第25話 「砂金」
「ゲホッ!ゲホッ!……っあーヤバイヤバイ。おいヤベーぞ、あの川」
「何があったのですか?」
「真っっっっっ黒。果実も何もあったもんじゃない。もはや何にもない」
「その"暴れてる"巾着はちなみに……」
「あーこれはヤマメだよ。真っ黒だけど無いよりはいい」
「真っ黒……」
「ん?君は確か……!速開都比売神だね!ちょっと大変なことになっててね。いやーあの香香背男にたぶらかされて自ら貪っちゃったなんてねー、口が裂けても言えないよねー」
「あのー、この方は?」
ひかりが訪ねる。
「この神ね、この茶屋の主人。名前は……」
「"宇迦之御魂神"だよ!人の世では活動してないけど、他の神からは"うかさん"って呼ばれてる。もっといいあだ名あったと思うけどなー」
「えぇ!あなたがあの宇迦之御魂神さまですか!思ったより……その……ちゃら」
「なかなか"煌びやか"な格好だな」
「ホントぉ!?いやー君、いい感性してるね!どう?良かったら君もこんな格好、する?」
「いや、断る」
「ちぇーつれないなー。じゃあ、そこのお姉さん!」
うかさんは、そう言うとひかりの方を向く。
「え?わたし?」
「そう!君だよ君!見た感じ踊るの好きそうだし、この格好したらもっと人気出る気がする!」
「いやぁ……まぁ……」
ひかりは内心、ちょっと着てみたいと思った。
白狐が咳払いしながら話に割り込んだ。
「それで、川が真っ黒とは具体的にどういう状況でしょうか?」
「真っ黒は真っ黒だよ、そのまんま。流れてる水はまるで墨汁。川辺の石は黒曜石かと思ったよ。木も真っ黒。ほぼ炭だね、あれ。集落の神々なんかみんなやつれちゃってたし、なんなら『砂金だぜぇ〜〜〜』とか言って暴れ回ってる。もはや神かどうかも怪しいやつがいたりして。とにかく、見た感じも真っ黒、内面も真っ黒。そんな感じになっちゃってた。頼みの綱の"瀬織津姫神"はどっか行ったのかいなかったし、どうしちゃったんだ?」
「姉さんが、いない!?」
開都の声が揺れた。
「瀬織津姫神さまに妹がいただと!?」
森樹が驚きながら言った
「え?お姉さんがいるのは別に普通じゃないの?」
蓬生が不思議そうに森樹に聞く。
「長から度々浄化の話を聞かされて、その度に名前が出てくる女神さま。それが瀬織津姫神だけど、長から家族関係の話は一切聞かなかった」
「いやぁ、まぁ、浄化の話に家族は関係ないっちゃないしなー」
「姉さん……」
「……大丈夫だよ、開都ちゃん!必ず見つかる!」
ひかりはなんとか言葉を捻り出す。
「……そうだね。よし、うかさん、霊狐ちゃん、そして白狐くん。こういうことだから、うちら行くねっ!」
「はい!くれぐれもお気をつけていってらっしゃいませ」
「うん!」
こうしてひかりたち五柱は、走って川辺へ向かうのだった。
―――とある場所。
「さぁ、どうしようかなぁ。"瀬織津姫"ぇ。消すかぁ、それともぉ、俺のもんにするかぁ。はぁ、間がいいのか悪いのかぁ、妹はいなかったなぁ」
「……」
「おいおいぃ、なんか喋れよぉ。でないとぉ、眷属に食わすぞぉ!」
瀬織津姫神は黙ったまま、ただうつむいていた。
(開都も連れてこられたら、人の世は完全に終わってしまう……!どうか無事でいて……!)
「おい!その女神さまから手を離せ!穢らわしい!」
「はぁ!うるせぇなぁ!いつになったら消えるんだよぉ、"若沙那売"ぇ!」
バチンっ!
「アンタは早くぅ、石に刻めよぉ!"俺が正統な神"だってよぉ!建御雷とか経津主はともかくぅ、"建葉槌"とかいう女神が余計なことをするからぁ、俺はぁ何もできなかったじゃねぇかぁ!おかげでぇ、俺が軽く屈してぇ建葉槌が従わせたみてぇな歴史にしやがってぇ!それを"誇張して"石に刻むとかいうとんだ残し方をするアンタら庭高津日神一族も俺はぁ大っ嫌いなんだよぉ!」
「そんなの知らんわ!わたしはまだ、歴史を記したことねぇんだよ!師匠はなんかやってたけど、どこにあるか分かんねぇんだよ!」
「だから今のうちに歴史を変えるんじゃねぇかぁ!」
「……ねぇ、あんた"本当に香香背男"?本当に"天津甕星"なの?」
「はぁ!?あたりめぇだろぉ!」
わかなは黙って、目を細めた。
(師匠から聞いていたのと違う気がする……)
ガチャン。
「! おいおいぃ、何外してくれちゃってんのぉ!?」
(くそっ!あと片手なのにっ!)
「もう、アンタは消すかぁ。元々"祓戸四神"は消す予定だったしぃ」
「!!」
「祓戸四神を消してなんの意味があるのよ!」
「穢れが溜まるだろぉ?そしたらぁ、"神々の力が衰える"だろぉ?そしたらぁ……」
「!!」
―――開都の故郷。
「……どう……蓬生……これは……どうにかできる……?」
「……できるかもしれないし、できないかもしれない……」
「……速見さんは見ない方がいいかも」
森樹は、開都の目元を隠そうとする。
「…………」
「…………」
この状況にはさすがに力也も言葉が出ない。
「うひゃぁ、砂金だぁ」
そこには、干からびた川の底を這いつくばるように砂金を探す、"神々"がいた。
その神々からは、"黒い邪気"が溢れていた。
―――第26話へ続く。




