降伏式典
駐屯地はこの何日かもそうだが、昨日今日は特に慌ただしくなっていた。
歴史的に重要な出来事がこの場所で行われるからだ。
そしてとうとうその時がやって来た。
駐屯地に向かって共和国防衛隊の部隊が砂塵の中をやってくる。
その部隊の列の中央には兵士とは違う装いの屈強な男が三人いた。
兵士でもないその三人は周りを兵士に囲まれていた。
駐屯地の見張り台の兵士が鐘を鳴らし始めた。
それまで慌ただしかった駐屯地が次第に落ち着きを取り戻していく。
正面ゲートの両脇には兵士が捧げ筒の体勢で並んでいる。
みんな真剣な顔つきだ。
やがてゲートにあの一団が入ってきた。
数人残して、部隊はどこか別のほうへ向かう。
例の三人は数人の兵士に囲まれてそのまま大きな建物、司令部の前まで来た。
そこにも多くの兵士が隊整列をしている。
建物から他の兵士とは明らかに違う服装徽章の威厳のある髭をはやした軍人が側近と共に出てきた。
司令官である。
「ここまで行う必要あったのですか?司令…」
「いいじゃないか…最後なんだから…少しでも気持よく送ってやりたい…それだけだ…」
司令官は笑みを浮かべながら答えた。
副官には司令がずいぶんと機嫌がよさそうに思えた。
それも当然だ。
宿敵とも言える、あの叛乱の首謀者、有名なBLACKWOLFが降伏したのだから。
それも、自分が司令官の時にだ。司令にしてみれば、自分の功績とも言える。
きっとそう考えていただろう。
それは副官達側近も同じだ。
「君達もこの歴史的瞬間に立ち会えるんだから喜んだらどうだ!」
司令官はほんとに饒舌になっていた。
それだけ高揚していた。
きっと自分の名は歴史に残るとさえ思っていた。
軍楽隊が演奏を始めていた。
その中を数人の兵士と共に進んできた三人は馬を降りた。
兵士も降りてついていく。
整列している兵士に号令がかかる。
軍靴がぶつかる音がする。
銃から出る金属音と共に。
司令官は男に歩み寄って敬礼をして声を掛けた。
「よくご決断されました。我々は勇気ある決断をされた貴方がたを歓迎します」
司令官は手を出して握手を求めた。
笑顔で。
それを狙ってカメラマンが呼びかける。
「笑顔で握手しながらこちらをしばらくみていてください!」
そういうと司令官はニコリと笑みを満面に浮かべてカメラの方をみた。
「さあ、あなたも歴史に残るのです、いい笑顔を…」
ストロボが焚かれた。
司令官は男にそう囁いたが
男は何も変わらずにいた。
目つきは鋭く、無表情。
ストロボの眩しさに目をゆがめた。
撮影が終わると、三人は司令官に促されて建物の中に入っていった。
会談が終わると、また建物前で撮影が始まった。
副官達とも一緒に撮影した。
いろんな撮影が行われた。
それは今も何枚も残っている。
新聞に使われた写真もあった。
新聞の見出しはセンセーショナルなものだった。
「叛乱の首謀者ついに降伏!共和国防衛隊の勝利!」
「共和国は守られた!叛乱の首謀者に対して勇気を称えて歓待!寛大な措置」
号外が発行され大人気だった。
そのニュースは旧大陸にも届いた。
当然、遠い伯爵の城にも、ヴァルテック大佐やクロイツァー少尉にも。
「旦那様、新聞ご覧になりましたか?」
「あ…見たよ…よかった…良かった…これで…」
そういうと、伯爵は執事に背を向けて、窓の外をみた。
執事にはわかっていた。
きっと伯爵は顔が涙で濡れるのをみられたくなかったということが。
内戦の最前線。
駐屯地にいたヴァルテック大佐も新聞で知った。
クロイツァー少尉も同じだった。
「これで全てが終わればいいが…」
大佐には笑顔もなければ涙もなかった。
不安が頭を持ち上げていた。
今が彼女を連れ戻す絶好の機会だった。
激しくなる一方の内戦はそれを許さなかった。
遠い新大陸の、それもただの、国内情勢の変化がここ旧大陸の内戦にまで少なからず影響があるとは誰が思っただろう。
「共和国の勝利」…
それがここでは共和派の勝利のように語られた。
旧い体制が敗れ、新しい体制が勝利したとも語られた。進歩開明こそが国を富ませる。
そういうことを口にする人がふえていた。
ルートヴィヒもイルマも真実はそうではないことは自分達の目で見てわかっていた。
だが、それは誰にも伝わらないことだった。
内戦は次第に共和派に有利になっていった。




