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ラブコメs日和  作者: 水無月盈虧


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53/54

53.てんこうせいの好感度が、いつの間にかカンストしてた件④

 ……やべぇ。

 皇さんから、俺が「初めて彼女と会った(らしい)時の話」を聞き終わった瞬間、真っ先に浮かんだ感想がこれだった。

 何がやばいって、もういろいろやばすぎる。


 まず一つ目。俺は皇さんのことを“小学生くらいの女の子”だと勘違いしていたらしい。言葉遣いからして、完全に子ども扱いだ。

 しかも皇さんが当時の状況を、セリフまで完全再現して話してくれたんだけど、その“俺が子供扱いしているパート”のときだけ、彼女の手が震えていたのだ。

 ギリィッ!! って音が聞こえてきそうなくらい拳を握ってたもん。絶対気にしてるじゃん。


 二つ目……いや、これが本題なんだけど、俺、約束してんじゃん。


『そっか。じゃあ、君のことちゃんと覚えておかないとね』


 って言ってんじゃん俺!

 いや、言い訳させてほしい……いや無理だ。パニックで何も思いつかん!


 そんなふうに脳内で叫んでいると――


「まぁ、あの時の約束を忘れていたことも、子供扱いしていたことも、今はどうでもいいのです!」


 さっきまで少し不機嫌だった皇さんは、ぱっと気持ちを切り替えて話を続ける。


「とにかく私が知りたいのは言い訳ではありません! 貴方の答えです!」


 そして――


「もう一度言いますが、私は貴方のことが大好きです」


 三度目の告白なのに、俺はやっぱり顔が赤くなる。


「で、でも、俺なんかでいいの? 俺はただのヲタクだよ?」


 しかしその言葉を、皇さんはきっぱりと切り捨てた。


「貴方の自己評価には興味ありません! 私が貴方を好いているのです!」


 そして――


「それとも、秀さんは私のことがお嫌いですか……?」


 ぐぅっ……!!

 比喩じゃなく息が詰まった。あまりにも破壊力のある眼差しだった。


「……いや、嫌いってわけじゃない。むしろ、君みたいな可愛い子に好きになってもらえるのは嬉しい。ただ、俺たちは今日が実質初対面みたいなもので……その、心の準備が……」


 自分でも情けないと思う回答。でも、正直それが限界だった。


 すると、皇さんは少し俯いて――


「……そうですか。そっちがその気なら、こちらにも考えがあります」


 顔を上げた彼女は――


「……え?」


 どこか小悪魔みたいな挑発的な表情をしていた。


「っていうかぁwやっぱり、秀さんってやっぱヲタクっぽいですよねぇw」


「なっ!? た、確かにヲタクではあるが……!」


 さっきまでの皇さんとは別人のようだ。


「女の子に慣れてないって感じ?w絶対、彼女いたことないでしょw」


 ピキッ……


 なんか腹が立つ。いや、ダメだ、挑発に乗るな俺!


「ざぁ~こwwよわよわ~ww意気地なし~ww」


 ブチッ……!!!


 何かが切れた。理性か、忍耐か、もしくは両方。


「……そこまで言うなら付き合おうじゃないか!! 後悔しても知らないからな!!」


 売り言葉に買い言葉。しかし、その瞬間を皇さんは――


「……言質、取りましたよ?」


「……え?」


 俺が冷静になるより早く、皇さんのスマホが目に入った。


『そこまで言うなら付き合おうじゃないか!!』

『そこまで言うなら付き合おうじゃないか!!』


 俺の声がリピート再生されていた。


 皇さんはスマホを止めると、ほんの少し近づいて、俺の手をぎゅっと握る。


「これから、よろしくお願いしますね。秀さん」


 満面の笑顔。

 ……逆らえるわけないだろこんなの。





 教室へ戻ると、椋林先生がこちらを見て軽く眉を上げた。


「おー、戻ってきたか」


 いつもの調子の椋林先生。だが、教室全体の空気はどこか重い。ざわざわした気配は消え、妙な静けさが漂っている。


「……何があったんだ?」


 僕の問いに答えたのは、前の席の佐藤だった。椅子をこちらに向けながら、小声で言う。


「お前が保健室行ってからな、鏡華ちゃんがずっと心配しててさ。なんなら、大泣きしてたんだよ。で、それを見た田中が何故か調子乗って、余計なこと言いまくったんだよ」


「余計なこと?」


「『放っとけよ』とか、『鏡華ちゃん俺と喋ろーぜ』とか、お前の悪口まで混ざってた。笑ってる奴も数人いたし……マジで空気最悪だった」


 嫌な予感がした。だが、佐藤はさらに続ける。


「で、田中が『あいつ絶対オタク』とか言い出したあたりで……鏡華ちゃんが」


 そこで一拍置いて、佐藤は小さく震えた。


「クソ低い声で『あ“?』って言ったんだよ。あれはやばかった……教室が一瞬で静まったからな」


 何故か容易に想像できてしまい、僕は変な汗をかく。


「……で、田中は?」


「黙った。というより、黙らされた、だな。震えてたし」


 佐藤は肩をすくめ、笑いながらため息をついた。


「まあ、それだけ鏡華ちゃんはお前のこと大事にしてるってこった」


 その言葉に胸が熱くなった。だからこそ、僕は正直に口を開いた。


「……皇さんと、付き合うことになった」


 佐藤は一瞬だけ目を見開いたが、すぐにいつもの表情に戻った。


「そっか。なら俺は、友達として応援するだけだ」


 そう言って、少し真剣な声で続ける。


「あと、言っておくが、お前の幸せのためにはあの子の幸せが必要不可欠だからな。絶対に幸せにしてやれよ」


「さすが、彼女いない歴=年齢のいう人の言葉!説得力がありますね!」


「お? やんのか? 喧嘩なら高く買うぜ?」


「ははっ! じゃあ、また今度ゲームで勝負しようぜ! 負けたら昼飯奢りだからな!」


「望むところだ!」


 そんなやり取りを交わし、気づけば二人とも笑っていた。張りつめていた空気も、少しだけ元に戻った気がした。

いつもお読みいただきありがとうございます!!

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