転がっている。
すべてを焼き尽くし、業界の仕組みそのものを根底からひっくり返した男は、
深い溜息とともにノートパソコンをパタンと閉じた。
乾いた音が静まり返った地下室に響く。
波多野はコートを羽織ると、振り返ることもなく、静かにその場を去っていった。
第1節 【 リセットされた世界 】
アルカディア・メディアワークスの崩壊と主席プロデューサー・神崎の失脚により、
WEB小説界のマネーゲームは完全にその姿を消した。
莫大な資金力とアルゴリズムの力でランキングを支配していた巨大な城塞は消え去り、
跡形もなく焼け落ちた荒野のようだった。
新興スタジオを率いる鬼頭たちは、その広大な空白地帯に取り残され、
かつてのような「王座量産の方程式」が二度と通用しない新しい現実に向き合わされていた。
システムが失われた世界で残ったのは、綺麗に整えられた数式ではなく、
読者たちが手ずから探り当てた剥き出しの物語の熱量だけだった。
第2節【 もぬけの殻の地下室 】
すべての結末を見届けた鬼頭は、波多野に次の展開と今後の主導権を打診するため、
あの古びた雑居ビルの地下二階へと足を運んだ。
しかし、重い木製のドアを押し開けた彼の眼に飛び込んできたのは、
予想外の光景だった。
かつて夜通し蛍光灯の白みを晒していた部屋には、
もはや誰もいなかった。
机の上には飲み干した缶コーヒーの空き缶が転がり、
使い古されたノートパソコンはきれいに閉じられて電源が落とされている。
そこにあったのは、すべてを成し遂げた男が残していった、
完璧なまでの「もぬけの殻」だった。
第3節 【 一通のメールと、新たな芽吹き 】
誰もいない静まり返った地下室で、鬼頭のスマートフォンが突然、
短く電子音を鳴らした。
画面を確認すると、
それは波多野のアカウントから送られてきた最後の一通のメッセージだった。
そこには無駄な挨拶や次の計画の指示などは一切書かれておらず、
ただ一言、別のプラットフォームの片隅でひっそりと公開された
「まったく新しい無名の新作タイトル」へのリンクだけが添えられていた。
波多野は復讐のために囚われていた過去の因縁をすべて断ち切り、
またどこかの底辺で、誰の目にも留まらない一文字を紡ぎ始めている。
鬼頭はその画面を見つめながら苦笑し、静かにスマホの画面を消した。
アルカディアの崩壊から数週間が過ぎ、
WEB小説界はかつての狂騒が嘘のように静まり返っていた。
資金力とアルゴリズムによるマネーゲームが消滅したプラットフォームには、
効率やトレンドに縛られない、泥臭くも純粋な物語の数々が戻りつつあった。
明日も、19:30 に、投稿します。
よろしくお願いいたします。




