孤独の後悔
政府の保護政策に従わなかったごく少数の保護民達は人目につかないうな山の中の森や谷などで先祖から受け継いだ伝統を守りながら細々と生活していた。
一族の中でも政府に従って保護区で生活する者、そこも出て共和国市民に混ざりながら生活する者もいた。
どこで生きようが彼らの苦難はついて回った。
それでも一部の人達は伝統を守りながら生活する一族の手助けもしていた。
互いにそれぞれの事情、考え方を認め合い、互いに支え合ってる毎日を送っていた。
エルザはその伝統を守りながら生きている人々の間に紛れながら、匿われながら生きている。
人々は彼女を理解していた。
唯一生き残った真の力を持った呪術師として。
尊敬の念を持って接していた。
エルザもまた彼らの助けになった。
だが、だからといって必ずしも安全ではなかった。
それは人々にも彼女にも。
外部からの情報は入ってくる、
また人の出入りもある。
互いに安全な生活を守るため。
エルザは人々の間を、居住地を点々としていた。
時には呪術や魔法を使い、人々と自分の身の安全を計りながら…
「じいさん、元気だったか…薬持ってきたからな…」
そういうと市民と同じ街で働いている孫の青年が薬を差し出した。
「ありがとな…でもなあ…」
そういうと老人は傍らに置いてある薬草の束に視線を向けた。
青年は困ったと言いながら
「まあ…置いてくから…呪術師さんによろしくな…」
苦笑いしながら出ていった。
「お…」
彼の前にいたのは埃まみれで元の色が何かもわからなくなったマントを着た彼女が立っていた。
帽子を深く被って顔はわからなかった。
「呪術師さん…だよな…いつもありがとう…じいさんのこと…」
彼女はなにも言わずただ立っていた。
青年は彼女が何者か、何をしているのかはわかっていた。
それでも、肉親のことを少しでも助けてくれる彼女がとてもありがたかった。
何をしているか、なにをしてきたかはどうでもいいわけではなかった。
ただ人を助けてくれる彼女の存在を邪魔にはできなかった。
こういう人達に助けられながら彼女は人の命を奪い続けていた。
あの青年にもなにも言えなかったのはそんな彼女の心の中にある後悔と懺悔と優しさと心地よさに流されて行きそうになる自分が許せないそんな葛藤がそうさせていた。
人の好意にすがりながら、己の業を呪いながら、人の命を奪うことをやめない。
それは、奪わないことにこだわり続けた過去の自分を許せなかった。
それにこだわりすぎて、なにも押し留めることはできなかった。
人を失い、希望も失わせた。
「まずいことになった…警察が捜査に来るそうだ…」
今、匿ってもらっている居住地の長からのひと言だった。
「ありがとうございます…皆さんには迷惑はかけません…何も残さずここを離れます…」
その後彼女はそこの居住地の人達をあつめて呪術を行った。
人の記憶を消すことはできないが暗示をかけることはできたからだ。
ここには誰もいなかったという暗示。
当然彼女に関することは思い出せない。
それが彼女がこの人達にできることだった。
こうやって人々には忘れられながら生きている。




