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「卸利 真白か……。聞いたことないな。少なくとも俺がいた時には、『本部』にそんな名前の『回士』は、いなかったはずだ」
南部が真白と出会ってから一週間。共に『神成』を鎮めるための優先度が低い日のこと、南部は焔と二人で山に向かい修行に励んでいた。
今回用意された修行内容は竹馬。自分の身長よりも高い馬を操りながら、言葉を交わす二人。目線が高くなることで木の枝が進路を阻害する。器用に馬を操る焔に対して、南部は枝にぶつかりながらも山頂を目指していた。
「そうか……。焔も知らないのか」
「ああ。だからこそ、余計怪しいな」
先を行く焔が器用にその場で静止する。足踏みもせずに止まるバランス感覚は人並外れていた。
「どんな人間だろうと『本部』に居るのが出世の近道。外れた人間が一気に出世なんて――普通じゃ考えられない。是非とも話を聞いてみたいものだな」
焔の目的は『本部』へ返り咲くこと。故に正当なルートから大きく外れながらも自らよりも高い地位にいる真白に興味が出てきたようだ。そんな焔に、南部は肩書こそ優れているが、性格は最悪だと忠告する。
「いや、辞めといた方がいいと思うぞ? 俺達『申』のことは道具としかみてなかったからな」
話しかけただけで容赦のない暴力を振るう。とてもじゃないが、相棒と絆を高めて戦う『申回士』とは思えない行動だった。
現在、『申』として戦っている焔もまた、酷い目に遭うだろう。南部の言葉に焔は竹馬の上で笑う。
「お前と俺は違う。俺は『申』であるが、『回士』としても戦える云わば二刀流からな」
焔は笑いながら足を動かし始めた。『申』だけにしか慣れぬ南部との差を見せつけるように、追い付いた南部を再び引き離していく。
「そうかも、しれないけど!」
開いた差を埋めるべく懸命に足を動かすが、その距離は一向に縮まらなかった。『神鎮隊』として過ごしてきた日々の経験はまだ埋まってはいなかった。
「最悪、本部に戻れずとも――俺も『遊撃部』に入れば自由が手に入るのか?」
それは南部に聞くというよりも自分に問うた言葉だった。漏れた言葉は南部の耳にも届いたのか、「まあ、遊撃って名乗るくらいだから自由なんじゃないかな? どこかの支部に所属してるわけでもないんだし」
「……」
その言葉を最後に二人は黙って足を動かした。ゴールである山頂へ辿り着くと同時に、まるで二人のゴールを祝うかのようなタイミングで、南部の連絡用端末がけたたましい音を響かせた。
南部は竹馬に乗ったまま対応する。
連絡してきた相手は三角だった。電話越しでも大きな声が伝わってくる。
端末を耳から遠ざけて用件を訪ねた。
「どうしたんですか?」
「あー、うん。また他の支部から応援要請が入ってね。南部くんなら行きたがるんじゃないかと思って連絡したんだよ」
「それは勿論です!」
「はは、迷いがないねぇ。じゃあ、イネくんにもこっちから連絡しておくよ。勿論、『猿飛』の準備もね」
プツリと電話が切れる。三角の声は離れていた焔にも聞こえていたのか、「相変わらず、お人好しだな」と竹馬から降りた。
「まあ。今のところ、それが俺の戦いたい理由だから」
本部に帰り咲くことが南部にとっての目標ではない。初めて自分がやりたいと思ったことをやるだけだ。南部は竹馬から降りると自分の意思で白く輝く『申』に変化する。木々を跳ねるようにして事務棟へ移動するのだった。




