第34話 解かれた声
声は、姿を変えて現れることがあります。
みゃあ……。
翠は、ゆっくりと猫を抱き上げる。
首元の鈴が、指に触れる。
見慣れた重さ。
「……シュガー?」
その目が、まっすぐにこちらを見る。
「.......解けたのか」
声が重なる。
「お前は、蘭の系譜だな」
一拍
「翠というのか」
翠は、一瞬だけ息を止める。
「……はい」
「話しておくことがある」
「……ちょっと待って」
神代が割り込む。
「おたく、どなたですねん」
「今は、ロレンツォと呼べばいい」
――シュガーの声のはずなのに、響きが違う。
神代が、翠を見る。
「……つまり?」
「封を解いたことで——」
一拍
「ここに、いる」
「……本来は、そう簡単に現れるものではない」
シュガーの体が、わずかに揺れる。
「簡単に言えば、そういうことだ」
「……はあ……」
神代が息を吐く。
少し間が空く。
「これは、対だ」
「片方では、意味を成さない」
ロレンツォが続ける。
「私が持っていたものには、何も封じられていなかった」
翠が、静かに聞く。
「だが、もう一つには……何かが封じられていた」
「それが今、どうなっているかは——わからない」
「場所は?」
「チロルの家にあった」
短く、それだけ。
神代が腕を組む。
「……それ、放っといてええ話なんか?」
ロレンツォは、わずかに間を置く。
「さあな」
「だが、すぐに何かが起きるとは思わない」
沈黙。
翠は、シュガーの頭を撫でる。
「……シュガーは、大丈夫なんですか」
「問題ない」
一拍。
「共にある」
神代が、ふう、と息を吐く。
「もう一つ、ええですか」
少しだけ身を乗り出す。
「祠の白猫……あれと関係あるんですか」
「ああ」
ロレンツォは、静かに答える。
「あれは、守る側だ」
「……封をする時に、共に現れる」
「……ほな、シュガーは?」
「その末裔だ」
「今は……少し借りている」
「器は、選ばれるものだ。」
「借りてるって……」
神代が苦笑する。
「少しなら、問題ない」
「器を通せば、場所も越えられる」
「……パリ、連れていけるん?」
「可能だ」
神代が笑う。
「ほんま、便利やな……」
翠は、小さく息を吐く。
それはもう、止められなかった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
言葉にされないものほど、残ります。




