第17話 色に出るもの
言葉にしてみます。
「よう来たな。ま、座って。」
本と書類と、何かわからないもので溢れた研究室。
座る場所が見当たらない。
「遠慮せんと。適当にどかして」
翠は、小さく頷く。
手に持っていたシュークリームの箱を差し出す。
「わあ、これあそこのやん」
神代は、嬉しそうに受け取る。
「ありがとう。ちょうど甘いもん欲しかってん」
早速、箱を開ける。
「一緒に食べよ」
翠は、少しだけスペースを空けて座る。
顔を上げると、神代の頬にクリームがついていた。
「翠くんも食べ」
箱を差し出される。
「ありがとうございます」
ひと口。
甘さが、ゆっくり広がる。
「……甘いん好きなん?」
神代が、にっこり笑う。
「で、どうや」
翠は、少し間を置いてから、祖母の色紙を差し出す。
神代は、しばらく黙って見ていた。
牡丹の絵の横に、歌。
——人知れず 思ふ心は 深見草
花咲きてこそ 色にいでけれ
「……ええもんやな」
小さく言う。
「翠へ、って……」
「父方の祖母です」
少しだけ間が空く。
「翠くん、咲こな。.....Life is beautiful やな。」
その言葉が、少し遅れて落ちてくる。
翠は、少しだけ間を置いて、
「……咲く」
小さく、繰り返す。
無意識に、左の耳に触れる。
神代の視線が、一瞬だけそこに落ちる。
「そのピアス、ええやつやろ」
「あ……はい」
それ以上は聞かない。
翠は、少し迷ってから、口を開く。
「あの……」
「うん」
「ロレンツォの事なんですけど」
神代は、軽く頷く。
「多分、これを書いた人だと思うんです」
言葉にしてから、わずかに息が揺れる。
「それと……」
一瞬だけ、言葉が止まる。
「九条と、関係がある気がして」
翠の目が、わずかに揺れる。
光を含んで、複雑に変わる。
神代は、それを見ていた。
「……ええやん」
短く言う。
「その感じ、大事にしとき」
それだけだった。
神代は、立ち上がる。
「ちょっと歩こか」
軽く言う。
翠も、少し遅れて立ち上がる。
なぜか、遅れて鶯が鳴いた。
「いつ鳴いてもええんや」
神代が笑う。
扉が開き、外の空気が、流れ込んだ。
少しだけ、外へ向く。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
少しずつ、外へ向いています。




