第1話「追放された錬金術師」
はじめまして、または、こんにちは。
『最弱職「錬金術師」ですが、現代知識でポーション革命を起こしたら王国が騒然としています~ブラックギルドを辞めたら、ホワイト工房で大成功しました~』にお越しいただき、ありがとうございます。
追放された錬金術師が、現代の「品質管理」や「業務効率化」の知識を武器に、異世界で成り上がっていくお仕事系サクセスストーリーです。
戦闘描写は控えめに、工房経営・ものづくり・組織作りの面白さをメインに描いていきます。 小さな工房が王国一番の企業へと成長していく過程を、楽しんでいただければ幸いです。
それでは、どうぞお楽しみください。
「君は追放だ」
ギルドマスターの冷たい声が、工房に響き渡った。
俺、アレン・クロフォードは、その言葉の意味を理解するのに数秒を要した。
追放?俺が?
「ヴィクター様、それは一体...」
「見ての通りだ、アレン」
白髪の初老の男性、ヴィクター・アルケミスは、机の上の書類を指で叩いた。
そこには俺が作ったポーションの検査結果が並んでいる。
「君の作るポーションは規格外だ。我がギルドの基準から逸脱している」
「しかし、効果は従来品と同等、いえそれ以上のはずです。データでもそれは明らかで—」
「データ?」
ヴィクターは鼻で笑った。
「錬金術は数百年の伝統に裏打ちされた技術だ。我々は代々受け継がれてきた手法を守り、それによって品質を保証してきた」
彼は俺を見下すような目で続けた。
「君のような若造が、勝手な方法で作ったものなど、信用できるはずがない」
言葉が喉に詰まった。
俺は前世の記憶を持っている。
現代日本で製薬会社の品質管理部門にいた俺は、不慮の事故でこの世界に転生した。
そして気づいたのだ。
この世界の錬金術には、品質管理という概念がまったく存在しないことに。
「温度管理、分量の正確な測定、製造工程の記録...これらは品質を安定させるために必要なことです」
「安定?」
ヴィクターの眉が吊り上がる。
「君の作るポーションは、毎回色が違う。濃度も微妙に異なる。それのどこが安定していると言うのだ?」
「それは...」
確かに、見た目は毎回少し違う。
でも、それは不純物の除去率が高いからだ。前世の技術を応用して、可能な限り純度を上げている。
結果として、従来のポーションより透明度が高く、色味が薄くなる。
だが、それを説明しても無駄だと分かっていた。
「職人の勘こそが全てだ」
ヴィクターは言い切った。
「君にはそれが欠けている。だから、君の作るものは信用できない。以上だ」
「...分かりました」
俺は深く頭を下げた。
反論しても無意味だ。この世界では、伝統と経験が全てなのだ。
科学的根拠に基づいた品質管理など、理解されるはずもない。
工房を後にすると、廊下で他の錬金術師たちとすれ違った。
彼らの視線が冷たい。
「やっぱり追放されたんだ」
「当然だろ。変なことばかりして」
「温度計だの記録だの、面倒なことばかり言いやがって」
ヒソヒソ話が聞こえてくる。
俺は何も言わず、自分の作業台に向かった。
三年間使った作業台だ。
ここで必死に研究し、前世の知識を活かそうとしてきた。でも、誰一人として理解してくれなかった。
「規格外、か...」
苦笑いが漏れる。
前世でも似たようなことがあった。品質管理の重要性を訴えても、現場からは「余計な手間を増やすな」と反発された。
結局、大きな品質問題が起きてから、ようやく理解された。
でも、この世界ではそのチャンスすらもらえなかった。
荷物をまとめながら、俺は決意した。
ここを出よう。王都を離れて、一から始めよう。
誰にも邪魔されない場所で、自分の信じる錬金術を追求しよう。
品質管理を徹底し、データに基づいた製造工程を確立する。そうすれば、必ず認めてもらえる日が来るはずだ。
「アレン」
振り返ると、若い錬金術師の一人が立っていた。同期のマルクスだ。
「お前、本当に出ていくのか?」
「ああ。追放されたからな」
「...そうか」
マルクスは複雑な表情で言った。
「正直、お前のやり方は面倒だと思ってた。でも、効果は確かだったよな。俺が作るより、確実に良いものができてた」
「ありがとう」
それだけで十分だった。
一人でも分かってくれる人がいた。それだけで、少し救われた気がした。
「どこに行くんだ?」
「辺境の街、リバーサイドに行こうと思ってる」
「リバーサイド?あの田舎町か?」
「ああ。小さな街だが、冒険者ギルドがあるらしい。ポーションの需要もあるだろう」
「そっか...頑張れよ」
「お前もな」
最後の荷物を背負い、俺は王都錬金術師ギルドを後にした。
振り返らない。前だけを見る。
石畳の道を歩きながら、前世での経験を思い出していた。
製薬会社で学んだこと。品質管理の基礎。統計学。製造管理。
そして、何より大切なこと—良い製品を作れば、必ず認められるということ。
「錬金術師が最弱職?結構じゃないか」
誰に言うでもなく、呟いた。
「なら、その最弱職で、この世界に革命を起こしてやる」
王都の門をくぐる時、後ろから鐘の音が聞こえた。
正午を告げる鐘だ。
新しい人生の始まりにふさわしい時間だった。
リバーサイドまでは馬車で三日の道のりだという。
所持金は銀貨が十五枚。決して多くはないが、小さな工房を始めるには足りるはずだ。
馬車に揺られながら、俺はノートを開いた。
これまでの実験データをまとめたものだ。温度と魔力量の相関。混合比率と効果の関係。保存期間と品質劣化のパターン。
全て、この三年間で地道に記録してきたものだ。
「このデータがあれば、必ず安定した品質のポーションが作れる」
同乗者—商人らしき男性—が不思議そうにこちらを見ていたが、気にしない。
前世での教訓がある。
品質は偶然では生まれない。正確なデータと、それに基づいた管理によってのみ、安定した品質が実現できる。
「リバーサイドか...」
車窓から流れる景色を眺めながら、俺は小さく笑った。
不安はない。むしろ、ワクワクしている。
誰にも邪魔されず、自分の信じる錬金術を追求できる。これ以上の環境があるだろうか。
「待ってろよ、ヴィクター。いつか必ず、俺の作ったポーションが王国中で使われる日が来る」
その時、お前がどんな顔をするか、楽しみにしているよ。
馬車は王都から離れ、緑豊かな平原へと進んでいく。
新しい人生が、今、始まろうとしていた。
追放された錬金術師の、逆転の物語が—。
【第1話 完】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
初めての「小説家になろう」投稿で緊張していますが、楽しんでいただけたでしょうか。
この作品は、戦闘控えめ・生産職メインの異世界転生ファンタジーです。
主人公が現代知識を活かして、地道に成長していく様子を描いていきます。
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をいただけると、飛び上がるほど嬉しいです。 これからもアレンたちの逆転劇にお付き合いください!




