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会談

「バカな!何を今さら!ただの時間稼ぎだ!」

作戦会議室で大きな声が上がった。

部屋の中は静かだった。

「こちらはもうあいつをいつでもつぶせる!それを話し合いなどと!」


「司令官。具申よろしいでしょうか?」

発言したのは参謀将校の一人だった。


「話し合いするとして、ただ相手の要求を聞くのではなく、こちらから要求を出しましょう。」


「どんな要求だ?」


「は!彼は生きたいと言ってるのですから、こちらからは、逮捕に応じること。そのかわり裁判の機会を与えると。そしておそらくですが、向こうからは同胞の保護とか伝統的な生活の維持のようなことを要求してくると思われます。その場でとりあえず了解する形にします。現場での口約束ですから後でどうとでもなります。」


司令官は沈黙したまま手元をみていた。

将校の内容を熟考してるようだ。


将校が発言を続けた。


「それに彼らが戦死になると、抵抗者として殉教した形になる可能性もあります。それが英雄扱いされまた火種になる…ということも。犯罪者として裁かれるのが適当かと…」


「あいつが応じなかったらどうする?」


「その時は当初の作戦通りです」


「よし!それで作戦計画を作ってくれ!」


野営地では出発の準備が進められていた。

BLACKWOLFのとの会談には副司令が代表として望むことになった。

先遣隊と合流後は、パトリックを仲介役として会談に望むメンバーを選定することになった。


その決定は、先遣隊のヴァルテック大佐達にも知らされた。

ヴァルテック大佐とイルマ少尉、そしてパトリック少尉はその決定に意外と驚いていた。

すぐに二人はエルザに会うために再びあの地点に向かった。護衛にパトリック少尉の小隊がついた。


「そろそろですね…」

パトリックは周りの様子を探りながら大佐に声をかけた。

そういうか言わないかのうちに上から声がした。


「今からそちらに行く!」


エルザだった。

大佐達は慎重だった。

この前の時のエルザは、異常だった。

二重人格…

そうかもしれないと大佐は考えていた。

長いこの地での体験が彼女に負担を強いていたのかもしれない。

そういうことは戦争でも兵士に起こることはある。


「感謝します…大佐」

よそよそしいその言い方。

それでも声はたしかにエルザの声だった。

どこか壁をあえて置こうとするのは、里心がつくのを避けるため。

壁を作って置かないとなだれのように帰ろうとする気持が押し寄せる。

逆にそれだけの気持がある証でもあると。


「エルザ、君の役割はもういいんじゃないか?あとはパトリック少尉や軍に任せても…」


エルザはそれに答えず、会談地点の説明をパトリックに始めた。


「彼はこの地点で待つと言っています。三人で来ます。」


「こちらは副司令が代表だ。それに俺ともう一人だ。」


「わかりました。準備でき次第出発してください。」


「エルザ!帰ろう!私と一緒に!」

イルマが突然叫んだ!

「もう、いいでしょ!」

エルザはそれを無視して去ろうとする。

イルマはエルザの腕をつかんだ。

エルザが腕を引いたその時イルマの姿勢が崩れた。

油断したと思った時には遅かった。

イルマの首元にはナイフが突きつけられていた。

いつものイルマならあっさりと反撃できただろう。

だが、今はできなかった。

エルザのナイフだったからだ。


「どうして…どうして…なんで…」


エルザを見つめるイルマの目は悔しさと寂しさで見開かれていた。

歯をかみしめていた。

自分の想いがなぜわかってもらえないのか…

一緒にいたはずのエルザは遠い大陸に渡ったせいで、心まで遠く離れたのか…

彼女に何があったのか…



「ちょっと大佐…」


大佐の銃がエルザを狙っていた。

パトリックはもういい加減にしてほしいというような顔だった。


「撃つなら撃てばいい!所詮大佐と私は別の世界の人間だ!」


エルザがますます興奮してるのがわかった。

別の人格なのか…

私とは別の世界…


それは彼女がこの生まれた大地で、たくさんの同胞の悲劇をみてきたからだ。

生まれた場所がそれぞれ違う。

その違いを乗り越えていたはず。

それがこの地でたくさんの同胞の血をみて、それは乗り越えられないものだと悟った。


大佐にはエルザの言葉が重かった。

それはイルマにも何度も言われた言葉…


大佐は銃をしまった。

そして胸のポケットから折りたたんだ封筒を取り出した。

それは伯爵からエルザに宛てたものだった。


「これを受け取ってくれ…」


彼はエルザに折りたたんであった封筒を渡した。


「戻ることができたらいつでも戻ってきていいんだぞ…」


彼女は封筒を受け取るとポケットにしまった。

そして去っていく。 

大佐には撃てなかった…

その覚悟をしていたはずだった。

エルザのその足掻いている、藻掻いている姿に…





BLACKWOLFは目を閉じたまま足を組んですわっていた。

香木の煙とその香りが風の弱いその谷間にわずかに溜まっていた。

その後ろに二人。

ライフルを持った古参の戦士が辺りを警戒していた。

BLACKWOLFが目を開けた。


エルザが共和国防衛隊の副司令とパトリックと兵士三人と斜面を登ってくるのがみえた。


兵士は周囲の崖を警戒していた。

その谷間が視界に入るかなり離れた崖の上には共和国防衛隊の狙撃手が待機している。


副司令はBLACKWOLFの前に置いてあった折りたたみの椅子に座った。

BLACKWOLFが立った。

副司令もそれに合わせて立った。

副司令が名乗った。

それに反応することなく、BLACKWOLFはパトリックの方をみた。

「おまえは来ると思っていた…」


「そりゃどうも…」


パトリックはなんで俺にだけ声かけるのかというバツの悪そうな感じで鼻をさわった。


副司令は座って話しを始めた。

BLACKWOLFも椅子に座った。

副司令の話は単刀直入に会議で決まった要求案を

だった。

その話の途中にBLACKWOLFが口を開いた。

 「大地は…」

副司令はそのBLACKWOLFの声の圧に、思わず話を途中でやめた。

「血を吸いすぎた…我々もお前らも…大地の神は無慈悲だ…我々も子供や孫がいる…みんな大地で生きなければならない…これ以上血を流せば大地の神は我々に何をするつもりなのか…それが気にかかる…私は生きて子供や孫に大地の神が何をするのか見届けたい…」


副司令は話をまたし始めた。

さっきまでとは違うゆっくりとした話し方だった。

BLACKWOLFのそのあまりに真摯な言葉に圧倒され、落ち着きを取り戻していた。


「我々の要求はそういうことだ…そうすれば生きて次の世代をみることはできる。どうだ?」


「我々はこの大地がないと生きてはいけない。それをわかってくれるなら…」


副司令の答えは作戦通りだ。

住民は安全に暮らせる場所に移動する。

それはできるだけ元の居住地から離れていない土地になる。

「裁判になれば君も言いたいことが言える。それは新聞にも載るだろ。たくさんの人が君のいうことを目にすることになる。」


「我々の声が届くのか?」


「そうだ。」


パトリックは下を向いたまま二人のやりとを聞いているふりをしていた。


「茶番だ…また…」


話し合いは終わった。

BLACKWOLFは器に入れた飲み物を差し出した。


「契りの酒だ…」


副司令はそれに答えなかった。 


「今回は我々の契りのやり方でいこう…」


副司令は握手の手を差し出した。

その手をBLACKWOLFは一瞬みると今度は自分の手をみてその手を差し出した。

副司令はその手を自分から引いて少し強引に握手をした。

それに笑顔もつけ加えた。わざと。


三人は、登ってきた斜面を下り始めた。

エルザはそんな三人をしばらくみていた。

それにパトリックは気がついた。

後ろに振り向くとエルザを少し見上げる形になった。


「ローゼンシュタインさん、大佐も少尉も待ってるんだ…遠いところから来て…どれだけの人があなたを気にかけるてると思う。わかってるのにそんな意地を張って悪いとは思わないのか?正直俺も迷惑だ…」


エルザの目つきが変わった。


「パトリックさん、わかってますよ…」


パトリックはそうだろう、よかったという安心したと思った。


「あなた方が何を考えてるか…私はもう許すつもりはありません…」


それだけいうと彼女は踵を返した。

去っていく彼女をみるパトリックの顔は憮然としていた。

なんでそこまで意固地なのか…

許さないとはなんだ…

パトリックは不機嫌なまま降りていき待っていてくれた副司令と兵士に礼をいった。


「お待たせしました。」


「政治家みたいなことはやりたくはないな…私は…」


副司令はそうつぶやいてさっさと降りていった。

パトリックは副司令にいうわけではなく、


「そうですね…」

一人つぶやいたがその顔には少し笑みがあった。








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