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第21話 結ぶもの、解けぬもの

言葉ではなく、誓いで結ばれるものがあります。


夜が明ける。

雨は、まだ残っていた。


山を下る道。

足元はぬかるみ、音が鈍く沈む。


言葉はない。

ただ、同じ歩幅で進む。

 

気配が割り込み、足が止まる。

囲まれている。


刃が、わずかに光る。


蘭は前に出る。

脇差が抜かれる。


「下がれ」


短く。


ロレンツォは、動かない。

 

刃が走る。

応じる。

一人、二人と倒す。


だが、数が多い。

距離が詰まる。


間に合わない。


 

その時。


「……蘭」


ロレンツォの声。

わずかに震えている。


「——あの術を」


 

蘭の動きが止まる。


「許さぬ」


即座に。

刃が、また来る。

防ぐ。だが、次が来る。


 

「……消えたくない」


ロレンツォの声が、近い。


「あなたの先に、残りたい」


 

蘭は、見ない。


「黙れ」


一閃。

血が散る。


だが、まだ足りない。


 

「……それでも」


ロレンツォは言う。


「選ぶ」


 

蘭の呼吸が、わずかに乱れる。


「……絶対に」


刃が迫る。


「……そばに在ると」


 

一瞬。

蘭の目が、揺れる。

 


「誓うか」


短く。


 

ロレンツォは、笑う。静かに。

 

「——あなたが、私の魂」


 

その瞬間。


ロレンツォは、蘭に触れる。

一瞬だけ。


唇。


 

音もなく。

だが、何かが変わる。

 


蘭の目が閉じる。


空気が歪み、音が消える。

地が、わずかに沈む。


 

結界。


透明な何かが、空間を押し返す。

刃が止まり、弾かれる。


 

沈黙。

 

風が戻る。

雨の音が、戻る。


敵は、退く。

あるいは、もう入れない。


 

蘭は、立ったまま動かない。


その手に、残る感触。

そして、静けさ。


 

「……戻るぞ」


それだけ。


振り返らない。

 

山の奥に、雨の気配だけが残った。


もう、解けない。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


もう、戻ることはありません。

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