テロリスト
新聞の1面はBLACKWOLFが首都で共和国大統領と面会したという記事だった。
これは政治ショーの始まりだった。
しばらくはそのショーが続いた。
しかし、それはほんの一瞬でもあった。
その記事の紙面の裏には、共和国検察が彼を起訴したという記事があった。
それは一面のそれと比べるとかなり小さな記事だった。
裁判は非公開で行われることになった。
小さな扱いの記事だった。
それをじっと読んでいた男がいた。
「やはりな…茶番だ…とうとう歯車は外されたか…これでお払い箱か…」
その男は日に焼けて精悍な顔つきをしていた。
共和国内務省治安機関の一員。
パトリック オコンネルだった。
形式的な裁判が行われた。
判決は国家転覆罪や殺人放火交通妨害など様々な罪で
死刑となった。
彼等は犯罪者となった。
BLACKWOLFは政治犯がいる刑務所に収監されることになった。
面会は一切行われない。
彼の最後の言葉は
「私は間違えたのか…」
だった。
彼等の死刑の記事はさほど大きくは取り上げられなかった。
だが、いろんな人はそれを見つけていた。
BLACKWOLFの死刑からしばらくは各地で小規模な武装蜂起が頻繁した。
武装蜂起といっても過去の彼等が行ったものに比べれば、それは小さな小さな規模に終わった。
もう管理体制が彼等の自由を奪っていたからだ。
結局先祖代々から住み着いた土地からの強制移住はますます激しさを増すことになった。
それが不満を増すことになった。
それが武装蜂起の原因立った。
BLACKWOLF達の死刑はきっかけだった。
当局、内務省治安機関は蜂起を武力でこれを徹底的に鎮圧した。
蜂起に関係した保護区は全て強制移住となり、砂漠同然の地に住むことになった。
人々は貨車に積まれて砂漠の地まで追い払われた。
そしてエルザもまたその小さな記事を見つけた一人だったのだ。
彼女は最初から信用していなかった。共和国のやることを。
それでも、その記事を見つけたときは、裏切られたと、後悔と怒りと憎しみが自分を支配するのを感じた。
最後まで話し合うことにこだわった結果がこれだった。
こんなことなら最初から彼等に力を貸せば良かった。
それは最初からわかっていた。
私は何かから目を背けていたのか。
逃げていたのか。
良い子になりすぎていた。
人を助けるつもりだった。
それがこの結果だ。
このままでいいのか…
何度も自分に問いかけた。
ある日その問いかけに答えが返ってきた。
「おまえはどうしたい?」
「私は許せない…自分が…できるなら過去にもどってもう一度やり直したい…」
「過去に…それは無理だね…お前一人の魔力ではそれはできない…もう世界には魔力すらなくなってるからね…でも未来は作れる…そのためになら魔力を使える…どうする?」
「私は許せないだけ…自分も世界も…」
「ならば、好きにすればいい…怒りと憎しみがあるならそれに従えばいい…手伝ってあげるよ…」
平原の中に黒い線が伸びていく。
それは毎日毎日たくさんの人の手によって、平原を進み、森を切り開き、川を越えていく。
その黒い線の上を黒い鉄の蛇が走っていく。
黒い煙を出しながら。
多くの人を平原へ森へ運んでいった。
希望と期待と未来を信じて。
人々は次々と街を作り、住み始める。
そこには誰もいなかったかのように。
希望と期待と未来を信じていた人がいなかったかのように。
そして誰もがみんな未踏の地を踏みしめる、切り開く、興奮を感じていた。
平原を見渡せる小高い丘の斜面に誰かがいた。
風がその人に吹きつけていた。
遠くから機関車のたくましい走行音が流れてくる。
その人は丘を下り始めた。
その人のみてる方向には黒煙を吐きながら爆進する機関車と何両もの貨車。
その人は平原を機関車と同じ方向に走りながらだんだんに近づいていく。
機関車に追いつけるわけはない。
装甲車両の兵士が気がついた。
双眼鏡で確認する。
「敵襲!」
機関車に速力上昇の鐘がなり知らされた。
次第に速度が上がっていく。
その人はだんだん置いてかれるかと思った。
しかし、それはなんの問題ではなかった。
馬上では銃身の短くしたライフルで機関車に狙いをつけている。
引鉄が引かれた。
すると機関車は突然速度を落とし始めた。
蒸気が噴き出していた。
ブレーキがかけられた。
だんだん距離が縮まっていく。
装甲車両からは野砲の発射音が響く。
回転式銃が唸りをあげる。
馬上のライフルは今度は装甲車両を狙った。
引鉄が引かれた。
装甲車両の野砲が吹き飛んだ。
次に装甲車両そのものが爆発した。
弾薬に当たったのだ。
辺りに火花と煙と鉄が飛び散った。
馬上のライフルがまた火を吹いた。
小さな金属音と共に貨車の鍵が壊れた。
すでに止まったいたその貨車からたくさんの人が出てきた。
そして平原を歩いていく。
女性や子供、老人もいる。
馬上のライフルは、まだ鳴りやまない。
兵士の乗る客車を穴だらけにしていく。
たった一丁のライフルで。
それは貨車から出てくる人を守るためだ。
容赦なくライフルが火を吹く。
その度に反撃は沈黙していく。
人々がかなり遠く離れた。
それを見届けた馬上のライフルは誰もいなくなった貨車に向けて何発も撃った。
容赦なく。
貨車は次々とバラバラに破壊された。
この貨車はそのままにすればまた無実の人を大地から引き剥がすのだ。
ようやく馬上のライフルは火を吹くのをやめた。
頭に黒い布を巻いて端を後ろに流したその姿はどこかでみた姿だった。
人々はエルザをテロリストとして、魔弾の魔女と呼ぶようになった。




