表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱職『錬金術師』ですが、現代知識でポーション革命を起こしたら王国が騒然としています  作者: 青空もち
第1章「ポーション革命の始まり」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/130

第4話「まず一本、確かめてから」

「高品質・低価格ポーション、本日より営業開始!」


俺は自作の看板を工房の前に立てかけた。


試験契約の残り二日は、朝から晩まで作り続けた。出来上がった分は、ギルバートさんが宿場の常連に売って回ってくれた。七日目の夜、「これなら、店を出せる」と一言だけ残して帰っていった。


あれから一週間が経った。マルコから温度計を受け取ってから、俺は毎日製造と試作を繰り返していた。エミリアの助言で処方を直してからは、効果も安定している。


「アレン君、これは素晴らしい出来だ。王都の錬金術師ギルドが聞いたら、さぞ悔しがるだろうね」


ギルバートさんの言葉が、何よりの励みになった。七日間の試験期間は、もう終わっている。


そして今日、ようやく販売用の在庫が揃った。下級回復ポーション20本。これが俺の、本当の意味での最初の製品だ。


リバーサイドの中心通りに面した、決して広くはない店舗。だが、ここが俺の新しいスタート地点だ。


「さて、お客さんは来てくれるだろうか」


不安がないと言えば嘘になる。リバーサイドは小さな街だ。錬金術師の評判なんて、まだ誰も知らない。しかも俺は追放された身。信用もゼロからのスタートだ。


工房の前を通り過ぎる人々の反応を観察する。


「錬金術師? 珍しいな」


「ポーション? 高いんだろうな」


「怪しくない? 新参者だし」


ちらちらと看板を見る人はいるが、誰も入って来ない。棚に並べた20本のポーションだけが、朝の光を受けて静かに輝いている。


やはり、そう簡単にはいかないか。でも、諦めるわけにはいかない。品質には絶対の自信がある。一人でも試してもらえれば、必ず良さが分かってもらえるはずだ。




開店から2時間が経過した。


相変わらず客足はゼロ。工房の中で、俺は製造記録を見返していた。


「問題は品質じゃない。認知度だ」


前世でマーケティングを学んだわけじゃないが、これくらいは分かる。どんなに良い製品でも、知られなければ意味がない。


その時だった。


バタン!


工房の扉が勢いよく開いた。


「ポーションある!? お願い、助けて!!」


息を切らした金髪の少女が飛び込んできた。年は俺と同じくらいか、少し若いかもしれない。剣を腰に下げ、軽装の鎧を身につけている。


「怪我をしてるのは、あなたですか?」


「違う、外に! 仲間が……!」


振り返ると、仲間に支えられた大柄な男が、戸口に運び込まれてくるところだった。腹に布を巻き、血が滲んでいる。顔は蒼白だ。


「谷でゴブリンの群れに囲まれて……持ってたポーション、全部使ったの! それでも、傷が塞がりきらなくて!」


少女が、震える声で言った。


「応急処置で血は止めたけど、これ以上は……お願い、何か!」


俺は棚から下級回復ポーションを手に取った。心臓が早鐘を打っている。だが、頭の芯だけは冷えていた。前世でも、緊急時ほど冷静に手順を踏むことの大切さを、嫌というほど叩き込まれてきた。


初めて売る相手が、初めて見る症状の重傷者だ。この人がどんな傷を負い、どんな薬を既に飲んでいるのかも分からない。ここで焦って何本も飲ませて、もし体質に合わなかったら――。


「まず一本、確かめてからにしましょう」


俺は瓶の栓を抜き、大柄な男の口元に運んだ。


「え?」


少女が驚いた顔をした。だが、俺は続けた。


「効果を見てから、追加を判断します。今、闇雲に何本も使うより、その方が早い」


男が一口飲み込む。俺は傷口に意識を集中させた。


一秒。二秒。三秒。


布の下で、みるみる傷が塞がっていくのが分かった。男の顔に、みるみる血の気が戻ってくる。


「信じらんねえ」


男が掠れた声で言った。


「一本で、ここまで塞がるのか。俺たちが持ってたやつは、二本飲んでも、こうはならなかった」


「銀貨2枚です」


俺は静かに言った。通常、下級回復ポーションは銀貨5枚が相場だ。


「あと何本か、必要ですか?」


「頼む、五本くれ」


「大丈夫ですか、無理して買わなくても」


「いや、五本で十分だ」


男は苦笑いした。荷物を担ぎ直しながら、まだ痛みの残る腹を押さえている。


「それに、全部買い占めちまったら、次に困ってる奴が買えなくなるだろ。残りは、また今度でいい。取り置いといてくれよ」


その一言に、俺は胸を突かれた。命を助けられたばかりの男が、まだ会ったこともない誰かの心配をしている。


「分かりました。次に来ていただいた時のために、優先して回すようにします」


少女が顔を上げた。目に涙が滲んでいる。


「本当に、助かった。あの、名乗るのが遅れてごめんなさい。私、リリア。リリア・ハートウェルっていうの。冒険者ギルドに登録してる、E級剣士」


「アレン・クロフォードです。この街で工房を始めたばかりで」


「アレンさんね。ありがとう。この恩は、絶対に返すから」


「いえ。無事で良かったです」




一行が去った後、俺は棚を確認した。残り14本。


「初日から、こんなことになるとはな」


思わず声が漏れた。まさか開店初日に、命の危険がある客が来るとは。


しばらくして、また扉が開いた。


「あの、ポーションって、まだありますか?」


若い男性の冒険者だった。


「はい、ありますよ」


「良かった。さっき、広場で聞いたんです。血まみれの男を担いだパーティが、この工房から出てきて、皆で泣きながら礼を言ってたって。たった一本で、瀕死の重傷が治ったって話で」


もう噂になっているのか。


「本当かどうか半信半疑でしたけど、来てみて良かった」


男はポーションを二本買っていった。


その少し後には、年配の女性冒険者が顔を出した。


「若いのが一人で工房やってるって聞いたけど、あんたか。……谷の話、本当かい?」


「本当ですよ。今、見せられるものは何もありませんが」


「はは、正直な奴だ。気に入った。一本だけ、もらおうかね」


彼女は瓶を光にかざし、透明度を確かめてから頷いた。


「悪くない色だ。長くやってりゃ、良し悪しくらいは分かるさ」


そう言って、彼女は銀貨を置いていった。品定めするような視線の中に、確かな信頼が混じっていたのを、俺は見逃さなかった。


その後も、ぽつぽつと客が訪れた。全員が「谷から運ばれてきた男の話」を口にした。


「口コミの力、すごいな」




夕方には、14本は全て売り切れていた。


工房の作業台で、俺は今日の売上を記録に書き足した。


「今日みたいなことが、また起きるかもしれない」


品質を落とさず、それでも数を確保しなければならない。前世で見てきた。量を優先して品質を疎かにした企業の末路を。だが、今日のような重傷者が来た時に、在庫が一本もない事態も、避けなければならない。両立させる方法を、これから探さなければならない。


「一人で作れるのは、1日10本が限界か」


温度管理、魔力の注入、混合、精製。全ての工程を手作業でやっている以上、物理的な限界がある。誰かに手伝ってもらう必要が、いずれ出てくるだろう。


その時、扉が控えめにノックされた。


「アレン君、お邪魔してもいいですかな」


ギルバートさんだった。


「今日の評判、もう耳に入っていますよ。谷の一件、見事な仕事でした」


「ありがとうございます」


「七日間、いや、それ以上の証明になりました。正式な契約書を、明日にでも交わしましょう。月に銀貨3枚、変わらずに」


「助かります」


ギルバートさんは笑って、工房を後にした。


一人になった工房で、俺は明日の製造計画を立て始めた。


薬草の在庫確認、道具の点検。やるべきことは山積みだ。


でも、不安はなかった。


今日、リリアという最高の客と、彼女の仲間に出会えた。「残りは、また今度でいい」――あの一言が、何よりの励みになる。


「よし、頑張るか」


窓の外では、リバーサイドの街に夜の静けさが訪れていた。


小さな工房の明かりだけが、夜遅くまで灯り続けていた。


(第4話 完)

ここまでお読みいただきありがとうございます。 もし本作を読んで、面白かった!


と少しでも感じていただけたら、


↓広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に


評価していただけると、執筆速度が上がります! 応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ようやくお店がスタートで幸先もよさそうでこの先が楽しみです! ところで剣士ちゃんがお店に来た時怪我をそのままにしてましたけど手当てしてないのは何故でしょう?もし薬で治すつもりで放置してたならそもそも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ