継がれていくもの
『コッチダヨヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ‼』
胸糞の悪い言葉を叫ぶ魔物への一閃。
きらめきを放つ剣が三匹の人面犬をまとめて切り裂く。
雑巾をしぼった濁り汁よりも黒い血が宙を舞う。
魔物は倒れ、危機は去った。
剣を収め、そばでへたり込む兄妹へ目を向ける。
「平気か?」
「う、うん……」
兄の方が力なくうなずいた。
まだ十歳くらいか。
少年は腰を抜かしている妹の前にいて、守ろうとしていたのがわかる。
「だめじゃないか。こんな遠いところまで」
「だって……魔物はいないって言ってたから」
「全滅したわけじゃない」
大魔星将を倒してから半月が経つ。
アイツフェルン近郊の魔物発生率は激減していた。
しかし、滅んだわけではない。
他の地域から流入してくる魔物も多少はいるのだ。
「立てるか?」
「うん、ありがとう、おじさん」
ぬぐ……そこまで老けてはいないが……しかたがない。子供からすればおじさんに見えなくもないかもしれない。
「さあ、戻ろう」
職業安定所に顔を出したタイミングで、子どもたちがいなくなった、との緊急クエストを受注したのだが、間に合ってよかった。
「あの……」
「どうした?」
「おじさんってもしかして……」
子どもの瞳が大きく開いている。
「ケイオス?」
「俺の名前を知っているのか?」
「やっぱり! 黒髪の影使い! 神眼の異端狩人ケイオスだ! 竜を使役する者、魔物の天敵!」
む、難しい言葉を知っているな。それにやたらと詳しい。
「まさかケイオスが来てくれるなんて!」
「興奮しすぎだ。妹が困っているだろう。帰るぞ」
「うん!」
やれやれだな。
「僕も十三歳になったら冒険者になる!」
「そうか」
「ケイオスみたいになれる?」
俺みたいに、か。
少しだけ考え、答える。
「なれるとも」
「ほんと?」
「ああ、君がこれから分析と準備を怠らなければな」
「ぶんせき……じゅんび……」
ちょっと難しかったか?
いや、子どもの成長は早いから、きっと大丈夫だろう。
「僕、ぶんせきとじゅんびする!」
「ああ、しっかりな」
俺は微笑んで、少年を見た。
クエストを遂行し、子どもたちを家まで送る。
職業安定所に報告をすれば完了だ。
いつものように入り口をくぐり、中に入る。
軽装備の者が目立つのは、採取メインのクエスト受注者が多いからだろう。
「エリーシェ」
「おかえり、ケイオスくん。どうだった? って、聞くまでもないわね」
「ああ、子どもたちを見つけて家まで送った」
「お疲れ様です。報酬を持ってくるわ」
「頼む」
彼女はすぐに戻って来て、報酬を渡してきた。
「ケイオスくん、局長が呼んでる」
「そうか……」
立ち止まり、動こうとしない俺に向かってエリーシェが首をかしげる。
「どうしたの?」
「あ、いや、もし時間が空いているなら……」
「うん、行く」
まだ何も言ってないのだが。
戦いから半月。ほとんど寝て過ごしていたから、誘うタイミングがなかった。
前に食事をした時は最後にジャスティンたちが来てしまったし、穴埋めをしようと思ったのだ。
「またここで待ち合わせ?」
「いや、迎えに行くよ」
「うん、じゃあ待ってる」
よし、これでいい。
エリーシェの横を通り過ぎて、局長室に入る。
「待ってたわ、ケイオスちゃん」
「用件を聞こう」
「まあ、まずは座って」
勧められ、ソファーに座る。
改まってなんだ?
「王都から連絡が来たわ」
と、テーブルの上に手紙が置かれた。
「これは?」
「あなたに対するお詫びの手紙よ。あとで直接冒険者省のお偉いさんが会いに来るわ」
「なに?」
手紙を開けて目を通す。
「……」
なるほど。
そういうことか。
「あなたのおかげで王都の悪人まで退治できたわ」
「別に俺の手柄ではないだろう」
手紙には、俺が王都で冒険者登録を抹消された件について書かれていた。
俺がクビになる前後の話だ。Aランクパーティー『アカツキ』は当時、大企業から打診を受けて広告塔になる予定だった。そして、大企業と繋がっていたのは冒険者省の副局長。そいつは賄賂を受け取り、『アカツキ』が有利になるよう取り計らっていた。
正直、今となってはどうでもいい話だ。
「副局長以下、不正を行っていた職員たちも芋づる式で逮捕されたわ。大企業もトップが責任をとって辞任。王都が少しは綺麗になったかしら」
「それはなによりだな」
「なによ、他人事みたいに。最後まで読んだ?」
「ああ」
手紙の最後には、俺の登録抹消をなかったことにし、いつでも王都に戻れると書いてあった。
だが、アカツキのメンバーが裏でしていた犯罪については触れられていない。
こっちから話すしかないだろう。俺が殺したことも含めてな。
「あまり嬉しそうじゃないわね」
「嬉しいさ」
「じゃあ戻るのね」
局長の笑みは優しく、それでいて悲しみがわずかに含まれている。
「そうだな。戻るか」
「そう……」
「たまにはな」
「あら? ということはもしかして……フリーライセンスを?」
俺はうなずいた。
通常、冒険者は一つの場所にしか所属できない。他の街で仕事を受けたい場合は紹介状がいるし、一つしか受けられないのだ。
ただし、フリーライセンスがあれば別だ。
資格を取る条件は厳しいものだが、挑戦してみようと思う。
「しばらくはここを離れないさ。だが———」
自然と笑みがこぼれる。
「あなたが笑うなんて珍しいわね。なにか良い事でも?」
目をつむり、先ほどの少年を思い出す。
「後を継ぐ者はいつだっている。あと数年もすれば、俺などいなくても大丈夫だろう」
魔物は日々進化している。
同時に、人は思いと力を受け継ぐ。
そうして時は繋がるのだ。
大魔星将、いや、ジャスティンはそれが最後までわからなかった。
ライトも、ルールスも。
彼らはいつしか、人間であることをやめ、他者の尊厳を踏みにじることを選んだ。
そんなものたちの後を追う者はいない。
そして、人をただ殺すためだけに生まれた魔物にも先はない。
受け継ぐものがいないからだ。
「さて、行くか」
「少しゆっくりしたらどうなの」
「一級に上がったばかりだ。怠けてはいられない」
大魔星将討伐のクエストを達成した俺は、個人ランクが一級に上がった。
やる気が出るというもの。
それに、大魔星将が一体だけとは限らない。
魔物を根絶する。それが俺の夢なんだ。
「まったく……気を付けなさいよ」
「ああ、わかっている」
呆れ顔の局長を残して、その場を去る。
エリーシェとの約束まではまだ時間があるからな。
一つくらいはこなせるだろう。
部屋を出るとブラインがいる。
彼はいつもの調子で、俺に声をかけてきた。
「よう、神眼の異端狩人さんよ! クエストだろ?」
「ブライン、それわざと言ってないか?」
「いいじゃねえか、アイツフェルンで初めての一級冒険者、竜を使役する者、魔物の天敵、人呼んで『神眼の異端狩人ケイオス』。自分のことみてえに嬉しいんだ、おれは」
神眼の異端狩人など名前負け過ぎる。
だが。
「魔物を恐れさせることができるなら、あえて呼ばれよう」
「まんざらでもねえんじゃねえか」
これからは名を聞かれたら、こう答えようか。
俺はケイオス。
神眼の異端狩人であると———
『神眼の異端狩人 ~役立たずと追放された『分析士』にして『ものまね士』はいきすぎた眼力≪レベルMAX≫とものまねで辺境から最強へ~』・完
おまけ・人物紹介
なまえ ケイオス
ねんれい 十八
せいべつ 男
ジョブ 分析士 ものまね士
スキル 眼力≪レベル10限界突破≫/眼識≪レベル9≫/瞬間模倣術/影魔法/ドラゴンブレス/魔物の天敵(対魔物能力補正特大)←NEW
ランク パーティーランクなし 個人ランク 一級
しょぞく アイツフェルン・冒険者 魔物ハンター
かぞく なし
こいびと なし?
ちょきん けっこう
みため 黒髪・黒瞳
とおりな 神眼の異端狩人←NEW
という感じでした!
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。「神眼の異端狩人 ~役立たずと追放された『分析士』にして『ものまね士』はいきすぎた眼力≪レベルMAX≫とものまねで辺境から最強へ~」はこれにて完結となります。
ほんとうに読んでいただいた方々には感謝の念がたえません。
感想をくれた方、ブクマしていただいた方、応援してくれた方、ありがとうございます。もらうたびにめちゃくちゃ嬉しく、活力となりました!
さて、ケイオスはこれからどうなるのか? もしもわずかにでも想像していただけたら、それほど冥利に尽きることはありませんね!
次作も準備中ですので、投稿したらチェックしていただけると嬉しいな!
それではいつかまた!
※おまけでもう一話あるよ!




