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ラブコメs日和  作者: 水無月盈虧


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55/60

55.てんこうせいの好感度が、いつの間にかカンストしてた件⑥

1話の冒頭に戻りました

 「……まあ、とやかく言っても無駄か。」


 俺は昨晩に引き続き、朝から深いため息をついた。まさか一日の始まりにこれほど疲れるとは。


 ――だが、そのとき俺は“ある重要な存在”を忘れていた。


「秀?どうしたの?」


 母だ。


「ま、まずい! おい鏡華、早く学校に――」


 言い終えるより早く、玄関の扉がガチャンッと勢いよく閉まった。

 そのドアノブを握っていたのは、我が母。


 ……コイツ、いつの間に玄関に!?

 北野家七不思議のひとつ【高速移動する母】について、本気で研究するべきかもしれない。

 だが、今はそれどころではない。


「あなたが鏡華ちゃん?」


「はい! 皇鏡華と申します!」


 俺の心労など露知らず、鏡華は元気いっぱいに自己紹介をする。


「へぇ……秀、ちょっと」


「何?」


 俺は手招きされ、大人しく近づいた。すると母は妙に深刻そうな顔で、


「……秀? いくらモテないからって、小学生の女の子に手を出すのはお母さんダメだと思うの……」


「いや違うから!? 高校生だからね!? 制服見ればわかるでしょ!? だからそんな“可哀想な人を見る目”で俺を見ないで!!」


 鏡華に聞こえないよう、小声&高速で認識矯正を試みる。

 もし聞かれていたら、彼女を機嫌を直すための労力で俺は死ぬ。


「それで、鏡華ちゃんだったよね?」


「はい、そうです」


「うちの息子の彼女さん、なのよね?」


「はいっ!」


 母はなぜか慈愛に満ちた笑みを浮かべた。初めて見る表情に、俺は思わず息を呑む。


「うちの息子ね、頼りないし、イケメンってわけでもないし、勉強も特段できるわけじゃないの」


「そ、そこまで言わなくても……」


 実の母の容赦ない評価に反論するも、無視された。


「でもね、秀は本っっ当に優しい子なの」


「……」


 一転して褒められ、俺は気恥ずかしさに頬を掻くしかなかった。


「だから、あなたのことを大事にして、一生懸命幸せにしてくれると思うの」


 鏡華はいつもの柔らかな表情を保ちながらも、まっすぐ母を見つめる。


「だから、あなたも秀のこと大事にしてあげてね?」


「はい!」


 落ち着いた、けれど力強い返事に、母は満足げに息をついた。


「さぁ! 真面目な話は終わりよ!」


 しんみりした空気は秒で破壊された。


「鏡華ちゃん、秀の小さい頃とか興味あるんじゃない?」


「はい!」


「おい待て……まさか……!」


「うちの息子のアルバム、見たくない?」


「小さい頃の秀さん!? 見たいです!!」


 その熱量は、明らかに先ほどの“好き”を超えていた。


「な、なぁ!? これから学校だろ!? 遅れるって!」


「学業なんかより秀さんのアルバムの方が大事に決まってるでしょう!?」


「そんなわけないだろ!? 文部科学省に謝れ!」


 そこへ母が参戦。


「秀、あんたは黙ってなさい! これは“乙女限定”の話し合いなの!」


「おと……め……?」


「あ"?」


「さーせんでしたーー!!」


 俺は完璧な土下座を決めた。


「じゃあ鏡華ちゃん、今からアルバム持ってくるからね!」


「楽しみです!」


「やめてくれぇぇぇぇぇ!!」


 俺の絶叫は、ご近所中に響き渡ったらしい。


 


「で、そんな満身創痍ってわけか……」


「そうだよ……」


 一時間目後の休み時間、俺は佐藤に今朝の悲劇を説明した。


「まあいいじゃねぇか。アルバムくらい。過去は消せないし、受け入れて生きる方が楽だぜ?」


「中二病にかからなかったお前にこの気持ちはわかんねぇよ!」




 そう、俺には“黒歴史”という名の業がある。

 たとえば――


『ふっ……今宵の月は血濡れの月……右腕が疼く、な』


 とか、普通に言っていた。さらに、


『秀……怪我もしてないのに包帯巻くのは……お母さん、ダメだと思う……』


 母が震える声で笑いを堪えていた横で、


『我が右腕には大悪魔アガレスが封印されているのだ……易々とは外れんぞ、マイマザー!』


『アハハハハ!! も、もう無理!!』


 母は笑い転げながらも、器用にしっかりカメラで撮っていた。


 その写真が詰まりに詰まったアルバム――通称『禁じられた書』。

 それを母はまだ大切に保管していたのだ。


「ふふっ……ダメだ……今思い出しても面白い……」


「俺は羞恥で死ぬわ!!」


 俺が赤面して抗議していると、


「ふふっ……と、とっても可愛ら……いえ、か、かっこよかったです……」


 鏡華のその一言で、俺の記憶は飛んだ。

 気づけば、全力ダッシュで学校に着いていた。


 


「いや~、そんなこともあったな~」


「俺は笑えねぇよ……」


 諦観しかない俺がため息をついていると――


「秀さん!!!」


「おわっ!?」


 スパーン!

 勢いよく扉が開き、鏡華が俺の膝の上に華麗にダイブしてきた。


 ……ちょっと重――


「秀さん……?」


「心を読むな……」


 少女らしからぬ圧だけは感じるが、なんとか平静を保つ。


「お~お~、お熱いねぇ。まあ朝は話せなかったもんな。あとはお若い二人で」


 佐藤は教室を出ていく。


「お、おい待て!…………お前、誕生日俺より遅いだろ……」


 弱弱しいツッコミを入れたところで、鏡華の声が教室中に響き渡る。


「秀さん! デートをしましょう!」

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