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戦場の魔女

平原を黒煙を上げながら列車が爆走する。

ただの列車ではない。

前線へ重装備の部隊を届ける列車だ。

貨車にはたくさんの銃や弾薬。

装甲車両もつながれている。

そこからは大きな黒い砲身が伸びていた。


列車が悲鳴のような軋みをあげ始めた。

機関士の目には前方のレールがはがされているのがみえた。

軋みは平原中に響きわたる。

やがて列車は止まり始める。

——その瞬間だった。

草原の彼方から、叫び声が上がる。

若い戦士たち。

怒りと憎しみをまとったまま、馬を駆り、列車へと殺到する。

銃声が弾けた。

窓を撃ち抜き、扉を撃ち抜き、鉄板に火花が散る。

それと同時に客車の窓から次々と銃身が出てくる。

そして次々と応戦の射撃が始まった。

装甲車両からも砲撃が始まる。

飛び散る人と馬。


貨車の扉が開いた。

ガトリング銃が火を吹いた。

回転する銃身が唸りをあげた次の瞬間、世界が裂けた。

轟音。

連続する閃光。

弾丸の嵐。

戦士たちが、次々と弾き飛ばされる。

馬が倒れ、地面が抉れ、肉と土が混ざる。

誰も止められない。


砲撃とガトリング銃であたりは肉と血がばらまかれた。


その時だった。

——風が吹いた。

砂塵があたりを覆った。

そこから

一筋の黒いなにかがこちらに向かってくる。

荒野を裂くように、馬が駆け抜ける。

黒衣の女。

エルザ。

だが、あの彼女ではない。

瞳は赤黒く燃え、

その存在は、もはや人ではなく——“何か”だった。

低く、しかし世界に響く声。

馬上からライフルを構える。

狙うのは——装甲車両の砲身とガトリング銃。


「血に飢えた鉄の魔物よ…その力を私がいただく…」

呪が紡がれる。

言葉にならない、古く、深い響き。

胸の魔力石が鈍く光る。

そこからからだを伝い光が銃に流れる。

引き金が引かれた。

——瞬間。

弾丸は、ただの弾ではなかった。

黒い閃光となり、空気を裂き、

まるで意思を持つかのように一直線に突き進む。

装甲車両の砲塔へ。

直撃。

装甲車両の砲塔の砲身をとらえた。


ただそれだけだった。

砲身はその黒い閃光が砲身に吸い込まれた。

黒い閃光は砲身を突き抜けた。

すると砲身はその部分から真っ二つになった。

砲身の半分は土埃をあげて転がった。

砲塔は沈黙した。

 


第二弾はガトリング銃に向けられた。

エルザは狙いを定め撃った。

今度の黒い閃光はガトリング銃の銃身に刺さった。

“沈黙”が訪れた。

回転していた銃身が、唐突に止まる。

音が消えた。

まるで——存在そのものを否定されたかのように。


「なっ……!?」


「どうした!撃たんか!」

上官が喚く。

「撃てません!」

「動きません!」

防衛隊の兵士たちがざわめく。

銃身には大きな穴が空いていた。



「クソ!もういい!小銃に切り替える!」

兵士達は次々と小銃に持ち替える。

列車からの銃撃が弱まる。

「今だ!!」

戦士たちが叫ぶ。

一気に攻撃を強める。

怒りに燃えたまま、列車へと突撃する。

——だが。

その瞬間。

エルザの銃口が、今度はゆっくりと彼らへ向けられた。 

放たれた魔弾は一発。

空中で分かれ、増え、歪み、

複数の戦士たちへ同時に襲いかかる。

次の瞬間。

彼らは銃を弾き飛ばされる。

肩を撃たれ、腕を撃たれ、足を撃たれ——

だが、誰も死なない。

急所だけが、正確に外されている。

「なぜだ……!?」

倒れた戦士が叫ぶ。

その混乱の中——

エルザは、今度は共和国防衛隊へと銃を向けた。

客車の窓から貨車から装甲車両から兵士達の小銃が突き出ていた。

そのたくさんの銃身を狙う。

そして、撃ち始めた。

反撃してくる兵士に次々と撃ち続ける。

兵士達の小銃は銃身の先を次々と切り落とされていた。

兵士は次々と銃を離した。 


双方が、同時に沈黙する。

その中心に立つ、黒の女。

風が吹く。

黒衣が揺れる。

赤黒い瞳が、全てを見渡す。

そして——叫んだ。

「みよ!我が力を!!」


「これ以上続けるなら——!」

ゆっくりと、銃口を持ち上げる。

空へ。

「次は!死ぬことになる!どうする!」

その言葉は、冷たかった。


一人の戦士が剣を投げた。

しかしそれはエルザの前で地面に落ちた。


誰も彼女になにもできなかった。

ただ——その場に立ち尽くすしかなかった。

黒い魔女が、戦場そのものを支配していた。

誰もが何が起こっているのかを把握しかねていた。


そのうち襲撃してきた戦士達は去り始めた。

それは一方の勝利でも敗北でもなかった。

勝利も敗北もない。

もし勝利したものがいたとしたらそれはエルザ。

ただ、彼女一人だけだ。

彼女は人々に力を示した。

それはあっと言う間に広まった。

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