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「三角さんは力を使うなって言われてたんじゃないですか?」
「うーん。そうなんだけど、使っちゃったから――彼は僕が鎮めるよ」
片手で受けていた砲撃を握りつぶすと同時に、『神成』――正平を掴んでいた南部の手が開かれた。それだけでなく南部の『申』状態まで解かれていた。
「え、あれ?」
まだ、『神成』は鎮めていないのに力が解かれたことに混乱する。そんな南部の前で三角が『神成』を蹴り飛ばした。
「なっ。馬鹿な!!」
三角の動きは人間というよりも『申』に近い。だが、光に身体は包まれていない。三角の身体に異変があるとすれば、全身に黒い刺青のような模様が浮かびあがっていることだった。
「……『神』に近い『申回士』。三角 音鞍……」
「え、それってどういうこと?」
南部は呟いた言葉の意味をイネに問う。
「そのままの意味よ。三角さんは、焔と同じく『申』と『回士』の両方に適性があるの。もっとも、彼は自分で自分を回せるのだけど」
二人で神に近づく存在が『申回士』。ならば、一人で『神』に近付けるのであれば、それは『神』と呼べるのではないか。
「やれやれ。折角、久しぶりに戦えてるんだ。もっと、歯応え出してくれないと困るんだよ。君は海老だろ?」
太い右手から乱雑に繰り出される砲撃。だが、『申』の動体視力を持ち、意識も持つ三角には一切通じなかった。
地面に叩きつけ、浮かび上がったところを蹴り飛ばし――足に力を込めると『神成』に追い付いた。
重力すらも無視したような乱撃。
全身がひび割れた正平は、震える手足で起き上がろうとする。
「くそ、俺は動けるようになったんだ。こんなところで、終わってたまるか!!」
それでも、戦うことを諦めずに右腕だけを掲げる。もはや腕一本しか動かせる気力はないのか。
「うおおおお!」
自分のありったけの力を込めて、砲撃を繰り出そうとする正平。
だが――。
「なっ!?」
その腕から砲撃が繰り出されることはなかった。腕を振り上げたまま固まっていた。
「……『動かざる』。悪いけど君はもう――僕の手の平の上だ」
ゆっくりと。
ゆっくりと三角は、『神成』に向けて歩く。ステージの上でプレゼンをするクリエイターのようにだ。だが、ここはステージではなく戦場。それほどの余裕が三角にはあった。
「やれやれ。久しぶりでも動けない相手を一方的に殴るのは、やっぱり好きになれないね」
そうは言いながらも蹲る『神成』の顔に足裏を付けると、大きく振り上げて蹴りぬいた。
容赦のない蹴りは、『神成』の頭を砕き消滅させていく。
「……あ、因みに『動かざる』は、私の力を『神成』に送りこむことで、動きを封じる技なんだ。『祷能』じゃないから、勘違いしないでね」
消えていく『神』を背に悠々と自身の力を解説する。存在が全て消えたことを感じたのだろう、振り向いた三角は手を組み天に祈りを捧げる。
それに習い、南部達も冥福を祈った。
だが――、
「おい! お前ら、なんで殺したんだ! あいつは意思があっただろ」
真澄は意思のある親友を殺したことを許せなかった。三角に詰め寄り涙を浮かべて睨む。誰かに何か感情をぶつけなければ、自分が辛くて押しつぶされてしまいそうなのか。
しかし、三角は、真澄の思いを知ってなお、残酷に打ちのめす。
「……その意思で君を殺そうとしたんだ。分かってるだろ?」
自らの意思で親友である真澄を殺そうとしたし、チームメイト達を傷付けた。
「『神成』に成った時点で、それはもう人じゃない。これまでの歴史でそれが分かってるからこそ、『神鎮隊』がいるんだ」
「そんな……」
「だから、君は自分を責めることはない。ただ、これを機に人に『神成』になることを進めるのは辞めるんだ」
三角の言葉に、感情の捌け口を失った真澄は、無表情に崩れ落ちた。感情の壊れた少年を背に、三角は、「それでは、帰るとしようか」と、伸びをする。
「相変わらず、三角さんは『神成』になることを進めた人には厳しいわね。わざわざ、あんな子供を現場に連れてくるなんて……」
「そうなんだ――」
二人が三角の後に続いて歩き出した時――、
「が、がぁっ!!」
三角が折れ曲がった針金が如く身体を曲げて倒れ込んだ。




