表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
60/79

野営地の攻防

平原の駐屯地。

それを遠くからかみている二人がいた。

一人はBLACKWOLF。

もう一人はエルザ。

二人は互いに存在を感じていた。  


エルザには旗がみえていた。

それはとても小さな旗。

この広い大平原の中では小さな存在だった。

それでもエルザにはみえていた。


「どうするのだ…奴らはかなりの数だ…」

炎の前で男は深刻な顔で話していた。

「若い奴らはそれでもやれるといきがっているが…

もう一人が手を前に組んでうつむき加減で続ける。

「あれだけの数でくるのだ、まともに戦って勝てるわけがない…」

彼らはすでにここが知られていることを知らないでいた。


男達に話しかけられていた黒い長い髪を黒い布で束ねた男が話始めた。


「それでも戦う…」

「なぜだ…」

問われた男は答えた。

「戦士だからだ」

男達は安心したかのように楽しそうに笑い始めた。

「そうだ!戦士だ!」

男達は互いに肩を叩きあって、にこやかに酒を酌み交わした。

だが、一人だけは酒を飲まなかった。



呪術師の祈りが始まった。

戦勝を祈るのだ。

戦士達は真剣な顔つきをしていた。


「おい…位の一番高い呪術師はなぜいない…」


「さあな…」


「あいつは半分俺達の仲間じゃない…」


そんな小声が祈りの最中にあった。


呪術師がBLACKWOLFの顔に赤い何かを塗る。そのあとに黒い何かを塗る。

そして羽を彼の頭を縛っている紐に刺した。

彼はそれが終わると銃を持って立ち上がった。

そして戦士達の前に出た。


「みんな、今俺は、大地の精霊、空の精霊、風の精霊、そして偉大なる戦いの神、勇者の声を聞いた!我々は戦士だ!死は恐れない!この体の血も肉も魂も、全て、俺達が生まれた、大地と空と風と草と鳥と虫、全てに還るのだ!どこにもいかない!ここにいる!それだけだ!戦士として勇者として!」


それを聞いていた多くの戦士達から叫びが出た。


「俺達は戦士だ!勇者だ!死を恐れない!俺達はどこにもいかない!ここにいる!」

歓喜と興奮が彼らを包んでいた。

互いの胸を叩きあって。



平原の中に築かれた巨大な共和国防衛隊の駐屯地。

BLACKWOLF掃討作戦の駐屯地は警備の交代の時間が来た。

見張り台にいた兵士は交代する直前まで警戒を怠らなかった。

「?…」

兵士の望遠鏡を握る手に力が入った。

「敵襲!」

鐘が激しく鳴らされた。

駐屯地は一気に臨戦態勢になる。

兵士が次々と配置につく。

「砲撃準備!」

砲兵が準備に入る。

「まさかあっちからやってくるとはな。」

司令官が制服の上着を着ながら副官に話しかけた。

「できるだけ戦力を削ぐチャンスですね」

「そうだな、しかし、何を考えてるんだ」

「よし、B作戦だ」

「ハ!」

副官は敬礼をして司令部を急いで出ていった。

ついにBLACKWOLF達戦士の攻撃が始まった。



「いいか!作戦Bだ!撃ちまくれ!奴らをミンチにして砂に混ぜてやれ!」

砲兵隊の指揮官の激が飛ぶ


「いよいよくるな…」

パトリックが望遠鏡を手にしていた。

ヴァルテック大佐とクロイツァー少尉もライフルを構える。


見張り台の砲撃観測手が望遠鏡を持ち直して覗き込んでいた。

「え…人…」

「人が見えます!」

「当たり前だ!敵だ!」

「いえ!人が!見てください!」

士官は兵士の気配に押されて望遠鏡で砂塵をみた。

「人…人…だ…砲撃中止!」

砲兵隊の指揮官が慌てる。

「どうしてだ!」

司令官が副官に問う。

「どういうことだ!」

「いえ、人が…」

司令官は自分の望遠鏡で確認した。

「なんでだ…」

たしかに司令官も自分で確認した。


突撃してきていたBLACKWOLF達も人がいることに気づいた。

それでも突撃は止まらなかった。



「あれは…エルザ…」

クロイツァー少尉がポツリとつぶやいた。

ヴァルテック大佐も望遠鏡でみていた。

「どうします、大佐…」

「我々にはどうにもできない…エルザは全てわかってやってることだ…祈るしかないよ…残念だが…」

「しかし…」

クロイツァー少尉は腰のサーベルの柄を握らしめた。


(なにやってんだ…彼女は…もういい加減にしてくれ…)


パトリックは前のことを思い出していた。


(また同じことやるつもりか…この規模で…)


エルザは背中のライフルの銃口を空に向けた。

そして撃った。何発も。


「なにやってんだ…」


望遠鏡をみながら士官がつぶやく。


エルザの撃った弾丸は突撃してくる集団の前の土にめり込んだ。

途端に地面に閃光が走る。

地面が盛り上がった。

それはまるで壁だった。

馬たちが驚いて止まりだした。


「こっちだ!絶対あきらめん!」


BLACKWOLF達は盛り上がった土の壁に沿って走り出した。

それはエルザの想定外だった。

エルザも馬を走らせた。


「どうする…」


彼女にはどうしたらいいのかわからなかった。


「見えるか?」

「はい、見えます。」

砲撃観測手が答えた。

「奴らは壁が無くなるところから出てくるはずだ。あとは…」

砲兵隊は壁が無くなる地点に照準を合わせていた。

BLACKWOLF達が壁の無い地点に差し掛かった時砲撃が始まった。


エルザは聞いたこともない音がするのに気づいた。

誰かが泣いているのか…

寂しげな…

悪霊の叫びのような…

地響きが鳴り風が砂を辺り一面に…

舞い上がる砂塵と人馬…

次々と砲弾がとんでくる。

砲声は遠く離れた山にまで届いた…

地響きにも似たその音はこの瞬間まで毎日いつもの生活を平穏に送っていた人々を不安に陥れた。

誰もがその音がやってくる方向を不安げな顔でみた。


エルザは地面にうずくまっていた。

大地の揺れと砂を巻き上げた風…

悪霊の叫びは続く。

エルザはだんだん砂に埋まっていく。

怖かった… 

どれだけ魔術が使えても、呪術の力があっても…

怖かった…

初めて…

そういえばルーカスのお父さんが言ってた…

戦場のルーカスのことを…

怖い…怖い…


突撃はやまなかった。


「止めなければ…」

と思ったがエルザは動けなかった。もう間に合わない。

砲撃は止んだが配置についていた兵士達の一斉射が始まった。

その音は幾重にも重なって雷鳴のように響いた。

ガトリング銃が火を吹く。

残った戦士達をきり裂いていく。

エルザの内側にいるはずの何かはなにもしなかった。

「どうして…なにもできないの…」

それでもエルザは動き出した。降り積もった砂彼女のからだから滑り落ちた。

ライフルを構えた。

それももう遅かった。

BLACKWOLF達は撤退を始めていた。

残り少なくなった戦士達…

傷ついてなんとか手綱を取り帰っていく。

途中で落ちてしまった戦士は立ち上がらない。

射撃が止まった。

エルザは呆然とそこにとどまっていた。

結局自分は何をするためにここに来たのか…

どうして止められなかったのか…

力はどうしてうまく使えなかったのか…

何が間違っていたのか…

なにもわからなかった…


兵士達の銃口はエルザに向いていた。


「エルザ!エルザ!」


どこからか声がした。

イルマだ。


「そこにいて!今行く!」

イルマは走り出した。

血だらけで横たわる戦士達…

バラバラになった肉片…

そこをイルマは走った。

エルザもう少しで近づいた時エルザは叫んだ。


「来るな!来たら撃つ!」


エルザはライフルの銃口をイルマに向けた。


「撃つな!」


ヴァルテック大佐がパトリックに叫んだ。

「撃つな!撃つな!」

今度はパトリックが兵士達に叫んだ。

「待機だ!待機!」

士官たちが一斉に声を張り上げて指示を出す。


「それ以上来るな!私は本気だ!」


エルザは本気だということをわからせるために一発イルマに向けて撃った。弾ははずれた。


「どうして…エルザ帰りましょう…みんな待ってるから…伯爵も…ルーカスも…」


イルマは拒否されても仕方がないが、言わずにはいられなかった。

この前彼女と話した時にもう無理なのではとは思っていたが、今この状況、エルザの無謀とも言える行動を目の当たりにすると。


エルザは突然現れた。

あの日、あの夜に。

旗は役目を果たした。

あの可愛い笑顔のエルザは、そこにはいなかった。

この大地の過酷さが変えたのか。

顔は薄汚れ、黒く、ところどころ血のかさぶたができていた。

痩せていた。


彼女はほとんど話さなかった。

イルマが一方的に話すだけだった。

国のこと、伯爵のこと、いろんなことを。

イルマは寂しかった。

エルザが話してくれないことが。

だが、話してくれとは言えなかった。

話したくない理由があるんだろうから。


「そう…よかった…」

それがその時イルマの聞いたエルザの唯一の声だった。


砂が血を覆い始めていた。

もし、このままにしておけばいずれ全て砂になるのだろう。

エルザの肩が大きく動いた。

大きなため息が、呆れたとでも言うような。


「帰る?まだ私にはやることがあるのだよ(笑)」


エルザの声ではなかった。

イルマは気がついていない。

「エルザ、どうして…もういいでしょ!」


「エルザは帰らない…心配するな、この娘は私が守ってやる。私の力を信じるのだ(笑)」


「何言ってるのエルザ…いや、誰?どうしたの…あなたは誰なんですか?」


「そうか、割と聡いな…柔軟なのだな…おまえは…では、ローゼンシュタイン家の当主に伝えてもらいたい。私がこの娘を守るから安心するがいいとな。魔力石をこの娘に渡したのはいいことだった。無能な我が一族の末裔としては。」


エルザの魔力石が鈍い輝きを放っていた。

魔力石が声を発していた。


ヴァルテック大佐がイルマを心配して歩き出した。


「さて、これ以上は面倒だ。あとは頼んだ。」


魔力石からの声がそういうとエルザは去ろうとした。

イルマが飛びかかった。あっという間に。

馬からエルザを引きずり下ろした。

途端に二人の格闘が始まった。

ヴァルテック大佐が走り出す。


「小隊続け!」

パトリックの命令で彼の小隊が動き出した。

パトリックのあとを追って小隊の兵士が走り出す。

突如銃声が鳴った。


イルマが撃たれた。エルザに。

エルザなのか。

それでもイルマは諦めない。

ついにエルザを後ろから絞め上げた。

エルザの魔力石から閃光が放たれた。

イルマの腕がエルザの首から外れてぐったりとした。

エルザがゆっくり起き上がる。


ヴァルテック大佐は銃に手をかけた。

それを一瞥してエルザは去っていった。


「クロイツァー少尉!」


ヴァルテック大佐がイルマに声をかける。


「担架だ!担架を持ってこい!軍医を呼べ!」


パトリックが部下に指示を出す。


そんな声を聞きながらエルザはゆっくりと去っていった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ