表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元・首席アーキテクトの復讐。~大手制作委員会が仕組んだマーケティングの裏を、すべての生みの親が泥臭く破壊するまで~  作者: 風風風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/10

第5話 【 亡霊の帰還 】

「面白い、……」

鬼頭は不敵な笑みを浮かべ、窓の外の淀んだ空を見上げた。

巨大資本が支配するマネーゲームの戦場は崩れ去り、

誰もが予想しなかった無秩序の荒野が広がっている。

その中央で、かつての設計者と、飢えた狼たちが、次の一手を静かに見据みすえていた。

【 灰色のビルに届く名刺 】


薄暗い地下二階の空気は、

相変わらず古びた雑居ビルのよどんだ匂いに満ちていた。

波多野がインスタントの粉末をマグカップに入れ、

電気ポットの湯を注ごうとしたその時、

ガタピシと音を立てる木製のドアが乱暴に叩かれた。


ノックの回数は三回。

だが、常連の配達員のような手際の良い音ではない。

もっと無遠慮で、焦燥と好奇心が入り混じった暴力的な響きだった。

波多野は湯を注ぐ手を止め、音もなく振り返る。


「……、開いてるよ」


低い声で告げると、ドアノブがガチャリと回り、重い扉が押し開けられた。

そこに立っていたのは、高級なイタリア製のスーツを着こんだ男だった。

ネクスト・プロデュースの主席プロデューサー・鬼頭。

港区の超高層ビルで札束を動かしているはずの男が、

なぜこんな湿気しけた雑居ビルの地下にいるのか。

その顔には、隠しきれない興奮と警戒の色が張り付いていた。


鬼頭は室内を一瞥いちべつし、すり切れたリノタイルの床と、

机の上に無造作に置かれた使い古しのノートパソコンを確認すると、

皮肉な笑みを浮かべた。

「まさか、業界を揺るがしている大バグの発生源が、

 こんなネズミの巣みたいなところだとはな。……、驚いたぜ、波多野さん」



【 かつての教え子、あるいは宿敵 】


波多野は驚くこともなく、ポットからマグカップへ静かに湯を注ぎ入れた。

白煙の向こう側で、にごりのない冷たい瞳が鬼頭をとらえる。

「名前を間違えるなよ。俺は今じゃ、ただの無名のアカウントだ」


「冗談はやめてくれよ。

あのアルカディアのシステムを根底からフリーズさせ、

数億の広告費をゴミクズに変えた男が『ただの無名』なわけがない」

鬼頭は部屋の中にズカズカと踏み込み、パイプ椅子に勝手に腰を下ろすと、

懐から一枚の名刺を取り出して机に放り投げた。


そこには『ネクスト・プロデュース 統括本部長 鬼頭京一』と印刷されていた。

「アルカディアは今頃、神崎の指揮の下で全サーバーの強制ロールバックと、

 あんたのアカウントの永久凍結を企てている。

 だが、そんな泥縄式どろなわしきの真似をしたところで、

 一度割れたガラスは元には戻らない。……、うちに来いよ、波多野さん」


鬼頭の言葉に、波多野はコーヒーの表面をスプーンで静かにかき混ぜた。

「お前のところへ行って、何をする? 

 また新しいマネーゲームの歯車を回せとでも?」

「違うね」。鬼頭は不敵に笑い、テーブルに身を乗り出した。

「あのクソみたいなランキング至上主義の仕組みそのものを、

 あんたの手で完全に焼き払いたいんだよ。……、組もうぜ、波多野さん。

 業界の王座をひっくり返すための共犯者としてさ」



【 始まりの終わり、そして反撃の狼煙のろし


波多野はマグカップを持ち上げ、ゆっくりと一口含んだ。

インスタントの安っぽい苦味が、乾いた喉に染みわたる。

彼のノートパソコンの画面では、

アルカディアが焦燥のあまり強行した

「全システムの一時停止」に伴うエラーログが、滝のように流れ落ちていた。

巨象はパニックを起こし、自らの足で大地を踏み荒らし始めている。


波多野は名刺を一瞥いちべつし、そして顔を上げて鬼頭を見据みすえた。

「共犯者、か」

低くつぶやくその声には、

かつて「アルカディア・メディアワークス」社を追放されたときの

絶望の色など微塵みじんもなかった。

あるのは、すべての歯車をくだくための確固たる意志だけだ。


「いいだろう。だが条件がある。

 俺が作る物語は、お前たちの都合の良い客寄せパンダにはしない。

 あのクソみたいなシステムの上にあぐらをかいている連中全員に、

 自分たちが踏みつけてきたものの重さを、文字通り『血の味』として思い出させる」


鬼頭はしばらく波多野の顔を見据えた後、

獣のような笑みを浮かべて立ち上がった。

「上等だ。狂った世界をぶち壊すには、それくらいの劇薬が必要だからな」


窓のない地下二階の蛍光灯の下で、二人の男の利害が一致した瞬間、

WEB小説界を飲み込む本当の復讐劇の歯車が、音を立てて逆回転し始めた。


©2026 [風風風]. All rights reserve.

鬼頭と手を組んだ波多野は、新興スタジオの全リソースを使い、

第3の作品『数式の墓標にて』を投下する。

それはアルカディアの主力作のシステム構造を完全に逆手に取り、

読者の依存心を吸い尽くす究極の罠だった。

瞬く間に全プラットフォームのシェアを侵食され、焦燥しきった神崎は、……。


明日も、19:30 に、第6話を投稿します。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ