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第22話 残るもの

触れたものは、別のかたちで残ります。


雨は上がっていた。


空は高く、風が、静かに通り抜ける。


離れ。


蘭は、紅の牡丹を一輪、手にしていた。


昨夜と同じ花。

だが、どこか違う。


ロレンツォは、それを見ている。


「……この花は」


少し言葉を探す。


「私の国では、もっと小さい」


指先で、空をなぞる。


「根を、薬に使います」


蘭は頷く。


「……同じか」

短く。



ロレンツォは、冊子を開く。


最後の頁。


迷いなく、筆を取る。

線が落ちる。


蘭は、それを見ていた。


やがて、手が止まる。


ロレンツォは、そのまま差し出す。


「——これを」


蘭は受け取る。

何も言わず、閉じる。



沈黙。


風が、花弁を揺らす。


蘭が、一歩近づく。

ロレンツォは、動かない。


視線が合う。


そのまま、蘭の方から、触れる。


唇。

一瞬だけ。


離れる。


「……これは」


ロレンツォは、緑の石を取り出す。


掌に乗せる。


光を受けて、緑が揺れる。


「お前の瞳と、同じだ」


ロレンツォは、少しだけ笑う。


「お前の国は」


蘭は問う。


「……どんなところだ」


ロレンツォは、遠くを見る。


「森がありました」

短く。


「光の強い場所も」



少し間。



「……ここへ来た」

それだけ。



沈黙。


「——見つけた」


蘭を。


ロレンツォが、わずかに言う。


そのまま、もう一度、息を整える。

それ以上は続けない。



蘭は、ロレンツォの手を、そっとを握る。


わずかに、息を吸う。


「……受け取った」


静かに。



少し間。


「——お前ごと」


風が、通る。


「忘れぬ」



ロレンツォは、


「……それで、いい」


蘭を見つめる。


そのまま、ほんのわずかに距離を詰める。


触れるか、触れないかのところで、止まる。


それから、石を見下ろす。

一瞬だけ、迷うように目を閉じる。



ロレンツォは、そのまま術を施す。


言葉は少ない。


音もない。


ただ、空気が揺れる。


光が、ひとつ、落ちる。

それが、わずかに揺れて消える。



風が止む。




そこには、もう

人の形はなかった。




蘭は、しばらく動かない。


やがて、手を開く。


緑の石。


まだ、わずかに温かい。




その温度に、指を重ねる。




何も言わない。




ただ一滴、

頬を伝った。


かたちは、変わる。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


消えたのではなく、残りました。

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