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さるまわし  作者: やゆ
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 短剣を構えて丘の頂上を目指す南部は圧倒的に不利だった。南部が攻撃を当てるには近付かなければいけない。無意味に跳躍すれば銃弾に見舞われる。

 一度、身をもって経験した南部は丘を走り抜けようとするが、


「うぜぇ! 俺には勝てねぇんだよ!」


 真白は言いながら少年の手を取った。脇に抱えるようにして伸びた少年の腕。二丁の銃口が駆ける南部を狙う。


「どれだけ動きが早かろうが、弾幕を前にしたら近付けねぇ。これが文明の、人間が作った武器の威力なんだよ!」


 どれだけ身体能力が高くても『武器』が強い方は勝つ。

 それが真白の考えだった。だからこそ、真白は自身の相棒だろうとも、『さる』は道具でしかないと言い切れる。


 真白が放つ弾丸を前に、南部は駆けた距離を戻すように跳ね避ける。


「おら、どうやって俺に勝つつもりだ? お前らの言う壊れる覚悟ってのは、俺に殺される覚悟のことかよ!!」


「まさか……そんな訳ないでしょ? 南部くん!!」


 車体に身体を預けたまま、イネは南部に指示を出す。スタート地点に戻された南部に出したイネの指示。

 それは――。


「はぁ? なにしてんだ? そこから攻撃が届くわけないだろうが?」


 南部が短剣を大きく振り上げると、数十メートルは離れた場所から真白に振り下ろす。袈裟の軌道で振り落とされた斬撃。

 だが、それは只の素振りでしかならなかった。


「なんだよ。何も起こらねぇじゃんか。ハッタリがお前の『禱能とうのう』かよ――。諦めれば『回士まわし』だけは助けてやるぜ?」


 攻撃にもならぬ行為に真白は両手を叩いて笑う。


「その心配には及ばないわ」


 グッと。

 少年が真白の身体を抱えると大きく後方に跳んだ。真白がいた場所につるぎの先端が突き付けられる。


「な、これは――!?」


 袈裟に振り下ろした姿勢のまま固まる南部。それは、真白から短剣の軌道を隠すためのフェイクだった。剣道等で使われる脇構えのような姿勢。隠した剣先は意思を持った生物のように切っ先を伸ばし、真白の元まで伸びていた。


 少年に抱えられたまま驚きの声を上げる。だが、二人を追撃するように切っ先は一人でに軌道を変えて追う。


「くそが!」


さる』である少年の脚力よりも早く伸びる剣。このままでは刺されると状況を判断したのか、少年に指示を出す。片腕を切っ先に向けて光る銃弾を放つ。

 弾丸と剣はぶつかり火花を散らす。剣の軌道をずらした真白達は地面に着地するが――


「あなたの戦ってる相手はつるぎだったかしら?」


 着地点には南部がいた。真白がつるぎに意識を向けている間に、悠々と移動をしてみせたのだ。


「馬鹿な……!! この俺がぁ!!」


 南部が少年ごと真白を殴り飛ばす。衝撃で身体が浮き弾き飛ばされる。その先にあるのは弾いた弾いた切っ先。テープのように刀身を伸ばした刀が二人に巻き付き南部の握る柄へと戻っていく。

 短剣で二人を拘束した南部は、丘の上からイネのいる場へ戻った。


「ふざけんな。お前は、何者なんだよ、『回士まわし』!! なんで動きについてこれるんだ!?」


 イネは青白い顔でポケットから端末を取り出す。支部へ連絡を終えたイネは、「ふう」と大きなため息を天に吐く。上空は気流が荒いのか。雲がイネの吐息にほどけたかのように形を変える。


「『伸縮自在』。それが私の『祷能とうのう。そして、それを最大限に活かせるのが『サルの目』よ……」


「『サルの目』……だと?」


「あら? 知らなかったのかしら? 自分のことだけ考えてるからそうなるのよ」


 ぐったりとした顔で微笑む。

 これではどちらが勝者なのか分からない


「くそ……!」


 拘束をほどこうと真白は少年に指示を足て暴れさせるが、鋼鉄の縄は『さる』の腕力を以てしても壊せないようだ。


「諦めなさい。あなたの出世劇もここまでよ。仲間を殺して自分だけ無事で居られると思わない方がいいわ」


 イネの言葉に真白は、「はっはっはっは」と、目を充血して笑う。

 内に秘める狂気が身体から溢れでようとしているかのようだった。


「いい気になるなよ、『回士まわし』。お前が組織に頼る間は絶対に俺は裁けねぇ――お前は何も知らねぇんだ」


 狂ったように暴れる真白。だが、どれだけ言葉を重ねようが拘束が解けるわけもない。

 戦う相手を傷口の痛みと朦朧とする意識に変えながらも、イネは言う。 


「いくら、あなたが優秀だろうと、やった事は許されることじゃない。流石に言い逃れはできないと思うわよ」


 短剣を握った南部は『さる』のまま。

 イネの言葉を肯定するように吠えた。

 それからほどなくして――要請した応援が現れると、仲間を殺した真白の脇を抱えて連行していくのだった。

 顔だけを動かし南部達に目を向ける。

 その顔には不気味な笑みが張り付いていた。

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