表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

第1話「追放された錬金術師」

はじめまして、または、こんにちは。


『最弱職「錬金術師」ですが、現代知識でポーション革命を起こしたら王国が騒然としています~ブラックギルドを辞めたら、ホワイト工房で大成功しました~』にお越しいただき、ありがとうございます。


追放された錬金術師が、現代の「品質管理」や「業務効率化」の知識を武器に、異世界で成り上がっていくお仕事系サクセスストーリーです。


戦闘描写は控えめに、工房経営・ものづくり・組織作りの面白さをメインに描いていきます。 小さな工房が王国一番の企業へと成長していく過程を、楽しんでいただければ幸いです。


それでは、どうぞお楽しみください。

「君は追放だ」


ギルドマスターの冷たい声が、工房に響き渡った。


俺、アレン・クロフォードは、その言葉の意味を理解するのに数秒を要した。


追放?俺が?


「ヴィクター様、それは一体...」


「見ての通りだ、アレン」


白髪の初老の男性、ヴィクター・アルケミスは、机の上の書類を指で叩いた。


そこには俺が作ったポーションの検査結果が並んでいる。


「君の作るポーションは規格外だ。我がギルドの基準から逸脱している」


「しかし、効果は従来品と同等、いえそれ以上のはずです。データでもそれは明らかで—」


「データ?」


ヴィクターは鼻で笑った。


「錬金術は数百年の伝統に裏打ちされた技術だ。我々は代々受け継がれてきた手法を守り、それによって品質を保証してきた」


彼は俺を見下すような目で続けた。


「君のような若造が、勝手な方法で作ったものなど、信用できるはずがない」


言葉が喉に詰まった。




俺は前世の記憶を持っている。


現代日本で製薬会社の品質管理部門にいた俺は、不慮の事故でこの世界に転生した。


そして気づいたのだ。


この世界の錬金術には、品質管理という概念がまったく存在しないことに。


「温度管理、分量の正確な測定、製造工程の記録...これらは品質を安定させるために必要なことです」


「安定?」


ヴィクターの眉が吊り上がる。


「君の作るポーションは、毎回色が違う。濃度も微妙に異なる。それのどこが安定していると言うのだ?」


「それは...」


確かに、見た目は毎回少し違う。


でも、それは不純物の除去率が高いからだ。前世の技術を応用して、可能な限り純度を上げている。


結果として、従来のポーションより透明度が高く、色味が薄くなる。


だが、それを説明しても無駄だと分かっていた。


「職人の勘こそが全てだ」


ヴィクターは言い切った。


「君にはそれが欠けている。だから、君の作るものは信用できない。以上だ」


「...分かりました」


俺は深く頭を下げた。


反論しても無意味だ。この世界では、伝統と経験が全てなのだ。


科学的根拠に基づいた品質管理など、理解されるはずもない。




工房を後にすると、廊下で他の錬金術師たちとすれ違った。


彼らの視線が冷たい。


「やっぱり追放されたんだ」


「当然だろ。変なことばかりして」


「温度計だの記録だの、面倒なことばかり言いやがって」


ヒソヒソ話が聞こえてくる。


俺は何も言わず、自分の作業台に向かった。


三年間使った作業台だ。


ここで必死に研究し、前世の知識を活かそうとしてきた。でも、誰一人として理解してくれなかった。


「規格外、か...」


苦笑いが漏れる。


前世でも似たようなことがあった。品質管理の重要性を訴えても、現場からは「余計な手間を増やすな」と反発された。


結局、大きな品質問題が起きてから、ようやく理解された。


でも、この世界ではそのチャンスすらもらえなかった。




荷物をまとめながら、俺は決意した。


ここを出よう。王都を離れて、一から始めよう。


誰にも邪魔されない場所で、自分の信じる錬金術を追求しよう。


品質管理を徹底し、データに基づいた製造工程を確立する。そうすれば、必ず認めてもらえる日が来るはずだ。


「アレン」


振り返ると、若い錬金術師の一人が立っていた。同期のマルクスだ。


「お前、本当に出ていくのか?」


「ああ。追放されたからな」


「...そうか」


マルクスは複雑な表情で言った。


「正直、お前のやり方は面倒だと思ってた。でも、効果は確かだったよな。俺が作るより、確実に良いものができてた」


「ありがとう」


それだけで十分だった。


一人でも分かってくれる人がいた。それだけで、少し救われた気がした。


「どこに行くんだ?」


「辺境の街、リバーサイドに行こうと思ってる」


「リバーサイド?あの田舎町か?」


「ああ。小さな街だが、冒険者ギルドがあるらしい。ポーションの需要もあるだろう」


「そっか...頑張れよ」


「お前もな」




最後の荷物を背負い、俺は王都錬金術師ギルドを後にした。


振り返らない。前だけを見る。


石畳の道を歩きながら、前世での経験を思い出していた。


製薬会社で学んだこと。品質管理の基礎。統計学。製造管理。


そして、何より大切なこと—良い製品を作れば、必ず認められるということ。


「錬金術師が最弱職?結構じゃないか」


誰に言うでもなく、呟いた。


「なら、その最弱職で、この世界に革命を起こしてやる」




王都の門をくぐる時、後ろから鐘の音が聞こえた。


正午を告げる鐘だ。


新しい人生の始まりにふさわしい時間だった。




リバーサイドまでは馬車で三日の道のりだという。


所持金は銀貨が十五枚。決して多くはないが、小さな工房を始めるには足りるはずだ。


馬車に揺られながら、俺はノートを開いた。


これまでの実験データをまとめたものだ。温度と魔力量の相関。混合比率と効果の関係。保存期間と品質劣化のパターン。


全て、この三年間で地道に記録してきたものだ。


「このデータがあれば、必ず安定した品質のポーションが作れる」


同乗者—商人らしき男性—が不思議そうにこちらを見ていたが、気にしない。




前世での教訓がある。


品質は偶然では生まれない。正確なデータと、それに基づいた管理によってのみ、安定した品質が実現できる。


「リバーサイドか...」


車窓から流れる景色を眺めながら、俺は小さく笑った。


不安はない。むしろ、ワクワクしている。


誰にも邪魔されず、自分の信じる錬金術を追求できる。これ以上の環境があるだろうか。


「待ってろよ、ヴィクター。いつか必ず、俺の作ったポーションが王国中で使われる日が来る」


その時、お前がどんな顔をするか、楽しみにしているよ。




馬車は王都から離れ、緑豊かな平原へと進んでいく。


新しい人生が、今、始まろうとしていた。


追放された錬金術師の、逆転の物語が—。


【第1話 完】

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


初めての「小説家になろう」投稿で緊張していますが、楽しんでいただけたでしょうか。


この作品は、戦闘控えめ・生産職メインの異世界転生ファンタジーです。

主人公が現代知識を活かして、地道に成長していく様子を描いていきます。


もし「面白かった」「応援してやるぞ」と思っていただけましたら、


ページ下部(広告の下)の【☆☆☆☆☆】より評価


をいただけると、飛び上がるほど嬉しいです。 これからもアレンたちの逆転劇にお付き合いください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ