合流
どうやって皆と合流しようかと悩んでいると、船首でパナメラが片手を空に向けて口を開いた。
「……炎幕」
そう口にした瞬間、空に向かって炎の帯が伸び、空中でカーテンのように薄く広がった。炎を広範囲に展開する魔術のようだ。
それを見上げていると、パナメラが船の方に向かって顎をしゃくってみせた。
「とりあえず、こちらに気が付くように合図を送ったぞ。どうにかこちらまで来てもらうしかないだろう?」
「確かに」
パナメラの言葉に素直に従い、予備の矢を準備する。
「あ、船が動いてます!」
「本当? ディーのいた方に向かって……ん?」
ティルと一緒に矢を並べて準備していると、アルテから報告が入った。言われて振り返ると、予想外の映像が視界に入る。
船はディーの落ちた場所とこちらの間を縫うように移動しているだけでなく、船首の向きが細かく変わるような妙な挙動をしている。
「え? 壊れちゃったのかな!?」
船の動きに首を傾げながら目を凝らして海面を見てみると、小さな水しぶきが上がっていた。ディーが追われているのかと不安になったが、どうやら違うらしい。
「……もしかして、ディーが泳いでこっちに向かってきてるの?」
自分でも信じられないが、目で確認できる内容を言葉にしてみた。それにパナメラが半眼になって頷く。
「どうやら、そのようだ。もう驚き疲れたな」
大型魔獣が何体もいるような海を、ディーは驚くような速度で泳いでいた。それには人魚たちも目を丸くする。
「む……人間にも速く泳ぐ者がいるのか」
「本当に人間か?」
そんな会話が聞こえてくるが、ノーコメントである。ディーが人間かどうかは永遠の謎なのだ。
一方、化け物ディーが海を割くような速度で泳いでくる中、船の方はディーをピックアップすべきか僕の下へ行くべきかと、迷いながら進んでいるようだった。それであんな挙動なのね。
納得しつつ、近づいてきた船の船首に懐かしい顔ぶれを発見してホッとする。
「カムシン! アーブとロウもいる!」
こちらに向かって手を振る三人の姿を見て、思わず涙が出そうになる。ディー含め、僕にはもったいないくらいの仲間達だ。こんな危険な海に出て、僕たちを探してくれたなんて。
密かに感動していると、隣で手を振っていたティルがハッとした顔になって口を開いた。
「あれ? 船酔いはなくなったのでしょうか? 慣れ?」
そんなことを言うティルに、そういえばとカムシンを見る。カムシンは涙こそ流しているようだが、酔っているようには見えない。
そんな会話をしている内に、ディーと船が同時に僕たちの船の横に到着した。人魚たちは左右に分かれて道を作り、一番にディーが泳いできて僕たちの船に乗船する。
「おお! ヴァン様……っ!」
ディーは真顔で走ってくると、そのままの勢いで抱き着いてきた。強靭なディーの抱擁。いや、ただのベアハッグである。ぎりぎりと体中の骨が軋み、身体が悲鳴を上げる。
「ぎゃああああああ!?」
「心配しましたぞ! 心配しましたぞぉおおおおっ!」
ディーが更に力を込めた時、意識は半分どこか遠くへ飛んで行ってしまった。
それからどうなったのか。気を取り戻した時には青い空が視界いっぱいに広がっており、視界の端にカムシンの顔があった。その後ろにはアーブとロウの顔もある。
「ヴァ、ヴァン様……! 大丈夫でしたか!?」
涙を流しながらカムシンが僕の名を呼んでいる。いや、さっきまで大丈夫だったんだよ。本当に少しダイエットしたくらいで、元気いっぱいだったんだよ。もしここで死ぬとしたら、犯人はディーである。
「……とりあえず、生きてるよ」
虫の息でそれだけ告げると、カムシンが地面に膝を突いて深く頭を下げた。
「……本当に、申し訳ありません……っ! あの時、ヴァン様の手を……」
カムシンが涙声でそんな謝罪をして、なにを後悔しているのか理解出来た。あの船が傾いて海に落ちる時、僕の手を取れなかったことを悔いていたのだ。
いや、とんでもない極限状態であり、なおかつ一瞬の出来事である。誰がカムシンを責めることが出来るだろうか。
そう思い、肩を震わせて泣くカムシンの頭に手を乗せて笑った。
「今、助けに来てくれたじゃないか。ありがとう、カムシン」
感謝の気持ちを込めてそう告げると、カムシンは勢いよく顔を上げ、大粒の涙をぼろぼろと零した。子供のようにしゃくり上げるカムシンの姿に、アーブとロウも釣られて涙ぐんでいる。
ふと、その後ろにオルト達の姿も発見する。どうやら、ディー達を手伝ってくれたらしい。
「オルトさん達もありがとう。助かったよ」
そう告げると、オルト達は深く頷いて笑った。
「どういたしまして……って言っても、お世話になってばっかだったんで、気にしないでください」
オルトがそう言うと、クサラとプルリエルも無言で頷いている。それに口の端を上げて笑みを浮かべた。
「え? じゃあ、新しい剣も作らなくて良い? 今回はお世話になったから、皆に作ろうかと思ってたんだけど」
そう言って笑うと、オルトとクサラが目を見開いてギョッとした。
「それは報酬としてくださいよ!?」
「あっしも頼みやすぜ!?」
二人のリアクションを見て、誰ともなく笑い出す。ようやく、いつもの日常が帰ってきた気がして嬉しくなった。




