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南部とイネが真白を拘束してから一週間が経過した。『神鎮隊富士山支部』の事務棟。指令室とも呼べる部屋の脇に南部とイネ、それに三角が集まっていた。
大理石で作られたテーブルの上には、色彩豊かなガラス玉が散らばっており、三角がピンと一つを指で弾いた。コロコロと転がったガラス玉は、テーブルの端で失速するが、完全に止まり切るよりも早く、床に向かって落ちていく。
ビー玉が地面に落ちると同時に、イネが驚きの声を上げた。
「え……? 卸利 真白は、何の罰も受けないって本当なんですか!? 仲間殺しをやっておきながら!」
南部達は自分たちが捕えた真白がどうなったのか。その後に起こったことを三角へ尋ねに来ていたのだ。
イネは、仲間を殺したのだから、当然、『神鎮隊』を追放――最悪は、永久的に拘束されていると考えていたが、実際に下された審判は『無罪』だった。
「うん。そういう事になったって僕は聞いてるけど? まあ、これも友人がこっそり教えてくれたことだから」
三角は、目線をテーブルに合わせて位置を決める血、近くにあった別のガラス玉を軽く指で弾いた。
コロコロと転がった球体は、今度は落下することなく、テーブルの角で動きを止めた。
「よし! 完璧だ。流石私なのだよ!」
どうやら三角は、弾いたガラス玉をどれだけテーブルの角で止められるか、チキンレースを一人で開催しているようだ。
真摯な話でも遊ぶ手を止めない三角に、イネはテーブルの上を手で薙ぎ払う。一斉に落ちたビー玉の音に、指令室にいた数人の視線が一斉に向けられる。
イネは視線を気にすることなく叫んだ。
「そんな……馬鹿なことがあってたまるもんですか!! 私が今から本部に言ってやるわ」
「辞めといた方がいいと私は思うのだよ。本部が一度決めたことを覆すところを私は見たことがないのだからね」
「そんなの……やってみないと分からないじゃない!!」
真っ新になったテーブルの上に、イネが両の手の平を叩きつけるように置いた。興奮した口調で話すイネをを納得させることは厳しいと思ったのだろうか。三角は、椅子に座ると、足元に落ちたガラス玉を足だけで器用に集めた。そして、話し相手を南部に切り替える。
「それより――。確かに真白くんの言う通り、君の父親は刑務所から脱走してるみたいだよ……。まるで、煙のように姿を消したんだって」
真白が南部達に伝えに来た内容。それもまた嘘だと信じたがったが、実際に南部の父は刑務所から脱獄したらしい。
三角の言葉に南部は俯く。
「そう……ですか」
罪を犯した父親が自由の身になっている。
しかも、『神成』として、何でも言うことを効く手足を求めている。だが、三角は、それだけじゃないと自身の見解を口にした。
「そして、恐らく君の父親――南部 優は、完成体として神の力を振るってることは間違いない」
眼鏡の位置を三角が治す。
南部は顔を上げる。その表情には強い意志があった。例え父親だろうと人を犠牲にした、それは絶対に許さない――と。
「完成体だろうと、完全体だろうと人の命を脅かすなら――父親だろうとやることは変わらないさ」
「なるほど。やっぱり、君は君で変わってるね」
だけど、安心したよ。
三角は足元に集めたガラス玉を足の甲に乗せて蹴り上げる。宙へ浮かんだガラス玉は、三角の《みかど》の額に乗る。器用にバランスを取る姿はまるで曲芸師みたいだった。
その正面に立つイネは、まだ、組織の出した答えに納得がいかないのか。怒りを南部にぶつけるべく言葉を吐いた。
「格好つけて言い切ったのはいいけど、あなた……完成体って知ってるのかしら?」
「……」
南部は下唇を噛みしめて軽く微笑む。
肯定にも否定にも取れる表情。
「どっちの顔よ、それは……。どうせ南部くんのことだから、知らないんでしょうけど」
「分かってるなら聞くなよな」
南部の反論を無視したイネが完成体について語る。
「いい? 『神成』は、人が神に成るきっかけの願いを叶えるほど色付き、知能や力を手に入れていく。これは分かってるわよね?」
「ああ、現に何度も戦ってるからな」
試合で活躍をしたいと願った学生選手が、人間をゴールに入れることで兎の脚力を。
仕事を休みたいと願った工場で働く社員は、その工場を破壊し蟹の固い鎧を手に入れた。
「そ、それらはあくまでも、生物の力を借りていたに過ぎない。ただし、完全に色着いた『神成』は違う」
「……え?」
「それこそ神話に乗ってるような神の力を手に入れるわ」
「神話って……」
南部は自分が知っている神々を思い出す。
日本神話に北欧神話。ギリシャ神話など様々な国で崇められる存在。そして、それこそが問題でもあるとイネは言う。
「しかも、厄介なことに文明の機器が発達したから、海外の神の知識まで入り込んでるわ」
「つまり、人は全世界の神に成り得るってことか」
「そういうこと。はっきり言って『神成完成体』は、これまで私たちが戦ってきた相手とは格が違うわ」
常に勝気な性格で挑むイネが、事実を受け止めなければならないほどの相手。
それだけで、どれだけ強いのか――相棒である南部には伝わっていた。
「その完成体に父親がなっていて、あなたが狙われてるんだから、警戒はしておきなさいよ」
「はい……」
父親が手足を欲している。
だが、どれだけ力を手にしようと、もう一度、全ての決まりを父に任せるつもりはなかった。
改めて、南部は自分のやりたいことは自分で決めると誓う。
すると、事務棟の中にサイレンが響いた。
「『神成』が発生しました。『猿飛』の座標、セット完了。『申回士』の二人は至急、現場に向かってください!」
モニター前で作業をしていた女性が叫ぶ。その声に南部達は頷くと即座に猿飛部屋へ向かう。
「頑張るのだよ!!」
二人の背中に呑気でありながらも、やはり大きな三角の声が聞こえてきた。




