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GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ 世界はゲームに変わり、僕は異世界へ行ける  作者: 二上たいら
第10章 抵抗は燃え上がる

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第699話 運命を蹴り飛ばす

 僕と緋美子さんがお互いの気持ちを吐露しあった直後、米兵たちが消火器を手に部屋に突入してくる。

 何かを叫んでいるけれど、英語が得意じゃない僕にはよくわからないよね。


 ヴィクトルさんが英語で彼らに説明を始めたっぽいのを横目に、僕は意識を失ったヴィーシャさんに目を向ける。

 元々ベッドの上で上半身だけを起こしていたということもあって、後ろに倒れ込みはしたけれど、頭を打ったりはしていないようだ。


 だがその顔は安らかとはとても言えない。


 炎の剣による熱量で額を焼き、激痛に耐えかねて意識を失ったのだ。

 その額の火傷は目にするだけで僕まで辛くなってしまう。


 だけど[小回復]魔術を絶やすわけにもいかない。

 おそらくヴィーシャさんの体は限界に近い。

 ただでさえ糖尿病を患っているのだ。


 火傷の怖いところはいくつもあるけれど、そのひとつが感染症だ。

 皮膚というのは感染症に対する防護膜の役割があるから、火傷によって皮膚が損傷すると感染症にかかりやすくなる。


 そして糖尿病患者は感染症が重篤化しやすい。


 本当なら[回復]魔法で速やかに治療するべきなんだ。

 それはわかっている。


 だけど命を賭けて尊厳を守ろうとしたヴィーシャさんの行いは[回復]魔法によって簡単に無かったことにされてしまう。

 その痛みを、苦しみを軽んじる行為だ。


 生きるというのは、その生命活動のことではない。

 その人がどう生きて、どう死んだか。

 その文脈こそが生きるということだ。


 もちろん他者による干渉は起きる。僕によって望まぬ死を迎えた人だっている。

 だからこそヴィーシャさんの生を僕は尊重したい。


 いつの間にか天井から降り注いでいたスプリンクラーの水は止まっていた。

 おそらく火災報知器によって自動で作動したのだろうけれど、この部屋は監視されているということだったから、炎の剣が消えたいま、問題ないとして停止されたのだと思う。


「カズヤくん、彼らが言うには別の部屋に移動してもいいらしい。この部屋は水浸しになってしまったからね」


「そうですね。ヴィーシャさんをずぶ濡れのままにもしておけませんし。とりあえず指示に従って部屋を移りましょう」


 僕は[小回復]魔術を維持したまま、ヴィーシャさんを抱き上げる。


 米兵の指示に従って、僕らは隣の部屋に移動した。


 で、どうしようか。

 ヴィーシャさんを着替えさせなければならないけれど、替えの服はあるのかな?


 というかヴィーシャさんだけでなくて、全員がずぶ濡れになってしまったので、着替えが必要だ。

 アーリアの洗濯屋のような服を乾かすなにかのスキルがあればいいのだけど。


 多分なんだけどあれって水系統の魔法による水分操作の一種なんじゃないかな?

 ロージアさんを呼んでくれば解決するか?


「すみません。この場に水魔法使いがいませんか? 衣服から水分を奪えるのではないかと思うのですが?」


 駆けつけてきた米兵の中に、水魔法使いが含まれていてもおかしくないと思うのだけど。


 ヴィクトルさんが米兵たちに声をかけて、いくらかやりとりがあった。

 どうやら水魔法使いがいたようで、僕らの衣服から水分が抜き取られていく。

 衣服は装備品扱いだから、相手の魔法に対して抵抗もできるんだけど、する意味もないよね。


 僕らの衣服は乾き、水魔法使いさんのところには結構な大きさの水球が生まれた。

 魔法で生み出した水ではないので、任意に消滅させることもできない。

 彼はこちらに何度も確認した上で、部屋を出て行った。


 やっぱり便利だなあ。水魔法。

 覚えたいけど、意識して[湧水]を使い続けても何年もかかるだろうなあ。


「それでは私たちはこの辺で失礼しますね。人員が必要なら氷守宛てに連絡をくださいな」


「今回は本当にありがとうございました」


「お構いなく、と言いたいところですが、貸し一つです。お忘れ無く」


「その借り、異世界の存在を開示したことで相殺できたりしませんかね?」


「あら、それは私たちへ協力を依頼するに当たっての必要経費ではありませんか?」


 そう言われたらぐうの音もでねぇや。


「わかりました。借りの額についてはまた時間のあるときにお話ししましょう」


 とりあえず頑張れ、未来の僕。


 緋美子さんたちが米兵たちにエスコートされて退出する。

 どうやらヴィクトルさんは米兵相手にうまくこの場を切り抜けたようだ。


 いや、病室内で炎の魔法を使うとか、やっぱ頭おかしいよ、あの人。


 病室に残されたのは僕らだけだ。

 つまり僕とヴィーシャさんとヴィクトルさんとエルセリーナさん。


 ヴィクトルさんはこの部屋にあった椅子にどかっと腰を下ろして、長くため息を吐いた。


「疲れたよ。そうも言ってられないがね」


 ヴィクトルさんの手に秘密保持契約書草案は無い。

 まあスプリンクラーでずぶ濡れになってしまっただろうし、もう一回印刷してもらって、それを検分しないといけないな。


「米国との契約は今晩に間に合いそうにないですね」


 やっぱりアセンディ研究会の二軍とか言うのを派遣してもらわないと駄目か。

 緋美子さんを行かせるのはまだ早かったな。


「向こうさんがこっちの条件に簡単に折れてくれるならいいが、そうはならないだろうな」


「商売人としての勘ですか?」


「人生経験と言い換えてもいい。彼らは要は貴族みたいなものなのだろう? 我々平民に対して対等と口にはしても、決して対等な取引は望めない、そんな感じがする」


 個人差は当然あるんだけど、アメリカ人というか、いわゆる米国の白人たち、特に保守層に関しては、白人に非ずは人に非ず、と思っている節がある、と僕は思っている。


 うーん、白人金髪碧眼って全部潜性遺伝子じゃなかったっけ?

 だからこそ希少性があって、その見た目を維持するために血を混ぜないようにしてきたという歴史があるんだろうけれどね。


「とりあえず氷守さんに電話してみます」


 うーん、なんだか緋美子さんに都合良く事が進んでいる気がする。

 その緋美子さん自身は[夢見]に従っているだけなんだろうけど、薄気味の悪さを感じる。


[夢見]、つまり未来を見る能力が存在するということは、未来が決まっているということだ。


 全然不思議なことじゃない。

 この世界はシミュレーターで、ゲームだ。


 すでにシミュレートが終わったものの再生が行われているだけ、という可能性もある。


 だけどそれは嫌だ。

 是非のあることではないと思うけれど、それが現実だというのなら僕はNOを突き付けたい。


 運命があると言われたら、抵抗したくなる。


 その結果が良くないものだとしても、僕は自分で選びたい。


 それが生きるということだと思うから。

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