表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/39

緊急事態クエスト 『思い出せ、ケイオス!』

最後の戦いのすぐ後の話。

おまけです。

 小鳥のさえずりが聞こえる。

 朝が来たようだ。


「……」


 体がだるい。そして頭痛が痛い……

 頭痛が痛いというのは間違いだ。正しくは頭痛がする、だろう。


「……う」


 このまま眠っていたいのだが、そうはいかない。朝食を取り、風呂に入り、目を覚まして薪割り。時間になったら職業安定所へ顔を出す。

 決めたルーティーンを守らないと落ち着かない。

 だが、鉛を詰められたかのような重苦しい頭と体は言うことを聞きそうになかった。


「いや、だめだ。起きよう」


 ベッドの脇にある()()()()()()()()に手をつき半身を起こす。


「むに?」


 いま、むに、という感触がした。

 違和感。

 そのようなものを脇に置いた記憶はない。

 得体のしれない感覚に危機感が募り、スキル≪眼力≫を発動。ついでに≪眼識≫もだ。


「……ん」

「ん?」


 横を見た俺は硬直するしかなかった。

 柔らかく、それでいて張りがあり、かつ、こぼれおちそうなもの。

 ≪眼力≫を使うまでもない。


 ———胸だ。

 

「な、なんだと?」


 俺の隣にセレーネが寝ている。しかも、下着姿でだ。というかこれ下着なのか? ふんどし……のようにも見えるが。

 落ち着いて分析している場合ではないな。

 

「ふ……んん……」


 逆隣からも悩ましい声がする。

 まさか、と思いながら目をやると、そこにエリーシェが寝ていた。彼女も下着姿だ。

 おかしいぞ。これは、どういうことなんだ?


「思い出せない。記憶が……ない」


 心臓の鼓動が急激に速さを増した。

 待て、落ち着け、ケイオス。

 

「まずは状況確認だ……」


 俺の体には特に異常がない。

 いつも通りだし、服も部屋着のままだ。


 エリーシェを見る。

 なにやらうなっているが……下着の色は赤。髪や瞳の色に合わせたのだろう。

 横になって寝ているため、豊かな胸が盛り上がり、俺の視線を誘導している。

 夏が近いから気温はそれなりにあり、そのせいで汗をかいているようだ。


 セレーネを見る。

 美しい白髪と褐色の肌をした竜人の娘は、健康的な肢体を見せつけている。

 スレンダーな無駄のないボディ。これで子どもだとは……俺の分析では違うとしか言えない。


「……これは明らかに……」


 事後だ。

 しかし、そんなはずは……ないわけでもないのか。

 大魔星将との激しい戦いを終えてから三日。目を覚ました俺は、町を挙げての大宴会に参加した。

 それはいい。勝利の美酒は分かち合うべきだ。

 その後、疲れていることもあり、早々に引き上げたところへブラインとその家族、そしてエリーシェとセレーネが訪ねてきた。

 俺の家で静かに二次会をして———どうなったんだっけ?


 いやいや、待て待て。

 二人同時に、だと?

 そんなわけあるか。

 そんな……天国のような。

 じゃなかった。

 まずいぞ。これは相当にもったいないっ!


「落ち着け、そして思い出せ、ケイオス。二人同時に相手をして記憶がないだと? そんな……そんな生き地獄があってたまるか」


 もう一度エリーシェを見る。

 彼女の指には俺が送った護身の指輪が嵌められていた。

 なんだこの気持ちは……

 もどかしい上に体が熱くなってきた。


 もう少し近くで———

 と、その時。


「うっ……頭痛が痛いわ……」


 エリーシェが起きた。

 

「……」

「うーん……」


 彼女はまるで俺がいないかのように、普通に起きる。


「飲みすぎたかしら……」


 どうやらまだ寝ぼけているようだな。

 さて、どうしよう。どうするもなにもないが、どうしよう。


「……ケイオスくん、おは———」


 びし、と固まるエリーシェ。


「おはよう」

「……え?」

「……」

「え? え? ななななんでわたしこんな……」


 慌てて体の各所を隠す。遅すぎる。

 

「そんな……しかもセレーネさんまで!? いったいなにが……」


 こっちが聞きたい。


「う、うそ……」


 彼女は青ざめている。


「待て、落ち着け、エリーシェ」

「お、落ち着いてなんていられないわ!」


 エリーシェは混乱しているようだ。

 床に落ちている服を拾い、家の外へと飛び出す。


「あ」


 さすがにその恰好では……

 と思ったら戻って来た。

 顔どころか体全体を真っ赤にしながら、服を着ている。


「待ってくれエリーシェ。ナニがあったのか知りたい」

「ナニって……そんなの、わたしにもわからないわ」


 これでは話にならないな。

 

「……」

「……」


 ダメだ。気まずいし、なにも思い出せない。

 だが、ナニかあったのだとすれば、責任を取らなくては。


「不潔……」


 なに?


「ケイオスくんの不潔ヘンタイすけべ!」

「不潔ヘンタイすけべ……」


 マシマシで盛り盛りの名前だ。

 極めて遺憾であり不本意。俺はいつだって紳士なはず。


「さ、三人でなんて……うう……初めてだったのに……」


 いや俺だってそうなんだが。

 

「初めては誰にだってあるだろう」

「そういう意味じゃありません! なんで落ち着いているの!」


 逆だ。動揺しすぎて思ってもないことを口にしてしまった。

 これでは収集がつかない。

 俺一人では唐突に起こった緊急クエストを完遂できそうにない。

 彼女をなだめ、納得させるには———


 スキル≪眼力≫を発動。分析を開始。

 エリーシェは今、不安の極致だ。ベテランのブラインに聞いておけばよかった。

 いくら分析しても答えを導けない。


 待て、考えろ、ケイオス。

 俺たちの関係性。自分で言うのもなんだが、友達以上だとは思う。

 そして、彼女の指には俺の送った指輪が嵌められているのだ。

 よし、言おう。

 今しかない気がする。


「エリーシェ、俺とけっ———」

「うるさい~」


 言いかけたところで、セレーネが起きた。


「なーに? 朝から喧嘩してる?」


 呑気にあくびと背伸び。放り投げてやろうか。


「セレーネ、すまないが状況を説明してくれ」

「状況って?」

「なぜ、君とエリーシェが俺をはさんで寝ていたんだ?」

「だってベッド一つしかないもん」


 それはそうだ。


「俺たちは酒を飲んでいたんだよな?」

「うん、そう」

「その後は?」


 ここからが肝心だ。


「えっと、ケイオスが先に倒れちゃって」


 なに?


「エリーと飲んでたんだけど」

「それで?」

「エリーったらけっこうお酒が強くて」

「ほうほう」


 それは貴重な情報だ。


「それで、ケイオスって滅多に笑わないけど、笑顔が可愛いとか言いだして」

「はあ!? そ、そんなこと言ってないわよ!?」


 彼女の抗議を無視して、セレーネは話を続けた。


「寝ちゃってるケイオスを笑顔にしようって話になったから、顔をむにむにして遊んでたの」

「顔をむにむに……」


 ひどくないか?


「そしたらなんだか熱くなってきて」


 ごくり、と息を呑む。

 聞きたいのはその先だ。


「脱いで寝た」

「寝た!?」

「うん、寝た」

「それだけ?」

「うん、それだけ」


 ほっとしたような、残念なような。

 とはいえ真相はわかった。

 つまり、ナニもなかった、ということだ。


 エリーシェもほっとしている。

 やれやれだな。なんのことはない。酔っぱらって寝ていた。それだけだ。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない。それよりも服を着てくれ。目のやり場に困る」

「あっ……ケイオスのスケベえっちヘンタイ!」


 セレーネにも言われてしまった。ひどすぎる。


「エリーシェ、落ち着いたか?」

「ええ……そうね」


 いつもの彼女に戻っている。

 緊急クエストは終了だな。


「あ、ケイオスくん、さっきなにか言いかけてなかった?」

「え?」

「さっき、けっ———なんとかって」


 まだ終わってなかったああああああああああああああああああああ!

 どうする? これをどうする?


 しどろもどろになる俺を見て、エリーシェが今まで見せた事のない微笑みをする。

 少し怖い。


「ねえ、ケイオスくん。さっきなにを言おうとしたのか知りたいのだけれど」

「あ、ああ、それはだな……」


 その後、しばらくの間、俺は責められ続けた。

 嬉しいやら困るやら。


 そして最後にセレーネが言う。


「ケイオスってむっつりすけべ」


 本当に今日はひどい日だ。このままではすけべ認定されてしまう。

 

「セレーネ、それは違う」

「じゃあなに?」


 そう聞かれれば、答えるしかないだろう。


 俺はケイオス。


 魔物ハンターであると———


「え、かっこつけてもダメだよ」

「そうだわ。なにを言おうとしたか教えて? ケイオスくん」

「うっ……」


 二人が見つめてくる。

 俺は分析した。

 圧倒的に不利な状況を覆すには———


「影魔法……≪影の中の黒子(シャドウインザダーク)≫!」


 影の中に入るしかない。


『逃げた』

『逃げたわね』


 違う。戦略的撤退だ。


 そう、俺はケイオス。

 分析士にしてものまね士。

 いかなる状況においても諦めない。

 魔物ハンターであるのだから———

 

ここまで読んでいただきありがとうございます!


おまけはいかがでしたでしょうか。


最後までお付き合いいただいた方々、誠に感謝です!


とはいえ、続きが始められるような終わり方なので、どうするか考えてみます!


やるとしたら……


『神眼の異端狩人 ~真贋の古典狩人ゲリソスと勘違いされた『分析士』にして『ものまね士』は人違いだけど北の都から最強へ~』


あらすじ


大魔星将という未曽有の厄災を退けたケイオスは一躍王都でも有名となり、魔物討伐以外の仕事にも精力的に動いていた。そんなある日、彼の元に指名依頼が届く。内容は、『冬の間閉館しているホテルの管理及び警備、そして魔物討伐』。不思議な依頼に興味が惹かれ、有休休暇を取ったエリーシェとともに北の都近くのホテルへと赴く。着いてさっそく『真贋の古典狩人ゲリソス』と間違われるケイオス。しかし、そこは悪霊の巣窟であり、名前を訂正する暇もないまま、『風呂場に現れるネイキッド老婆』『腐れ落ちた双子』『血の廊下』『酒に溺れる親父』『悪魔のバーテンダー』『死者の舞踏会』により、他の冒険者たちが徐々に狂わされていく。正体不明の力によってホテルに閉じ込められた者達はやがて、一人ずつ追い詰められ、殺されていくのだった。

ホテルの謎を解き明かすべく、輝き(シャイニング)に目覚めるケイオス。そして『真贋の古典狩人ゲリソス』とはいったい誰なのか。

クエストの果てに待ち受けるものとは。


……すみません。やりません。怒られます。別のにします。

とりあえず今は新作書いてました。投稿した時はチェックしていただけると嬉しいなっ!


一応、宣伝しておきますと、次回作は、


『ディープブルー・レイク・マーダー ~湖畔へキャンプに来た陽キャ冒険者の俺たちだけど湖に巨大サメはいるしペンションには仮面の殺人鬼はいるしでみんな死んでく中、最強チート能力に目覚めて生きて帰る~』


となります。

タイトルだけでネタバレしまくりですね。


最後に、ほんとうにありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ