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さるまわし  作者: やゆ
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 事務棟へと向かった南部。大股で歩き中へ入ると、部屋の隅で積み木で遊ぶ三角みかどに詰め寄った。


三角みかどさん! あの、卸利おろり 真白ましろって人は一体何なんですか!」


 南部は両手を机について、抑えきれぬ怒りが突き出たかのように前傾姿勢になる。南部の動作で積み上げられていたブロックが崩れた。


「あー、彼ねー。うん、何者なんだろうね」


「何者なんだろうねって、三角みかどさんより立場が上なんでしょう?」


「うん。でも、ほら。私は肩書に興味はないからね。興味があるのは肩幅だけさ」


 銀縁眼鏡の位置を治しながら笑う。


「肩幅に興味があるって、それはそれで問題ある気もするけど……。でも、知ってることは少しくらいはあるでしょ?」


「まあ、ないことはないね」


 積み木の一つを摘まみ上げて、テーブルに落とす。固い木片はテーブルの上でコンコンと跳ねるとやがて床に落ちていった。


「まず一つ。遊撃部なんて数か月前にはなかったということだね。さっき、私も調べてみたのだが、所属してるのは彼一人だけだったよ」


「それって……」


「つまり、彼のためだけに作られた部隊というわけだ」


 三角みかどの視線はテーブルから落ちた積み木に向けられていた。たった一人だけの新設された部隊。

 それだけでも謎と呼べる。

 だが、それだけじゃないと三角みかどは落ちた積み木を拾う。


「ついでに言うなら、彼は数か月前までは執行役員でもなかったし、どこかの『支部』を任されるような人間でもなかった。飛び級ってヤツだね」


「え、そんなことって――」


「うーん。私が知る限りは彼が初めてなのだよ。なんだか、キナ臭さが残るとは思うのだが……」


 相変わらずの大きな声で疑いを口にする。目上の人間を疑う言葉。本人に聞かれたらマズイのではと南部は不安になるが、三角ほんにんも言っていた通り、肩書になど興味はないのだろう。


「ま、だから彼については私が調べてみようか。南部くんたちはいつも通り生活していてくれ。嫌な上司なんてどこの組織にもいるものだよ?」


 三角みかどはそれ以上、話すつもりはないのか、崩れた積み木で遊び始めた。説明を受けても納得できぬ南部の気持ちのように、積み木は高く積み上げられていく。





 三角みかどから話を聞き終えた南部なんべは、自室へ帰ってきていた。先にイネが戻っていると思ったが部屋には誰もいなかった。

 リビングの隣。

 それぞれに用意された個室で南部は鍛錬に励んでいた。


「はっ! はっ!!」


 短い竹刀を構え静かな動作で動く。気持ちを静めるには決められた型がある演武が丁度いい。

 

 カチャリ。

 鍵の回す音が響くと玄関が開かれた。帰ってきたことを知られたくないとでも言うような静かな足音。イネが帰宅すると、いつもは「ドカドカ」と音を立てる。

 この部屋の住人以外の足音だと、南部は演武を辞めて足音を殺す。手にした竹刀を握ったままリビングを覗くと、


「なんだ、イネさんか。いつもと足音違うから警戒したじゃんか」


 暗い顔でリビングに入ってきたイネがいた。南部の言葉に「ごめんなさいね」と力の籠らぬ笑みで答えると、直ぐに自分の部屋へ戻ろうとする。


「ああ、ちょっと待って!」


 南部はその背を呼び止めてイネの前に回り込んだ。


「なに……かしら?」


「なにってことはないだろ。決まってるじゃんか。あの、卸利おろり 真白ましろとかいう傲慢な男と一体何を話してたんだよ」


さる』は道具だと話すことすら許されなかった南部。追い出された後に二人がどんな会話をしていたのか気になっていた。

 南部の問いにイネは背を向ける。


「別に……」


「別にって……」


 イネは元より豪快な性格で嘘が得意ではない。それは数か月、同じ屋根の下で暮らした経験から南部もよく分かっていた。

 明らかに何か隠している。

 その「何か」を聞き出すためにイネへ詰め寄るが、「とにかく!!」と、三角みかどよりも大きな声で追及を拒絶した。それもまたイネに似合わぬ行為であることは分かっているのだが、自分を捨ててでも拒絶するイネの意思に南部は追及することが出来なかった。


「とにかく、今日は不運に見舞われたと割り切りましょう。特別に今日は私がご飯を作ってあげるわ。何が食べたいかリクエストを聞いてあげるわ」


「俺は別に――」


「そう。なら、ケーキでも焼こうかしらね。私、今、ガツンと甘い物を食べたい気分なのよ」


 南部とイネは同じ部屋で暮らしてはいるが、食事などは各々で用意し食べるようにしている。食べることが大好きなイネと、食事は栄養補給だと育ってきた南部では意識に大きな隔たりがあるからだ。


「だから、部屋で修行でもしてなさいな」


 イネはキッチンへ向かい必要な材料を棚や冷蔵庫から取り出していく。

 イネは食べることも好きだが料理も好きだった。だから、様々な調味料であったり食料は常に冷蔵庫に常備されている。

 キッチンも共有であるはずなのに、その場所には小さな棚の一角だけが南部の場所だった。だからだろうか。キッチンの中に入り、戸を締められると何も言えなくなる。

 生クリームを泡立てる機械の音が、拒絶の意を南部に伝えているようだ。


「なにがあったんだ?」


 この数か月で一気に出世し、個人専用の部まで作られた男――卸利おろり 真白ましろ。そんな人物が特に予定もなくこの場所を訪れるのだろうか?

 しかし、その日は結局、南部はイネに聞くことが出来なかった。胸に秘めた不快感を甘さが包み込むように口内を満たしただけだった。

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