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「初めまして、私、浦賀 愛瑠って言います。今日はいきなりお邪魔してすいません。これ、良かったら二人で食べてください」
リビングに案内された浦賀は、手にした紙袋を渡しながら挨拶をする。
いきなり押しかけて連絡先の書かれた髪を手渡す行為から、浦賀はイネのような陽キャ属性に分類されると勝手に想像していたが、その容姿は大きく外れていた。
腰まで伸びた黒髪は艶やかで、一本の歪みもなく真っ直ぐに伸びる。着ている制服はこの辺りではお坊ちゃん、お嬢さんが通うとされている私立高校の制服だった。
規則の一つも破っていない制服に化粧っ気のない表情に浮かぶに上品な笑顔。祖母は挨拶だけで浦賀のことを気に入ったようだ。
「こんな丁寧に悪いわね。本当、大したもの出せないけど、ゆっくり楽しんでね」
浦賀はテーブルに広げられている料理の数々を見やる。
「そんなことないですよ。こんなご馳走、家じゃ出てこないですよ。それに私……祖母を早くに亡くしてるので……。なんだか懐かしいなって感じちゃいました」
お天気雨のように涙を流す浦賀の肩を、そっと祖母が包んだ。出会って数分で本当の家族のような振舞いだった。
「そうなの。なら、私が祖母になってあげるから。遠慮しないで何でも言ってちょうだいね」
「はい!!」
祖母は受け取った紙袋を手にキッチンへ移動した。
残された南部の顔を覗き込むと、パァと彼女の顔の周囲には花が舞った。浦賀は南部を指差して、「やっぱり」と声のトーンを上げた。
「あの時の人だ。良かった。別人だったらどうしようかと思ってたから」
「……あの時?」
「はい。病院で『神成』と戦ってた人ですよね?」
南部は病院と聞いて思い出すのは、海老のような姿をした『神成』だった。野球少年達によって生み出された『神成』。確かに初めて移動した先は病院だった。しかし、それがどうしたというのだろうか?
首を傾げる南部に、浦賀は更に顔を近付ける。
屈みこむような姿勢。胸元が僅かに浮き、本来ならば隠さねばならぬ下着が僅かに覗く。真面目な外見に隠した思いは熱いとでも言いたいのか、真っ赤なレースが目に入る。慌てて視線を逸らした南部を不思議そうに見つめながら、浦賀は言った。
「あの時、実は私も病院に居たんです。避難したかったんですけど、逃げ遅れてしまって。隠れていたら南部さんが来て、あっという間に追い払って……。その姿が格好良くて」
浦賀は戦いの場に取り残されていたようだ。病院は広く隠れる場所も沢山あった。戦闘事態を目撃されていても不思議ではないが、何故、自分の家まで把握しているのかと、南部は問う。
「……だとしても、なんで俺が南部で、祖母の家まで分かったんだ?」
「なんでって……。人に聞いて周ったら、簡単にここに辿り着きました。皆、口を揃えて教えてくれたの。「淫乱教師の子よね」って……」
「……」
どうやら、悪い意味で知れ渡っているようだった。父の教師にあるまじき行為によって……。それでも守秘義務や様々な権利は残されているだろうが、もしかしたら、人は悪い人をした相手ならば少しは良いだろうとリミッターを解除するのかもしれない。親戚や友人たちと囲む食卓での最後の一個は取り辛いか、バイキングでは速い者勝ちと容赦なく取るように……。
「なるほどね」
そんな環境の中心に祖母は残って暮らしているのだ。ストレスと言っていたのは、あながち嘘ではないのかもしれない。
南部はそう思い、キッチンで浦賀に振舞う料理を追加で作っているだろう祖母に心の中で頭を下げた。
「それで、俺に会って何がしたいんだ? まさか、サインが欲しいなんて言わないよな?」
「サインだなんて……。そんな……。私はただ……」
モジモジと身体を捻った浦賀は、意を決したように口を開いた。
「良かったら、私とお付き合いしてくれませんか!?」




