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ラブコメs日和  作者: 水無月盈虧


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56/60

56.てんこうせいの好感度が、いつの間にかカンストしてた件⑦

「……デート?」


 思わず意味を理解できず、俺は言葉をオウム返ししてしまった。


「はい! デートです!」


「デートなのは分かったけど、なんでこのタイミングなんだ?」


「秀さんは、私のことが好きなんですよね?」


 突然の直球質問に、俺は思わず赤くなりながらも、


「あ、あぁ……好きだよ」


「でも……」


「でも?」


「秀さんは私のことを、子供扱いしてます!」


「……あぁ、なるほど」


 ようやく彼女の言いたいことが見えてきた。


「なので、そのことを秀さんのお母様に相談したんです」


「……なんて返ってきたの?」


「えっと……『秀は今まで彼女がいたこともないし、女友達すらいなかったからねぇ。ちょっと彼女っぽいことをすればコロッと落ちると思うよ』って、おっしゃっていました」


 ……母の俺に対する偏見は今度じっくり訂正しておきたいが、今は黙っておくしかない。


「それで、いきなりデートをしようってことになったのか」


「その通りです! 急いでデートプランも考えてきたんですよ!」


「ほう、どんな感じになったんだ?」


 鏡華のプランは、要約するとこうだった。


【ドキドキ! 鏡華のお家デート!】


「ちょっと待てぃ!!」


「何でしょうか?」


「いや、普通……最初は水族館とか遊園地とかだろ?」


 俺の疑問に、鏡華は胸を張って答える。


「今回の目的は秀さんを【照れさせる】ことですからね。なら、外的要因を気にしなくていい家の方が、任務達成しやすいんです!」


「なるほど……?」


「ということで秀さん、今週の土曜日は空いてますよね!」


「なんでそんな断定的なんだ……?」


「秀さんのお母様から伝言をいただいています。『大事な彼女をほったらかしにする息子には、1か月飯抜きよ!』とのことです」


「いや、飢え死ぬわ!!」


 母の容赦ない宣告にツッコミを入れながらも、俺はおどけて言った。


「まぁ、楽しみだな。楽しみすぎて寝れなくなるかも!」


 だが、その軽口は鏡華の次の言葉で吹き飛んだ。


「あっ、家なのでお母様とお父様がいますから、挨拶をお願いしますね」


「……………………えっ?」


 こうして、俺の“本当に眠れない夜”が始まった。




 そしてとうとう、土曜日がやってきてしまった。


 ハンカチ、ティッシュ……よし。

 身だしなみ……よし。

 ご両親への挨拶…………よし、なのか?


 不安に押し潰されそうな俺の隣で、まったく真逆の人物がいた。


「ふふん! プランは完璧! 絶対に秀さんを照れさせます!」


 鏡華である。


 俺は気を保とうと、話題を振る。


「そ、そういえば……鏡華のお父さんって、どんな人なの?」


「お父様ですか? お父様はとても強い方ですよ。柔道で日本一を取ったこともあるとか。でも、お母様には本当にデレデレで……って、どうなさいましたか?」


「……いや、楽しみすぎて震えてきたなぁって」


 もちろん嘘だ。真っ赤な嘘だ。闘牛も方向転換するレベルの真っ赤な嘘だ。


 頑張れ俺。挨拶のシミュレーションは何十回もしたじゃないか。


 自分に言い聞かせながら、なんとか心を落ち着けていると──


「到着しました!」


 鏡華の明るい声に、俺の意識が現実へ戻る。


「……でかいなぁ」


 目の前には、豪邸という言葉でも足りないほどの巨大な家がそびえ立っていた。


「改めて……鏡華が大企業の娘なんだって分かるな」


「……秀さん」


 鏡華が俺の服の裾をそっとつまみ、不安そうに見上げる。


「どうした?」


「秀さんは、私のこと……本当に好きですか?」


「また唐突だな」


「……どうしても不安になるんです。私の家は大企業ということもあって、権力目当てに近づいてくる人がたくさんいて……」


 鏡華は、小さく息を吸って続けた。


「だから、不安なんです。秀さんが好きなのが、本当に“私”なのか……」


 そこまで言ったところで、鏡華はハッとしたように慌てる。


「す、すみません! 秀さんを疑っているわけじゃなくて……ただ、どうしても不安で……!」


 彼女の言葉を最後まで聞く前に、俺は鏡華を強く抱きしめていた。


 大企業の令嬢としてではなく、一人の普通の女の子を。


「な、なにを……!?」


 俺の腕の中で鏡華が戸惑い、もがく。

 だが、俺はそっと力を込めて、ただ安心させるように抱きしめ続ける。


 やがて、鏡華は観念したように小さく呟いた。


「……ありがとうございます」


 静かな安らぎの時間が流れる──はずだった。




「君は、私の娘に何をしているのかね?」




 空気が一瞬で凍りついた。


 聞きたくなかった仮説が脳裏をよぎり、そして──


「あっ! お父様!」


 鏡華が俺の背後に向かって声を上げたことで、その仮説は確信へと変わった。


 そして、俺の真後ろから低い声が飛んできた。


「返答によっては、社会的に消えてもらうことになるのだが……?」


 その瞬間、俺は滝のように冷や汗を流すしかできなかった。

いつもお読みいただきありがとうございます!!

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