虐殺
村人達が呪術師の前に集まって、座っていた。
小さな子供は、大人しくできずに、親に叱られていた。
太鼓の音と笛のような音が不思議な旋律を奏でている。
どことなく、物悲しく、それでいて、透き通るような。
老いた呪術師が何かを唱えている。
村人達は頭を下げていた。
数台の馬車が兵士を満載してその村へ近づいてきていた。
その後ろからも、もう1台。
それには覆面をして全身黒ずくめの制服の兵が座っていた。
中には少し、制服を着崩しているものいた。
普通の訓練を受けた兵士ではないことは、一見してわかる。
「降車!2列縦隊!」
共和国防衛隊の歩兵が一斉に降りて隊列を組む。
「前進!」
軍靴が砂を巻き上げる。
地響きにも似たような音がだんだん村に近づいた。
呪術師が唱えるのをやめて、どこかをみている。
村人達もどうしたのかと、呪術師がみている方向を向いた。
兵士達が近づいてくるのがみえた。
「逃げろ!」
だがすでに遅かった。
共和国防衛隊の歩兵が村を囲んでいた。逃げ道は無くなった。
だが、彼等は銃を前に構えたままだった。
「やれ、」
アイゼンヴァルトが小さく命令を出した。
顔の位置にあった手を軽く前に出した。
押し出すように。
命令を受けた黒部隊が村に向けて侵入を開始した。
一歩ずつ進んでいく。
彼等は覆面をしている。
制服は全身黒だった。
村の直前まで来ると、一斉に空に向けて、乱射を始めた。
空砲ではない。
馬車の荷台の上に据え付けたガトリング銃が逃げ惑う人々に向けられていた。
若い男が飛びかかろうとしたがすぐに射殺された。
村からも数発の銃声がなった。
すると、その方向に向けて、あのガトリング銃がひを吹いた。
そこだけではない。
村全体にガトリング銃の雨が降った。
黒ずくめの兵士達はその後に続いていく。
そして生き残った人にとどめを刺していた。
離れたところからそれを整列してみていた歩兵の中には刃を食いしばり、涙をこらえてるものがいた。
吐き出すものも。
前に構えた、銃を持つ手がかすかに震えている。
アイゼンヴァルトの後ろにいたパトリックは帽子を深く被っていた。
「ひどい…あんまりだ…こんな…」
「これは作戦なのです。同胞を見殺しにはしないでしょ…出てきますよ…魔女だって人間なんだから死にますよ(笑)」
「彼女は部隊を完全に沈黙させたこともあります…」
以前列車を襲撃して一人で全部隊の攻撃能力を沈黙させていた。
作戦は
あっという間に終わった。
「こんなのは、作戦でもなんでもない…ただの虐殺だ…いや、殺人だ…」
パトリックは銃に手がかかっていた。
目線の先には、アイゼンヴァルトが立っていた。
村は焼かれた。
証拠をできるだけ残さないために。
その炎で顔が焼けそうだった。
「乗車!」
号令と共に、兵士達は馬車に乗り始めた。
しかし、その足どりは重かった。
誰も口を聞かなかった。
「早く乗らんか!」
士官のイライラした声か飛ぶ。
ある兵士がパトリックを睨んでいた。
その目は赤くなっていた。
パトリックはわざと目をそらした。
そんな目で見るな…
一人の士官がパトリックに近寄ってきた。
無言だった。
「オコンネル担当官…私は、軍人です。命令には従います。しかし、新兵の訓練上とはいえ、これは看過できません。軍の士気や徴兵に影響します。それを上官には報告します。以上です。」
彼は敬礼をすると、サッと向きを変えて馬車の方に戻っていった。
馬車の中は誰も口を開かなかった。
兵士達は無言のままうつむいていた。
すると、先ほどの士官が燃え盛る大きな炎に向かって、祈りを始めた。
それをみた馬車の兵士達が同じように祈り始めた。
誰もが、真剣に祈っていた。
きっと生まれて初めて、真剣に祈った者もいるだろう。
子供の頃は親のマネをして祈るだけだだった者も今は真剣に心から祈っていた。
誰もがそうしないと、救われなかった。
神を意識さえしたことの無い者も今だけは神にすがっていた。
最期まで兵士達は祈っていた。
パトリックにはそうみえた。
彼はその晩浴びるほど酒を飲んだ。
そして吐いた。
ローゼンシュタインさん…あなたが魔女ならあいつらをなんとかしてくれ…でないと…
数日後、村の焼け跡
誰かが近づいてきていた。
馬上の人のジャケットの背中には見覚えのある紋章。
あの紋章が刺繍されていた。




