第26話 「共同戦線」
「こんなに邪気を放つ神さまは見たことがない」
「うん……まだ、成金の方がよっぽどいい」
「でも、ここには"人"は住んでないんだよね?」
「……ここは神さまだけだよ……」
「なら、浄化をすればすぐに良くなりそうな気がする」
「相手は神、発する気は人よりも万倍」
開都が静かに言った。
「それが完全に邪気になってる。成金はあくまで人相手だったからうち一柱でも難なく浄化できた。でも神は力が大きすぎるから、うち一柱じゃ敵わない。もしかしたら、邪気に侵食されてうちまでもおかしくなるかもしれない」
「そうか……」
「……」
「力也?さっきから何も話してないけど、どうしたの?」
「……」
ひかりに声を掛けられても力也は黙ったままだった。
その様子を見て、蓬生は風呂敷を漁ると何かを取り出し、力也に手渡した。
「はい、これ飲んで」
「あぁ、ありがとう」
ゴクリ……!
「うわっ!くそ苦ぇ!蓬生、何を入れた!?」
「ただの苦い水だよ。効能は……無い!」
「はぁ!?」
「でもその苦さで、頭はスッキリするかもね」
「スッキリせんでも策は浮かんどるわ」
「えぇ!?」
「なんだ、その驚いた顔は。おれがただの"脳筋"だと思ってんのか」
「うん!」
蓬生は眩しすぎるほどの満面の笑みで頷く。
「おいっ」
しかし、力也は本当に策を練っていた。
「じゃあ浮かんだ策を教えてよ」
ひかりは半分期待していなかったが、一応聞いてみた。
「"みかづち"を呼ぶ」
「みかづち?」
「うずめ……お前、本気で言ってんのか?まさか"みかづち"を知らないのか?」
「……うん」
力也の驚く顔を見てひかりはたじろいだ。
「みかづちって、"建御雷神"のことよね?」
開都が聞く。
「そうだ。香香背男、いや、"天津甕星"を押さえにいった神々のうちの一柱だ。あいつを呼んで、おれと二柱でこの"バカ共"を押さえ込む」
「ちょっと!バカ呼ばわりしないでよっ!あぁ見えてもうちの故郷の仲間だよ!」
「そうだよ!言い過ぎだよ!」
ひかりも応戦する。しかし、力也は冷静に切り返す。
「全員神、そんでもって全員貪り。もうバカ以外の何なんだ。こいつら神の自覚あんのか」
「あるよ!あるけど……なんでこうなっちゃったの……」
「建御雷神を呼んで押さえるのはいいけど、あの神、結構気難しいぞ」
森樹がどこか心配そうに力也に聞く。
「あいつとおれの仲だ。来てくれるだろ」
そう言うと力也は、伝書鳩を呼んだ。鳩の中でもっとも速い「神速鳩」がやってきた。
「クルッポー!」
「普通に話せ」
「……あはい、すみません。どちらまで」
「え〜〜〜〜っ!普通に喋ってる〜〜〜〜!!」
「あ、普通に喋るよ。神速鳩は」
ひかりの驚きに対し、蓬生が冷静に教えてあげる。
「この文を建御雷神まで、大至急だ。よろしく頼む」
「クルッポー!お任せください!」
そう言って飛び立とうとした鳩だったが、その直前に振り返った。
「あ、でも建御雷神さまは今大変なことになってます!」
「は?」
「実はさっき、"海原"まで郵便配達しに行ったんですが、その時建御雷神さまが"黒いもや"を出した何かと戦ってました!今はどうなってるか分かりません!」
「そうか、向こうもそんな状況か。まぁいい、とりあえず文は渡してくれ。できれば返事もくれるとありがたい」
「クルッポー!」
そう言うと鳩は飛び立った。
「海でも"黒いもや"か……」
「全国各地か」
「こりゃーしばらく旅は終わらなそうだね」
「いいだろ、別に。ただ、黒いもやがなければもっと楽しい旅だったのにな」
「え!わたしとの旅、楽しい!?」
「……」
「もしかして、あの二柱、仲いい?」
「さぁね」
「少なくとも悪くはない」
「さて、みかづちが来るまでどうするか」
つんつん。
「ひかりちゃん!?何やってるの!?」
「何って、この砂金本物かなって。ちょっと触ってみた」
「えぇーーーっ!危ないよ!もしかしたらその砂金が元凶かもしれないんだよ!」
「そうだよ!生薬とか御神酒じゃ治らないかもしれないんだよ!」
蓬生の発言に森樹も大きく頷く。
「うずめは、出会った頃からあんな感じだ。おれが止められてたら、今ごろあんなことやってねぇよ」
「……」
「いや、人の話聞けよ!」
「ねぇ、これ、"ただの砂"だよ?」
ひかりは、川床に落ちている砂金のようなものをすくいあげた。
「いやいや、そもそもすくいあげるな。どれどれ……あれ、触ると光沢が消える。なんで?」
「どれどれ見せてみ?……ホントだ。ただの砂だ」
「ねぇ森樹、見てみてよ。土系は詳しいでしょ?」
蓬生は森樹に砂を渡す。
「……うーん、確かにこれは川辺によくある砂だな」
「……幻覚か」
力也が静かに話す。
「幻覚?」
「貪り化が極限まで悪化すると幻覚が見えるようになる。恐ろしい力だ」
「じゃあ、幻覚作用を無くせばいいのか!」
「そんな生薬あるのか?」
「あるのか、ないのか。そんな二択は僕にはない!僕は一択、"つくる"のみ!」
蓬生は自信満々に答えた。
「お〜〜〜!じゃあお願い!」
ひかりが、瞳を輝かせながら言った。
「任せなさい!」
蓬生はそう言うとそそくさと風呂敷を漁る。調合に使う道具を出していく。
「つくるって今からか。相当時間が掛かりそうなんだが」
「大丈夫!さっきお茶屋さんで薬草と御神酒を分けてもらったから。あれだけあれば半刻も掛からないで発明できる……はず!」
「そうか、じゃあ問題無さそうだな。あとは、みかづち待ちか」
その時、遥か彼方から走ってくる者が現れた。
「お〜い、田力〜、なんだあの文は〜」
「あ、来たな。やけに早いな」
「いやー、参ったね。海の次は川か」
「その調子だと海も相当だったな?」
「あぁ、海も相当だが、ここもヤベーな。向こうの倍だ」
「じゃあ、共同戦線だな」
「そうだな、久しぶりにやるか」
「戦線張るのはいいけど、消さないでね」
「それなら問題ない。加減くらい分かる」
「互いに力の神同士だ。大丈夫。で、あんた誰?」
「少名毘古那神です」
「そうか!おれは"建御雷神"だ!田力はおれを"みかづち"と呼ぶ!よろしくな!……って田力、お前少名毘古那神と旅してんのか?天鈿女命じゃなく?」
「そいつなら今あそこにいる」
そう言われたみかづちは、力也の指差す方を向いた。そこには砂金を探す天鈿女命がいた。
「あれもこれも全部砂!砂金なんてないじゃない!」
「ひかりちゃんが探してどうすんの!」
「へぇーあれが。噂には聞いていたが、あんなに自由奔放だとはな」
「あいつを天津甕星のもとに連れてけば、今頃こんなことしなくて済んだかもな」
「そうだな。あんだけ自由奔放なら、天津甕星もそれにつられる感じで天照大神さまに従ったと思うな。あの時は半ば強制で従わされてたからな」
みかづちは、邪気を発する神を次々と押さえていく。反撃に出た神は力也が応戦する。
「……あいつ、まだ何か神徳を隠してそうだよな」
「そうか?まぁ、踊りだけで天照大神さまの気を引くのは正直無理だよな。自然と引き付ける"何か"を発してたのか?田力、『天の岩戸事件』の時、近くにいたろ。なんか感じなかったのか?」
「あの時は特に感じなかったな。ただ、"笑ってた"な。世界が闇に包まれてたあの時も」
「"笑ってた"、か。本当に、なんつーか、"自由"だな。おとぎ話にでも出てきそうだ」
「さぁな。あいつ、"神気を最大限出したら"どうなるんだろうな」
「あの事件ではまだ本気出してなかったのか」
「あれに本気もくそもないだろ。なのにな、なんであんなに周りを惹き付けるんだろうか」
「天鈿女命、一体"どこの出"なのかね」
「さぁ、知らん。天の岩戸の時も舞を舞ってくれと言われていたのに、なんかよく分からん激しい踊りをして周りも大爆笑。まぁ今となっちゃぁ、あれのおかげで夜が明けたがな」
「どっか"島の外"でも行ったんかな」
「それも知らん。そもそもあいつと出会ったのは天の岩戸事件の時だしな」
「え、そうなの?もっと前に会ったのかと」
「付き合いはお前の方が長いよ、みかづち」
「そうか!」
「……あの、口だけじゃなくて体も動かしてくれませんか」
蓬生が、さっきから喋ってばかりいる力也とみかづちに釘を刺す。
「あー、わりぃわりぃ。もう終わった」
「へ?」
蓬生が見ると、そこにたくさんいた"貪り神"は既に全員シバかれていた。
「あとは蓬生、お前に託す」
「了解、まかせて。もう生薬はできた。あとはこれを"撒く"」
「少名毘古那さん、あんた蓬生って呼ばれてるのか。人と干渉してるのか?」
「まぁね。相棒と旅してた時から人とは仲良くしてました」
「相棒か。おれも欲しいな、そんなやつ」
「お前には経津主神がいるだろ」
「あいつか。あいつは何だかんだ忙しそうだしな」
「……なぁ、途中で話題を変えるのはしゃくだが、蓬生、今"撒く"って言ったか?」
「うん、もう撒いてる」
力也とみかづちが蓬生を見る。そこには、ジョウロで生薬入りの御神酒を貪り神にぶっかける蓬生の姿があった。
「いや、植物に水をやるんじゃないんだから。もっと他にあったろ、やり方」
「だって起きないもん」
「それは、まぁ……」
「撒いて意味あるのか?」
「分からない。ただ、毛穴から吸収してくれれば、どうにかなる」
「いや、塗り薬か」
蓬生はひたすら御神酒を撒く。それを見て開都は、邪気祓いの準備を進める。
果たして、上手くいくのかいかぬのか。
―――第27話へ続く。




