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さるまわし  作者: やゆ
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 南部なんべほむらと約束をしてから、一週間が経過したある日、南部達は4人揃って駅のホームに居た。

 南部なんべとイネ。

 ほむら百合ゆり

 二組の『申回士さるまわし』が、ホームに挟まれた線路に立つ異形を眺めていた。


「『神成かむい』に色は着いていないってことは、知能は高くないってことですよね?」


「ああ。だが俺達の力を見せつけるには、物足りないな」


 ほむらが『神成かむい』を鎮めようと一歩前に出た。

 その背に、やる気のない声が届く。聞いている人間までやる気を削ぎ取られるような、気だるげな声。

 その主はイネだった。


「はぁ……。だったらさっさと終わらせなさいよね」


 ホームに設置されたベンチを一人で占領して、イネは横になっていた。身体を寝かして自動販売機で購入した炭酸飲料をチビリと飲む。

 その姿は、だらしないとされる、休日の父親にそっくりだった。


 南部はイネに重なる父の影を振り払うように、ベンチから立たせた。


「まあまあ。折角だから、他の人の戦い方も見とこうってば」


「そういうことだ。むらさき イネもそこで見ておくと言い。この秀才と呼ばれる俺の戦い方をな」


 ほむらは線路に飛び降りて『神成かむい』と向かい合う。

 これから戦いが始まる緊迫感すらも、イネを立たせることはできないらしい。ベンチに寝そべるイネは完全に天井を見上げていた。

 そして、寝言みたいに呟く。


「何が「見ておくといい」よ。アイツの戦いほど、参考にならないことはないわ」


「は?」


 南部は、イネが呟いた言葉の真意を問おうとする。

 だが、それよりも早く『神成かむい』が動き出した。口に当たる部位から泡を吐き出し距離を詰める。


 攻撃は単調で、速度も速くない。

 これならば、苦戦はしないだろう。となれば、注意すべきは百合ゆりが持つ『祷能とうのう』。

神成かむい』と同じ、人を超えた力がどんなものなのか。南部は見逃さぬように、じっと、百合ゆりを見つめる。


「……」


 だが、どれだけ待てど百合ゆりは力を使わない。

 それどころか、ほむらが『さる』にすら変化していなかった。


「おい! 百合ゆり!! 何をしている! 戦いの準備だ!!」


 吐き出された泡を大きく後退しながら躱す。

 だが、『さる』になっていないほむらの動きは通常の人間と大差はない。

 二度目の泡の放射を躱しきれずに受けてしまった。


「くっ……しまった!!」


 幸いと言っていいだろう。

 『神成かむい』が吐き出した泡には毒や酸といった有害物質は含まれていないようだ。

 ただ、身体から摩擦を奪い去るだけ。

 足に付着した泡が邪魔をしたのか、「つるん」と背中から線路に倒れた。鉄に背を打ち付けたほむら

 その姿をイネが手を叩いて笑う。


「はーはっは。あなたの言う通り、よく見とけば良かったわ。御免なさいね。ちょっと忘れないように録画するからもう一度、さっきの台詞をその恰好言ってくれないかしら?」


 生き生きとした表情でスマホを覗き込んで撮影を始める。


「イネさん。それじゃあ、ただただ性格の悪い人だよ?」


 そんな場合じゃないでしょうと、イネを咎めながらも、ホームの端に立つ百合ゆりへ声を掛けた。


「どうしたの? 早く『禱能とうのう』を見せてよ」


 力を使わないと『神成かむい』には勝てない。

 そう思っての発現だったのだが――、


「あ、あわ、あわわわあわ」


「え?」


 百合ゆりは、泡が弾けて消えるみたいに、口を震わせる。

 そして、そのまま後方に倒れてしまった。


「ちょっと、大丈夫!?」


 百合ゆりが立っていた場所は、ホームの上。そこまで、『神成かむい』の泡は届いていなかったはずだ。

 南部が急いで駆け寄る。

 やはり、百合ゆりの周りに泡が散布された後はない。なら、単純に気を失っただけなのか?

 なんで……?

 百合ゆりが意識を失った理由が分からぬ南部と違い、相棒であるほむらはこの状況を理解していたようだ。


「やはり、こうなったか……。仕方がない……!」



 百合ゆりはいない。

 そう判断したほむらの身体が白い光に包まれていく。


「あの光は……『さる』!? でも、百合ゆりさんは……!?」


さる』には、『回士まわし』がいないと変化出来ないはず。

 現に南部は三角みかどやイネから、「自分の意思で『さる』になれるのは珍しい」と、聞いていた。

 それなのにほむらは自分と同じ技術を持っている。

 南部は驚きの表情を浮かべて光を眺めていた。


 いつの間に、イネは起き上がっていたのか南部の横で詰まらなそうに、ジュースの缶を傾けた。


「ええ。でも、それだけじゃないわ。アイツは一人で――『禱能とうのう』を使えるのよ」


 イネの言葉が終わると同時に――ほむらの指先に炎が宿る。

 炎で出来た巨大な爪。

 泡で満ちた線路に突き立てて指の力で強引に起き上がる。そして、今度は腕をバネにして真っ直ぐ『神成かむい』に跳んだ。


「あ、あれは――!」


 南部は炎の爪にうっすらと見覚えがあった。

 初めて『さる』になった時。倒しきれなかった『神成かむい』に止めを刺した人物が炎の爪を使っていた。

 あれが、ほむらさんだったのかと今になって気付いた。


 デジャヴともいうべき光景。

 だが、ほむらの爪が切り裂くよりも先に、炎は蜃気楼のように風に流れて消えた。


「くそ……時間切れか」


 炎の爪が消えたことを好機と捕えた『神成かむい』。勝てない相手に挑むほど愚かではないのか、泡を吐き出しながら線路を伝って逃げていった。

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