56.てんこうせいの好感度が、いつの間にかカンストしてた件⑦
「……デート?」
思わず意味を理解できず、俺は言葉をオウム返ししてしまった。
「はい! デートです!」
「デートなのは分かったけど、なんでこのタイミングなんだ?」
「秀さんは、私のことが好きなんですよね?」
突然の直球質問に、俺は思わず赤くなりながらも、
「あ、あぁ……好きだよ」
「でも……」
「でも?」
「秀さんは私のことを、子供扱いしてます!」
「……あぁ、なるほど」
ようやく彼女の言いたいことが見えてきた。
「なので、そのことを秀さんのお母様に相談したんです」
「……なんて返ってきたの?」
「えっと……『秀は今まで彼女がいたこともないし、女友達すらいなかったからねぇ。ちょっと彼女っぽいことをすればコロッと落ちると思うよ』って、おっしゃっていました」
……母の俺に対する偏見は今度じっくり訂正しておきたいが、今は黙っておくしかない。
「それで、いきなりデートをしようってことになったのか」
「その通りです! 急いでデートプランも考えてきたんですよ!」
「ほう、どんな感じになったんだ?」
鏡華のプランは、要約するとこうだった。
【ドキドキ! 鏡華のお家デート!】
「ちょっと待てぃ!!」
「何でしょうか?」
「いや、普通……最初は水族館とか遊園地とかだろ?」
俺の疑問に、鏡華は胸を張って答える。
「今回の目的は秀さんを【照れさせる】ことですからね。なら、外的要因を気にしなくていい家の方が、任務達成しやすいんです!」
「なるほど……?」
「ということで秀さん、今週の土曜日は空いてますよね!」
「なんでそんな断定的なんだ……?」
「秀さんのお母様から伝言をいただいています。『大事な彼女をほったらかしにする息子には、1か月飯抜きよ!』とのことです」
「いや、飢え死ぬわ!!」
母の容赦ない宣告にツッコミを入れながらも、俺はおどけて言った。
「まぁ、楽しみだな。楽しみすぎて寝れなくなるかも!」
だが、その軽口は鏡華の次の言葉で吹き飛んだ。
「あっ、家なのでお母様とお父様がいますから、挨拶をお願いしますね」
「……………………えっ?」
こうして、俺の“本当に眠れない夜”が始まった。
そしてとうとう、土曜日がやってきてしまった。
ハンカチ、ティッシュ……よし。
身だしなみ……よし。
ご両親への挨拶…………よし、なのか?
不安に押し潰されそうな俺の隣で、まったく真逆の人物がいた。
「ふふん! プランは完璧! 絶対に秀さんを照れさせます!」
鏡華である。
俺は気を保とうと、話題を振る。
「そ、そういえば……鏡華のお父さんって、どんな人なの?」
「お父様ですか? お父様はとても強い方ですよ。柔道で日本一を取ったこともあるとか。でも、お母様には本当にデレデレで……って、どうなさいましたか?」
「……いや、楽しみすぎて震えてきたなぁって」
もちろん嘘だ。真っ赤な嘘だ。闘牛も方向転換するレベルの真っ赤な嘘だ。
頑張れ俺。挨拶のシミュレーションは何十回もしたじゃないか。
自分に言い聞かせながら、なんとか心を落ち着けていると──
「到着しました!」
鏡華の明るい声に、俺の意識が現実へ戻る。
「……でかいなぁ」
目の前には、豪邸という言葉でも足りないほどの巨大な家がそびえ立っていた。
「改めて……鏡華が大企業の娘なんだって分かるな」
「……秀さん」
鏡華が俺の服の裾をそっとつまみ、不安そうに見上げる。
「どうした?」
「秀さんは、私のこと……本当に好きですか?」
「また唐突だな」
「……どうしても不安になるんです。私の家は大企業ということもあって、権力目当てに近づいてくる人がたくさんいて……」
鏡華は、小さく息を吸って続けた。
「だから、不安なんです。秀さんが好きなのが、本当に“私”なのか……」
そこまで言ったところで、鏡華はハッとしたように慌てる。
「す、すみません! 秀さんを疑っているわけじゃなくて……ただ、どうしても不安で……!」
彼女の言葉を最後まで聞く前に、俺は鏡華を強く抱きしめていた。
大企業の令嬢としてではなく、一人の普通の女の子を。
「な、なにを……!?」
俺の腕の中で鏡華が戸惑い、もがく。
だが、俺はそっと力を込めて、ただ安心させるように抱きしめ続ける。
やがて、鏡華は観念したように小さく呟いた。
「……ありがとうございます」
静かな安らぎの時間が流れる──はずだった。
「君は、私の娘に何をしているのかね?」
空気が一瞬で凍りついた。
聞きたくなかった仮説が脳裏をよぎり、そして──
「あっ! お父様!」
鏡華が俺の背後に向かって声を上げたことで、その仮説は確信へと変わった。
そして、俺の真後ろから低い声が飛んできた。
「返答によっては、社会的に消えてもらうことになるのだが……?」
その瞬間、俺は滝のように冷や汗を流すしかできなかった。
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