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再び砂の大地

彼女はまるで砂の中の岩のようだった。

黒いマントは砂が積もりだんだん地面と見分けがつかない様子すらあった。


パトリックは一歩ずつ近づいた。

その黒い岩が人間だとわかるくらいにはうごいた。


風が二人の間に砂を運んでいった。



ノックがした。

部下が報告書を持って入ってきた。


「失礼します。」


報告書を受け取る。


やはりという結果だった。

ヴァルテック大佐は戦死だった。

クロイツァー少尉…

あの彼女が消息不明…

城で働いていた人達。

調査の結果が報告書に並んでいた。

ほとんどが戦闘前に城から出ていた。

きっと、伯爵や大佐達がそうしたんだろ…

ただ、執事だった人物と警備責任者は犯罪者として収監されたと書かれていた。

きっと彼女、ローゼンシュタインも知っている人物。

生き残っていることを知っているのだろうか…



汽車は都市を抜けて平原に入っていく。

また戻ることになるとは思わなかった。

あの砂の毎日がまた戻ってくる。

こんな運命なのかと思っていた。


部下が話しかけてくる。


「どうだったんですか、ここの生活は?」


この部下は街育ちで、この平原のことを知らない。

そのせいか少し気分が高揚しているようだった。


「そんなに聞きたいか?まあ、いけばわかるさ…俺はもうウンザリだけどな…」


彼はそういうと窓に視線を移した。

部下はそれ以上何も聞かなかった。

窓の外には高く築かれた柵が並んでいた。

保護区の壁だった。

するとその壁が突然大きな音と共に崩れた。

汽車はそこをあっという間に通り過ぎた。

パトリックはその柵が崩れていく砂塵の中、遠くにかすかに、黒い人影をみた気がした。



エルザの消息はなかなかつかめなかった。

強制移住に従わない人達に隠れていたからだ。

今までに現地の治安部隊が必死に探していたが足取りがつかめなかった。

つかめなかったどころか、都市に出没し、テロ活動をする。

そして、とうとう、パトリックに回ってきた。

彼は、高名な呪術師の噂を聞いたことがないか聞き回っていた。

呪術師と言われる者はいることにはいた。

金目当てで観光客相手にする者。

とても呪術師といえるほどの能力のない者も。


「黒の月を知っているか?」


そう尋ねると、適当な答えもする者。

とんでもない見当違いの答えをする者。


「あいつはだめだ…どうなってるんだ…こんな奴らばかりだ…」


あの時、新兵としてこの平原にいた時に見た、出会った呪術師はどこへ行ってしまったのか…


俺は見た…光る人を…あれが呪術師だ…



中には「黒の月」を知っている者も現れた。

ハズレもあった。

詐欺まがいのことを仕掛けるものも。




「おまえ…誰にそんな話してるのかわかってるのか…おまえぐらいは簡単に収監できるんだぞ…そしたら一生出てこれない。それどころか、俺の一言銃殺だな…」


これくらいに言っとけばだいたいは向こうから離れていった。

組織の力を振りかざすのは、嫌ではなかった。所詮歯車だ。それなら逆に思い切りその組織を使わせてもらう。そう考えていた。



その呪術師は擦れていなかった。

自分の中にある呪術師だった。

その呪術師はパトリックが「黒の月」のことを尋ねると、祈りを始めた。

鳥が空を飛んでいた。

何回も自分達の頭上の空を。

その鳥は呪術師が祈りを終えると同時にどこかへ消えていた。


呪術師についていくことにした。



「ローゼンシュタインさん…だな…覚えているか…パトリック オコンネルだ…貴方に話があって来た…伝えないといけないこともある…あなたの向こうの国の人達のことだ。」


パトリックの言葉にようやく反応した。

フードがこちらを向いた。

何を今更というのが伝わってきた。


「言いにくいが…」


そういいかけた時、彼女はもう立ち上がっていた。

「ここに俺が報告書から書き起こした一部を持ってきた…あなたの関係者の消息が書いてある…置いていくから…」


そして彼は茶色のゴワゴワとしたパラフィン加工の書類封筒を地面に置いた。


「俺はあなたを逮捕しないといけない…そういう立場なんだ…わかってくれ…でも問答無用でしたくはないんだ…あなたにこうやって会えているのも不思議だがな…それにだ…それに聞きたいこともあるんだ…」


「どうして、俺をやらない…憎いだろう…だが、なんとなくだが、俺は避けられてる気がする…なぜかわからないが…」


「こんなことができるなら、もうやめないか?やめてあっちに帰ってくれ…そこはなんとかできるんだ…危ない橋を渡ることになるんだが…帰って、知ってる人の弔いをしてくれないか…みんな喜ぶ…誰もいないが…」


しまった…今のは失言だったと彼は思った。

思わず唇を噛んだ。

誰もいないとはいうべきではなかった。


「まだ若いんだ…こんなところでこんなことしてていいのか?他に人生もあるだろ…憎いのもわかる怒りも悲しいのも…でもなぁ…そんなもんじゃ生きてても苦しくなるだけだ…」



「おまえは…何を言っている…」


突然の彼女の言葉に驚いた。

彼女の声ではなかった。


「この子のことがわかるのか?」


「このこは怒りと憎しみで生きている…それがあるから生きてられるのだ…ここでこうやって…それがお前にわかるのか?悲しさと哀れさの惨めさを怒りと憎しみで埋めているのだ…そうでもしないと押しつぶされてしまう…生きるために、憎み、怒るのだ…それがこの子の生きる意味なのだから…おまえはただこの子を追い詰めているだけだ…」



「見るがいい…この子の怒りを憎しみを」


彼女は立ち上がってライフルを構えた。

どこに向けているのか分からなかった。

彼女の胸で何かが光り始めた。

全身がその光で包まれていく。


あ…これだ…俺があの時見たのは…


彼は若い兵士の時に見た光景を今鮮明に思い出していた。


その光は緑の色を帯びていた。

全身が包まれると、光はライフルに集まり始めた。

何が起こるのかわからなかった。

ただ、目の前のことをみているしかなかった。


突然光はライフルの銃身から放たれた。

それは閃光となり、まっすぐ遠くに消えていった。

一時の間があったと思う。

その光が放たれた先で、たしかにその方向だったが、小さな変化があった。

かすかに音が届いた。

平原の風にのって。


見えるわけのないものが見えていた。

彼の目には。

大きな爆発。

軍の駐屯地の弾薬庫だった。

誘爆は花火のように広がった。

そしてその駐屯地の地面が大きく盛り上がった。

それが弾け飛んだ。

真っ黒な固まりがそこに広がった。



「おまえはこんなことをしてそれで憎しみが晴れるのか…こうやってずっと生きていくつもりか…それで悲しみが埋まったのか…これでしか生きていけないなら…」


彼の銃は彼女を捉えていた。

彼女の銃も彼を捉えていた。


「おまえは運がいい…この子はまだ優しい…真っ先におまえをやらないのだからな…さあ…」


「あ…いいこと言ってくれたなあ…これで俺が生き残ることはわかった…」


彼はためらわずに引鉄を引いた。

膝をついたのは彼の方だった

利き腕を撃ち抜かれていた。


「最初からこんなことならカッコつけるんじゃなかった(笑)」


弾は彼女の目の前に落ちていた。


「こんなの無理に決まってる(笑)」



「あんたが誰かは知らないが、彼女を守ってるなら長生きさせてやってくれ…でも…できるなら…人生も守ってやってくれ…今の彼女は人生を自分で傷つけてる…」


「わかった…では、この子からもお前に伝えることがある…」


「何が?」


「生きてください…」


ハッとした。

彼女の声だった。


「ローゼンシュタインさん…」


「忘れないで………」


その時の彼女は以前の彼女だった。

泣いているのかとさえ思えた。


「おまえも、この子がどんな世界をみてるか想像してみればいい…」


またあの声が戻ってきた。


「さあ、行け!おまえの居るべき場所に!」


彼は思わず、手を伸ばした。

すると、砂塵が舞い、一瞬目を閉じた。

あとには誰もいなかった。

あの封筒もなかった。


「忘れるわけないだろ…散々やりやがって…」


彼は撃ち抜かれた腕をみた。

痛みはあったが傷がほとんど残っていなかった。


「…クソ…魔女め…」


彼のその言葉には、負の感情はなかった。


一瞬だが彼女の言葉を聞いた。

それが自分のことだったことは意外だった。



翌日の新聞の一面


「軍の駐屯地、弾薬庫爆発事故。過去最大規模。全員死亡」


その新聞を彼はホテルのテーブルに投げつけた。









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