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八百万ライフ*わたしたちの日常*  第2巻 「河川の巻」  作者: 天鈿ひかり(うずめひかり)


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第24話 「"守るべきもの、倒すべきもの"」

 力也は、無我夢中で走った。父のいる実家へ。


 やっとの思いでたどり着いた家で、力也は絶句した。


 そこには、身体中から神気という名の"血"が溢れ出て、骨同然の細さにまでしおれた父が横たわっていた。胸に刀を刺されて。


「父さん! 父さんっ! おい! 父さん! 起きろよ! なぁ!」


 涙が溢れ、前が見えない。それでも叫んだ。だが、反応は無かった。


 父は静かに消えていく。まるで、炭が灰になり空へ舞っていくように。


 この時、力也は嫌でも"その座"に就かなければならなかった。こんな形で継ぎたくはなかった——「二十九世 天手力男神」を。


 それからしばらくして、力也は我に返った。


「……! わかなっ!」


 この怪事件は"独り神"が狙われた事件だ。今、わかなはまさにそれに当てはまっていた。


「……しまった!」


 力也は駆け出した。父はとうに消え、そこには父を刺した刀しか残っていなかった。力也はこれを引き抜いた。この刀で"奴"を消そうと、腹に決めた。


 そこには本来神が持ってはならない"憎しみ"があった。奴に対して。そして——自分自身に対して。


 高庭邸へ着いた。遅かった。


 そこには、全身から血を流したわかなを担ぐ天津甕星がいた。辺りは酷く荒らされていたが、唯一「いわながひめ」だけは崩れていなかった。


「貴様っ!よくも父とわかなを!」


「あぁ、アンタがアイツの子かぁ。神と精霊の子。"純血"を壊した子。あんな精霊のどこがいいのかぁ」


「!! 貴様ぁ〜〜〜!!!」


 力也が思いっきり刀を振るった。それがいけなかった。


「これだから"脳筋"はぁ」


「!」


 天津甕星は、担いでいたわかなを盾にした。刀はわかなに直撃した。


「あ……あ……あーーーーーーーーーーーーーっ」


「無様なぁ。良かったなぁ、"ボロ刃"でぇ」


 そう言い残し、天津甕星はわかなを連れてこの場を去る。去り際、力也にこう言い残した。


「なぁアンタぁ、庭高津日神の神徳って知ってるかぁ?こいつらの家系はなぁ、庭師"だけじゃねぇ"のよ。こいつらはなぁ、裏で"石工"もやってんのよぉ。本当に"歴史バカ"に石工をやらしちゃいけねぇよぉ。じゃあなぁ"脳筋"」


「このクソガキィーーーーーーー!!」


 天津甕星は、嘲笑いながら去った。


 力也は、自分自身に八つ当たりした。


 頭を地面に叩きつけ、折れた刃先で体を刺す。こんなことをしていてもわかなは戻ってこない。それくらい分かっていた。



 それから三日三晩、力也は引きこもった。酷い絶望に飲まれ、一柱、何をするでもなく引きこもった。


 どれくらい経っただろう。


 力也はふと、わかなと製作した「いわながひめ」を見た。相変わらず頑丈に、そして華やかに佇む。ただ、岩の側面にある窪みに違和感を感じた。恐る恐る近づく。そこには血痕がついた紙切れが挟まっていた。


 『たすけて つれてかれる もっともほ』


「なんだ、これは」


 力也には、これが何を意味しているのか分からなかった。唯一分かるのは、『たすけて つれてかれる』だ。


「……おれは、天手力男神失格だ。何の為に修行を続けたんだ……」


 そんなことを考えた時、ふと父のある言葉が頭の中に響いた。


 『なぁ、力也。力の神は不用意にその力を使ってはならない。"守るべきもの、倒すべきもの"、これを見極めろ。見極めず、ただ力を酷使してはならない。酷使はただ、周りを傷つけるだけだ』


「守るべきもの、か。おれはそれを失った……」


 力也は、しばらく紙切れを見つめた。


 (……いや、まだ"消えてはない"かもしれない。まだ、『もっともほ』が分からない。もしかしたら暗号か?それとも書ききれなかったのか?これが、少しの希望か)


 力也は立ち上がった。"少しの希望"とともに。


 それから力也は、修行の時に一番苦手だった"冷静力"を付ける修行を始めた。


 それが今、力也が早朝に起きて外へ出る理由だ。彼は今も"冷静力"を体得するための修行を、毎朝続けている。


 ―――現在。「茶屋 おきつね茶本店」。


 ひかりは力也の眼差しを受けて、静かに開都へ向き直った。


「力也の言う通り、今は休んだ方がいいよ。こういう時の力也の言葉は信じた方がいい。わたしは、絶対に信じる」


「……ひかりちゃんがそこまで言うなら……」


「よし!じゃあ、作戦会議を兼ねて休憩だ!」


 こうして、作戦会議という名の休憩が始まった。


「たぶん、東の山の大山さんみたいにしおれてる人たちがたくさんいると思う。それが神様なら、生薬と御神酒で何とかできるよ」


「霊狐ちゃん、御神酒と生薬はある?」


「御神酒ならあります。だけど、生薬は無くって、薬草ならあります」


「薬草があれば大丈夫です!僕は調合ができますから!」


「なんと!頼もしい神さま!」


「彼、少名毘古那神ですから」


「!!」


 白狐は冷や汗をかいた。彼らが来た時、白狐は追い出そうとしていたからだ。強引に。


「もし、まだ木々の神気が底をついてなかったら、精霊に私の力を分けて活性化させられるかもしれない。そしたら香香背男を押さえる手助けができる」


「香香背男を押さえられたらあとは……力也、頼んだよ!」


「あぁ、任せろ」


 力也の返事は力強かった。まさに、天手力男神のごとき神気を帯びた返事だ。こう言う時の力也はとても頼りになる。ひかりは安心した。


 作戦会議は終わった。あとは向かうだけだ。


「さぁ!行こう!開都ちゃんの故郷へ!」


「「おーっ!」」


 みんなで一致団結したその時だった。


「ゲホっ、ゲボっ……」


 バタンっ。


「!?」


 茶屋に誰かが入ってきたが、そのまま倒れた。その姿を見て、霊狐と白狐は驚きを隠せなかった。


「主人!?」




―――第25話へ続く。

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