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ラブコメs日和  作者: 水無月盈虧


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54/54

54.てんこうせいの好感度が、いつの間にかカンストしてた件⑤

 キーンコーンカーンコーン──


 チャイムがホームルームの終わりを告げた。


「よーし、HRはこれで終わりだ。お前ら、今日は早く帰れるからって問題起こすなよ~」


 椋林先生はいつもののんびりした調子で忠告すると、手をひらひら振って教室を出ていった。


「なぁ、佐藤。今日は遊びに──」


 久しぶりに誘おうとした俺の言葉を、佐藤は軽く手を振って遮った。


「おいおい。せっかくなんだから皇さんと帰れよ。……っと、噂をすればなんとやらだな」


 佐藤は俺の後ろに視線を向ける。


「ん?」


 気になって振り向くと、そこには朗らかな笑顔の皇さんが立っていた。


「秀さん!一緒に帰りましょう!」


 元気いっぱいに手を振る姿が眩しい。


「……あとは若い二人でごゆっくり~」


 佐藤はわざとらしく肩をすくめて揶揄いながら、教室を出ていった。


「先ほどの方は?とても親しそうなご様子でしたが」


 皇さんが首をかしげる。


「ああ、あれは佐藤だよ。高校に入ってから仲良くなったんだ」


「……そうですか」


 返事は短く、皇さんはむっと口を尖らせた。

 どうして不機嫌になったのか、俺にはよく分からない。


 そんなことを考えているうちに、俺たちは並んで帰り道を歩いていた。


「秀さん」


「な、なに?」


 唐突に呼ばれ、思わず身構える。

 皇さんはじっと俺の目を見つめると、奇妙なお願いをしてきた。


「私を呼んでください」


「……?えっと、皇……さん?」


「むぅ……」


 不満そうにさらに唇が尖る。


 え、違う?

 じゃあ──


「鏡華さん?」


「むぅ……!!」


 さっきより明らかに強い “むぅ” が来た。

 一体正解はなんなんだ……?


「……あっ」


 そこでようやく気づく。


「えっと……鏡、華……?」


「ふふん!」


 満面の笑み。

 やっと当たったらしい。俺は思わず胸をなでおろす。


「すみません秀さん。突然こんなことを言って」


「まぁ、別にいいけど……いきなりどうしたんだ?」


 鏡華は恥ずかしそうに指先をいじりながら答えた。


「たいしたことではありません。ただ……秀さんがご友人の佐藤さんを呼び捨てにしていたので……私も、呼び捨てで呼んでほしいな、と……」


 その頬は少し赤い。

 ……カワイイかよ。


「カワイイかよ……」


 あ、口に出た。


「か、可愛い!?」


 鏡華は一気に真っ赤になり、湯気が出そうなくらい取り乱す。しばらくして、ようやく落ち着いたかと思えば──


「……卑怯です」


 恨めしそうな声。俺はつい笑ってしまった。


「笑い事ではありません!」


 ふくれっ面もまた可愛くて、さらに笑ってしまう。


「むぅ~~~!!」


 完全にご立腹だ。


「いつか絶対、立場を逆転させますからね!」


 そう捨て台詞を残し、俺たちはそれぞれ家路についた。


 しばらくして家に着き、ドアを開ける。


「おかえりなさ~い」


 リビングから母ののんびりした声。


「ただいま~」


 荷物を置いたところで、母がじっと俺の首元を見る。


「あら?秀、首が赤くなってるわよ。虫にでも刺された?」


「え?まだ春なのに、どこ?」


 母は虫刺され薬を片手に近づき──ふっと動きを止めた。


「……あれ?」


「どうしたの?」


「こ……こ……」


「こ?」


「今夜は赤飯よ!!」


「なんでだよ!?」


 突然の赤飯宣言。わけが分からない。


 オロオロする俺を横目に、母はスマホで俺の首元を撮り、その写真を見せてきた。


「な、なんじゃこりゃ~~~~!?」


 俺はご近所迷惑にならない程度の絶叫を上げる。


 そこには──

 薄くなってはいるが、立派なキスマークが存在していた。


「今まで女の子の話題なんて一回も出さなかったアンタが……立派に成長したんだねぇ……」


 母は嘘泣きしながら笑う。腹が立つ。


「ま、待って!なんでこんなところにキスマークなんか……」


 考える。

 考えて──気づいた。


「鏡華~~~~!!!」


 ご近所迷惑<以下略。


「へぇ~、鏡華ちゃんって言うんだ」


「はっ……!」


 しまった。地雷を踏んだ。こうなると──


「今週末」


 来た。


「今週末、母は暇だからその子連れてきなさい。これは命令です」


「はい……」


 もう逃げ場はないらしい。


 ……おかしいな。

 一目惚れした子に告白されるという最高の幸福を味わったはずなのに、なんか “幸” より “労” のほうが多い気がする。漢文の問題で出てきそうだな……


「はぁ……」


 つい溜息が漏れる。

 よく「溜息をつくと幸せが逃げる」と言うが、俺は違うと思う。

 幸せが逃げてるから溜息が出るんだ。


 そんな、どうでもいい理屈をこねながら、鏡華と家族の対面についての作戦を練ることにした。


 ──まあ、その作戦も“イレギュラー”によって簡単にひっくり返されるのだが。


 そして、場面は再び4月10日の午前7時30分へと戻る。

ようやく、冒頭に戻ります


いつもお読みいただきありがとうございます!!

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