52.てんこうせいの好感度が、いつの間にかカンストしてた件③
恐らく、10話ほどで完結する予定です
目が覚めると、そこは保健室だった。
「……夢オチ?」
起き抜けの第一声は、まるで魂が抜けたように乾いていた。
「まぁ、あんな美少女に告白されるわけがないよな……」
そう力なく呟いたそのとき。
「夢ではありませんよ」
凛とした声が、保健室の静けさの中に響き渡った。
「うおっ!?」
てっきり誰もいないと思っていた俺は、ベッドの上で本気で飛び上がった。
ベッドの隣の丸椅子に座っていたのは――
「す、皇さん!?」
「はい!皇鏡華です」
彼女は可笑しそうに微笑んで、優雅に答える。
「え、えっと……なんで俺はここに? というか、なんで君が? というか、教室で言ってたあの言葉は……」
混乱した俺は、次から次へと疑問をまくしたてていたらしい。
「落ち着いてください。順番に答えていきますね」
鏡華は、子どもを宥めるみたいに優しい口調で言った。
「まず、貴方がここにいる理由です。――私が貴方に話しかけた瞬間、貴方は気を失ってしまったのです。情報量が少し、多すぎたのでしょうか?」
冗談めかした言い方だったが、たぶん事実だ。
俺は自分の脳のスペックを疑う。
美少女に真正面から来られて失神するとか、どんな脆弱さだよ……
「そして二つ目、私がここにいる理由ですね。これは――単純に、貴方の傍にいたかったからです」
「っ!?」
唐突な言葉に、顔の温度が一気に跳ね上がった。
「……というのは半分冗談でして」
がっくり崩れそうになりつつも、俺は気になった。
「……半分? ってことは……」
しかし鏡華は、俺の疑問を遮るように続ける。
「そして最後の質問についてですね」
最後の質問――つまり、教室でのあの告白。
「あれは、そのままの意味です。私は貴方のことが好きなのです。もちろん、異性としてですよ」
俺の顔は、今絶対ひどいことになっている。
真っ赤を通り越して、茹でダコみたいになっているに違いない。
「で、でも……なんで俺なんだ? 多分、皇さんと会ったことはないと思うんだけど……」
俺の問いに、彼女は静かに首を振った。
「いいえ。私たちは初対面ではありません」
そう言うと、鏡華はゆっくりと語り始めた。
――あれは、ちょうど去年のこの時期のことです。
私はひとりで買い物に来ていました。
お気に入りの服を買うために、少し遠くまで足を伸ばして。
ですが帰るころには辺りが暗くなり、気づけば――
「……ここはどこでしょうか?」
慣れない場所だった私は、すっかり迷子になってしまいました。
帰り道を探して歩き回っても、時間は無情に過ぎていく。
街灯の灯りがひとつ、またひとつと点り始める。
「うぅ……お母様、お父様……」
情けないことに、心細さが胸を締め付け、涙までこぼれてきました。
スマホは、今日に限って家に忘れてしまっていたのです。
そんなとき。
「大丈夫?」
優しい声が、私の沈んだ心にそっと触れました。
「貴方は……?」
涙を拭いながら顔を上げると、そこにいたのは――秀さんでした。
「俺は秀、北野秀だよ」
差し出された声は温かくて、安心できて。
「それで、どうしたの?」
「道に迷ってしまったのです……」
情けなくて恥ずかしくて、でも、正直に言うしかできませんでした。
「それは怖かったね。どこへ行く予定だったの?」
「駅の方へ帰りたいのです」
「駅? ここからだとちょっと遠いね。送ってあげるよ」
そう言って、秀さんは手を差し伸べてくれました。
その手に触れた瞬間のことを、私は今でもはっきり覚えています。
大きくて、温かくて――とても優しい手でした。
私はその手に導かれて、無事に駅までたどりつけました。
「本当にありがとうございました!」
深く頭を下げる私に、秀さんは変わらぬ穏やかさで、
「どういたしまして。これからは迷子にならないように気をつけるんだよ」
と微笑んでくれました。
そして背を向け、歩き出そうとしたそのとき――
胸の奥がざわりと不安に揺れたのです。
このまま別れてしまったら、もう二度と会えないかもしれない。
そんな気がして。
「あ、あの!」
袖を掴んで引き止めると、秀さんは私と目線を合わせてくれました。
「どうしたの?」
優しい笑顔で、待ってくれる。
「えっと……その……秀さんは、高校生なのですか?」
「一応高校生かな? 黎明高校ってところに、今年から通うんだ」
「そ、そうなんですか! す、すみません、引き止めてしまって……!」
「全然構わないよ」
その笑顔が、ずるいくらい優しくて――。
「あと、もう一つだけ……!」
「うん?」
胸の奥の言葉を、勇気を振り絞って伝えました。
「次に会う時までに、私――絶対に魅力的な女性になります!
秀さんに振り向いてもらえるような、素敵な女の子になります!」
秀さんは一瞬きょとんとした後、ふわりと微笑んで。
「そっか。じゃあ、君のことちゃんと覚えておかないとね」
そう言ってくれたのでした。
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