BLACKWOLFの決断
エルザはBLACKWOLFのあとを追っていた。
アハヌまた道を示してくれた。
ある村にたどり着いた。
だが彼女はそこに寄らずに先を進んだ。
そこにBLACKWOLFがいたことを感じていた。
だからあえて寄らなかった。
今さら…
「あいつがこっちに来る…」
見張りの仲間から連絡を受けたBLACKWOLFはなんの反応もなかった。
「あいつは俺達の邪魔をした!そのせいで、あんなことに…」
「あいつは俺達の敵だ!」
「あいつは許せない!」
若い戦士はBLACKWOLFに激しく詰め寄った。
「呪術師を殺すのか?」
BLACKWOLFはそう答えた。
一瞬答えに詰まる者達。
「呪術師だろうが、敵には違いない!俺達の呪術師ではない!そうだろ!みんな!」
「俺達のために祈れない呪術師は偽物みたいなものだ!」
「掟でどうなるか知ってるんだろ?お前達は…」
BLACKWOLFの側近、昔からの親友の戦士の言葉は重かった。
呪術師を殺した者は縛り首だ。
一族は村を追放される。
それだけ呪術師は神聖なものだった。
「俺は奴を歓迎したい…奴とは話せるはずだ…なにかを示してくれるならな…」
BLACKWOLFのその言葉のあとは誰もなにも言わなかった。
「俺達はあいつを信じない!それだけだ!」
そういうと集まっていた戦士達は去った。
エルザは谷底の道を進んでいた。
崖の上からは戦士達の視線があった。
警戒されていることはわかっていた。
ここで殺されても構わないと思っていた。
自分は結局なにか正義感に煽られてここまで来た。
でもその正義感で何ができたというのか…
子供の頃のようなことは二度とあってほしくない。
そう思って…
もう、争って誰が悲しむのは嫌だった。
もう終わりになるならどうなってもよかった。
こんな惨めな気持ちのまま、帰ることはしたくなかった。
誰も責めはしないことはわかる。
ただの我儘。
大佐やイルマまで会いに来てくれたのに、それも無駄にしてしまう…
戦士達が周りを囲み始めていた。
そのままどこかへ連れて行かれるかのように囲まれたまま進んでいった。
戦士の目つきは険しかった。
呪術師を観る目ではなかった。
無理もなかった。
あの戦いからの生き残りなのだから。
エルザがそのまま進んでいくと、BLACKWOLFの前まで来た。
彼は呪術師を迎えた。
膝をつき、大地に平伏した。
戦士の何人かは同じだった。
戦士の何人かは立ったままだった。
それは抵抗、否定の意思表示だ。
そのうちの一人が叫んだ。
「裏切者!おまえは呪術師なんかじゃない!ただの裏切者だ!」
彼の顔は険しかった。
エルザは後退りした。
BLACKWOLFがその戦士をチラリと見た。
その戦士はその場を去っていった。
何人かも一緒に。
「若いものが失礼をした。申し訳ない。」
BLACKWOLFは冷静だった。
「私は呪術師としてここに来たのではありません。だからいいのです」
「私は話をしにきました。私の話です…いいですか?」
その場に残っている戦士達は不思議そうな顔をした。
意味がわからないというような。
「では、客人ということにしよう。さあ、どうぞ…」
二人は小さな天幕に入った。
「私は小さな頃に村を襲われて村は焼き払われました。奴隷として売られるはずだったのが、私を助けてくれた人がいました。」
エルザは話ながら思い出していた。
港での伯爵との出会いを…
それから、自分がどんな人生を送ってきたかを話した。
BLACKWOLFは黙って話しを聞いてくれた。
「あの時…村が襲われた。そこにあなたはいた。私はあなたがやったと思っていました。だからあなたに会って話しをしたかった。最初は殺そうと思ってました。でも、ここにきてたくさのことをみたり、聞いたりした。」
エルザはタホマの村のことを聞いてみた。リードやナヤラやトマスはなぜあんなことに…
「酷かった…私はなにもしていない。弔いをしたのはあなただと知っている。死者も救われただろう…」
あ…やはりそうだったのか…
呪術師としてはわかっていた。
違うと。
それは正しかったのだ。
「私は大地は血を吸いすぎていると思っています。」
「そうだ…我々の血がたくさん流れた…子供が生まれても、血を流す時代では不幸が待っている…大地の神は我々の血が流れることをなぜ止めないのか…なぜ我々の血を欲しているのか?それがわからない…」
エルザの問いの答えだった。
「我々の役目に終わりが来るのだろ…あなたは私を滅ぼすと言った…」
「滅ぼす?それは誰が?」
「あなたから聞いた。」
「私から?」
「そうだ…」
エルザの顔が変わった。
BLACKWOLFの顔つきも変わった。
(誰?私のなかにいるのは…)
「覚えていたか…そうだ、私はおまえを滅ぼす者だ…」
(やめて!そんなこと言わないで!私をどうするつもり!)
(あなたは私が守ってあげる。私はローゼンシュタイン家の祖先だよ。魔女と言われた。あの無能な末裔の願いを叶えてあげるのさ。あいつは魔力石に私の力を込めた。それにあなたの呪術の力のおかげでこうやってあなたに語りかけているのさ。気がついたのはこれが初めてだね。)
(伯爵の?)
(あいつはあなたを我が子のように愛している。血がつながっていなくても。この魔力石がそれを証明している。先祖から受け継いだものをあなたに渡したんだからね。ここはあなたの心と体を傷つけることばかりだ。それがわかってたから。)
「どういうことだ!」
周りにいた戦士達が一気に殺気だった。
エルザの銃がBLACKWOLFに向けられる方が早かった。
「さあ、言え!今ここで終わるか、それとも終わりを先にするのか…」
「変わった問い方だな…人にはいずれ終わりが来る…それは人にはわからない…だがおまえは選べという…不思議だ…答えは簡単だ、ここで終わりにはしない。生きて同胞がどうなるかを見届けたい。私は少しでも生きて我々の子供らに教えていかなければならない。私でなくてもだ。誰かが子供らに我々のことを話さなければならない。」
「なろ、そうしろ…」
エルザは銃を収めた。
「もうすぐその時がやってくる。私はここを去る。エルザに伝えることはあるか?」
BLACKWOLFはしばらく考えているようだった。
「お前か何者か知らないが彼女に伝えられるなら、お前の生きてきたことは無駄ではない…感謝すると…怨霊に囚われずに生きろとな…」
エルザは返事もせず振り向きもせずBLACKWOLF前から去った。
「戦いの準備だ…奴らが来る」
BLACKWOLFは戦士達にそう告げた。
戦士達が慌ただしくなる中をエルザは一人ゆっくり去っていった。




