帰還
失意のヴァルテック大佐とイルマ少尉が野営地に戻った時に、二人には、本国からの緊急の知らせがきていた。
「即、帰国せよ」
国内は共和派と政府軍の内戦が始まろうとしていた。
「あとはエルザの気持に任せるしかない…」
「私は残ります…」
「バカなことを言うな…命令違反は重罪だぞ…これ以上心配の種を増やすなよ(笑)私が潰れてしまう…」
大佐もイルマと同じ気持だった。
エルザを連れて帰らなかったことを伯爵に謝るしかない。
そう思うと気が重かった。
国内情勢が落ち着いたら今度は個人としてここに来て必ずエルザを連れて帰ろう。
その時にはエルザと根比べだ。
「少尉、もう一度戻るんだ。軍を辞めてな…そしてエルザを連れて帰ろう…」
大佐は彼女の気持がよくわかっていた。
周りとは違う存在として、二人には似たところがあった。
イルマも違いを認めない世界で必死に足掻いてきた。耐えてきた。
エルザは今同じように足掻いている。
それに共感するのも無理もない。
きっと今イルマを離したら、どこまでも追っていくだろう。それはもしかしてイルマの人生も…
それは避けたかった。
「わかりました…」
イルマはそう返事をした。
それは本心ではないことは十分わかっていた。
大佐には。
それでもよかったと思えた。
野営地から駐屯地まではパトリックの小隊が護衛の任に就くことに。
野営地出発の際には栄誉礼を受けた。
ラッパ手の演奏の中、整列した共和国防衛隊の兵士達。
その前を通る。
帰れば共和派との内戦が待っている。
不思議な感覚だった。
同じ共和派、共和国…
彼らはどんな国を目指すのか…
並んでいる兵士達が共和派に見えてくる。
こんな彼らと戦うのだろうか…
そんなことを考えながら大佐は兵士達に敬礼を返していた。
駐屯地についた二人はいよいよこの大地と別れの旅が始まる。
「オコンネル少尉…君には感謝している…エルザのことを知っているのは君しかいない…そんな人物がこの国に一人でもいることが救いだ…」
「光栄です…そこまで言っていただいて…少尉もおお元気で…」
大佐とパトリックは握手を交わした、
「オコンネル少尉、いつか来てください。故郷を案内します…」
「ええ、いつかお伺いします…」
イルマとパトリックも握手を交わす。
小隊整列の号令が出る。
2列横隊の兵士達に敬礼すると二人は列車に乗った。
パトリックも敬礼で二人を見送った。
エルザを知っている人…
それは自分ではない…
たしかに何回か会ってはいる。
大佐達にはそうでも言わないとなんの繋がりも、望みなくなってしまう…完全に何かが切れてしまう…
それを認めたくなかった。
だからだろう。
もう自分も彼女とは関わることはないと思えていた。
大きな歯車は動き出した。
彼にはそうみえていた。
自分もBLACKWOLFもエルザもその歯車に動かされる、末端の小さな小さな歯車に過ぎない。
歯車ですらないかもしれない。
歯車に付着するゴミ…
小さな小さな歯車につくゴミ…
歯車が外れて捨てられれば一緒に捨てられる。
その前に歯車から落ちてしまうかもしれない。
一つの歯車はもう外された。
用無しだ。
次は誰だ。
自分か…
彼女はどうする?
歯車の一つに過ぎない。
それでも抗うのか…
もう関係ないことは考えないことにした。
自分は歯車でもゴミでもいい。
最後までしがみついていく。
機関車の煙で列車はもう見えなかった。
それでも彼は敬礼を続けていた。




