人魚の協力
「すみませんが、僕達の仲間が反対側にいるかもしれません。そこまで連れて行ってくれたら、魔獣の撃退に協力出来ますよー!」
人魚達にそう提案する。少し話し合いの時間はかかったが、最終的に提案を受け入れてもらえた。
「いやー、助かりますー」
「協力してもらえるなら是非もない」
「あ、ちょっと待ってくださいねー」
お互い、陸の端と海の端という境界線に集合し、話し合いを始めることとなった。岩肌が露出する少し険しい海岸ということもあり、人魚達の内四人が岩場に腰掛けている状態だ。
一人は先ほどから交渉を担当している三十代ほどの見た目の男の人魚。あとは同じくらいの年代の女の人魚と、五十代くらいの勇ましい雰囲気の男の人魚。そして、リルダの四人だ。
四人に待ってもらい、その間に急ぎで船を作る。人魚に運んでもらえるように、五人乗りくらいの小さな船だ。一応、載せられるだけのウッドブロックも積んでおいた。
「……よし、こんなものかな? お待たせしましたー!」
そう言ってリルダ達に声を掛けると、リルダ達からは唖然とした表情が返ってくる。
「……人間とは、このようなことが出来るのか」
「だから、知らない内に増えているのだな」
「人間、怖い……」
そんな感想を頂き、これはマズイと焦る。今から協力し合う予定なのに、怖がられるのは良くない。
「こ、怖くないよー? あ、皆に武器をあげようかな。ほら、お近付きの印にどうぞ」
優しく微笑み、ウッドブロック一つを使って使いやすそうな短剣を作り、プレゼントする。男の人魚に手渡してみると、男は訝しげな顔で短剣を受け取った。
そして、近くに流れ着いていた流木を切ってみる。
音もなく、綺麗に両断できた。良かった。こんなプレゼントは誰でも嬉しいだろう。
そう思ったのだが、それを見ていた他の人魚達は一メートル以上離れてしまった。
「人間、怖い……」
「あんな武器見たことない……」
「……あんなものを、すぐに作った」
口々に不安そうな声が聞こえてくる。どうやら逆効果だったらしい。
「……少年。わざとやってないか?」
しまいにはパナメラにまでそんなことを言われてしまうのだった。
色々と問題や不幸な誤解はあったが、どうにか船を押してもらえることになった。ちなみに、何も考えずに本当に船の形状にしてしまったので、押せる人数に限りが出てしまい、船の先端に輪っかを付け、前方から引くことも出来るように改良した。
結果、人魚三十名の力により、船はモーターボートと化す。
「うわー、楽しい!」
「速いですねー!」
「風が気持ち良いです」
僕とティル、アルテが童心に帰って喜ぶ。まぁ、僕とアルテはしっかり子供だが。
「これなら数時間もかからんな」
パナメラもご機嫌な様子でそう口にした。移動速度が速くなるというのは皆嬉しいのである。職業軍人ともなれば尚更かもしれない。
「揺れる?」
ふと、船の前方から声を掛けられた。見ると、船首に両手でしがみ付いて顔を出したリルダの姿があった。
「大丈夫だよ。凄く速いから楽しいくらい」
笑顔でそう告げると、リルダは少しだけ微笑み、頷いて海へと戻っていった。
それを見送っていると、パナメラが含みのある笑みを浮かべる。
「ふぅん……?」
「え? なんですか?」
パナメラの奇妙な反応に聞き返すが、ニヤニヤしているだけである。
「何もないですよ?」
「何がだ?」
釘を刺してみたが、パナメラはどこか嬉しそうに首を傾げていた。その表情と反応を見れば何を想像しているのかは誰でも分かる。
「もう! ありえないでしょ! そう思うよね、アルテ?」
味方を増やそうと思ってアルテに話を振ったのだが、何故か返事が無かった。違和感を感じて振り向くと、アルテが視線を逸らして押し黙っている。
「……ヴァン様は、ラダプリオラちゃんと婚約した過去が……いえ、でも、今回は少し年上の方ですし……?」
ぶつぶつと妙なこと呟くアルテ。それを見て、パナメラが声を上げて笑う。
「はっはっは! ほら、味方はいないぞ?」
パナメラが嬉しそうにそんなことを言うので、そんな馬鹿なとティルを見る。すると、ティルは笑顔で頷いた。
「大丈夫です。ヴァン様の魅力は種族を超えて必ず……!」
「超えなくて良いんだよ!?」
見当違いのフォローが入り、思わず突っ込んでしまった。それを見て腹を抱えて笑うパナメラが憎らしい。
そんなコントのようなやり取りをしていると、今度は男の人魚から声を掛けられた。
「もう反対側に着くが、あの船に見覚えはあるか?」
「え?」
予想外の言葉に驚愕しつつ、男の指差す方向を見る。
そこには、僕が作った大型船の姿があった。そして、船のすぐそばには巨大な魔獣らしき影が……。




