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最終クエスト 『大魔星将討伐』

 ものまねは成功した。

 影よりいでし剣たちは俺そのものだ。


「名付けるのなら……影魔法≪闇黒の(ダークネス)光輝なる(シャイニング)(ブレード)≫といったところか」


 我ながら良い命名だと思う。

 影の剣を旋回させたまま、真っすぐに、一直線にジャスティンへ歩き始める。


 それはヤツも同じだった。

 俺たちの周囲を飛び回る影の剣と黒い玉がぶつかり合いを始める。

 近づく者を全て攻撃するよう、あらかじめ指示を組み込んでいるから、黒玉が俺に届くことはない。

 もっとも、お互いに同じだろうが。


「おまえは……どこまでもふざけたヤツだ」

「それこそお互い様じゃないか?」


 剣と玉が織りなす空中戦は互角。

 ただし、魔力が尽きるのは俺の方が先だろう。


「パクリ野郎め!」

「魔物を倒すためならなんでも使うし、影でアレンジしている。パクリではない」

「ああいえばこういいやがって……!」

「おまえは俺がこういうヤツだと知っているだろう?」


 五年も一緒にやっていたんだ。言うまでもない。

 俺たちは至近の距離でにらみあう。


星玉(せいぎょく)を封じれば勝てると思っているなら、それは勘違いだ」

「星玉、というのか。なるほどな。星を模しているというわけだ」

「余裕こきやがって!」


 ジャスティンの体術は素晴らしいものだ。魔物になる前からそうだった。今もまた、獣よりも強く、鋭く、拳を打ち込んでくる。

 俺はそのすさまじい一撃をかわす。


「なに……?」


 疑問に満ちた顔。

 なにを驚いているのか、俺の方が疑問だ。


「まやかしを!」


 今度は蹴りだ。美しい軌道を描くハイキックが俺の首を刈ろうとする。

 しかしそれもかわす。


「な……なにをしている!? なんで当たらないんだ!」

「呆れるな。おまえは俺の話をどこまでも聞かない」

「ふざけるな! 僕は……大魔星将だぞ!」

「言っただろう。おまえとは五年もやってきた。攻撃パターン、癖、仕草、全部分析済みだ」

「は……?」

「無論、それだけでは対抗できないが……おまえは俺に、見せすぎた」


 けっこう殴られたし、さっきもさんざん戦っている姿を見ている。分析は完了しているのだった。

 来るとわかっているものなんて俺には通じない。


「俺は『分析士』だ。何度も言ったはず」

「黙れ!」


 影の剣と黒玉がぶつかり合う中での攻防。

 というか俺の防戦一方。剣はないし、影魔法は全部影剣に回しているし、ドラゴンブレスを使う暇はない。


「くっ……当たるまで殴り続けてやる!」

「いつかは当たるかもな」

「黙れと言っている!」


 攻撃のスピードが増してきた。

 拳が頬をかすっただけで風が揺れる。

 

「かわしきれていないぞ! ケイオス!」


 ぐらりと揺らいだ俺に向かって、ジャスティンは大きく拳を振り上げた。


()()()()()()()()!」


 背中に手を回し、隠していた六本目の≪闇黒の(ダークネス)光輝なる(シャイニング)(ブレード)≫を掴む。

 ヤツの拳は俺の頬を裂き、突き抜けた。

 手に持った剣を蒼く光る胸の宝石、ヤツの源へ突き刺す。

 

「……あ」


 手ごたえはあった。

 ジャスティンの胸に埋め込まれている巨大な宝石のど真ん中を黒い剣が貫いている。

 影魔法で作成した黒い剣は、初めから六本。一本は背中に張りつけて隠していたのだ。


「俺は用意周到なんだ。奥の手をとっておいた」

「……そ、そんな……」


 ジャスティンが下がる。

 影の剣が抜けて、胸の大穴が見えた。


 びし、と宝石にひびが入る。

 

「う、うそだ……」


 ついに大魔星将は倒れた。

 勝負は決したのだ。


「みんなは大丈夫か?」


 見れば俺たち以外のところでも、戦いが終わりかけている。

 魔物たちは統制を欠き、各個に撃破され、ほとんど残っていない。


 倒れているジャスティンの元へ行き、逆手に剣を持つ。

 切っ先を突き立てれば、それで全てが終わりだ。


「終わりだ、ジャスティン」

「はあっ……はあっ……」

「なにか言い残すことはあるか?」

「……ケイオス! こ、これで終わったと……思うなよ! 僕が滅びても星はおまえたち人間を殺し尽くす! 僕は、始まりに過ぎないんだ!」


 そうかもな。


「おまえたちは寄生虫なんだ! 滅ぼされるべきなんだ! 星は……星の力は———」

「いいだろう」

「え?」

「魔物は俺の両親を殺した。つまり、仇だ。星が魔物を生み出すなら、星ごと滅殺しよう」

「な……?」

「どうした?」

「馬鹿な! お、お、おまえは狂っている! 星だぞ! 星を滅ぼすなんて!」

「必ず俺たちが勝つ。だから安心して消えるがいい」

「ケイオスウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ‼‼」


 振り上げた剣を突き入れて、とどめを刺す。

 ジャスティンの胸にある宝石が砕け散り、同時に大魔星将も塵となった。


 戦いは終わりを告げた。

 やがて最後の一体が死に、集った戦士たちが歓声を上げる。


 全部終わった。ほんとうに、終わったんだ。


「やりやがったな、兄ちゃん」

「ガートルード」


 肩の辺りを押さえて、狂戦士が立ち上がる。

 彼が時間を稼いでくれたおかげで、なんとかなった。


「すさまじいものだ。記録にとどめておかなければ」


 グスタフも無事だ。ただ、顔面を打たれたのか、頬が赤く膨れ上がっている。


「魔素、そして魔法は奥が深い。極めるにはまだまだ……」


 などとぶつぶつ言っている。

 確かAAランクパーティー『エターナルズ』のメンバーは卓越した魔法士の集まりだが、重度の魔法オタクでもあるという話だ。よほど気になると見える。

 いずれ、挨拶にでもうかがって話をするか。


「やるじゃん! 最後のアレなに? 最初からやってくれればよかったのにさ」


 若干不満げにオスキュリーダが言う。


「あれはものまねだ。大魔星将の技をその場で真似た」

「はい?」

「なんだと?」

「……冗談では……なさそうだな」


 驚く三人。


「俺は天職を二つ持っている。『分析士』と『ものまね士』だ。ヤツを分析し、ものまねした」

「分析士って……アレか? 鑑定士やってる連中が持ってる……?」

「スキル≪眼力≫と≪眼識≫だな」

「なんということだ……神眼でも持っているのか?」


 神眼?


「俺は手持ちの札を活かしたにすぎない。それに運も味方した」

「それにしたってよう、戦闘力を持ってねえ『分析士』が……マジかよ」


 一応、鍛えているんでな。

 運が味方したというのもほんとうだ。この三人が来てくれなければ、倒せなかった。


「すごいね、君……あ、そういえば名前聞いてなかった」


 そういえばそうだな。彼らは俺が一方的に知っているだけだ。


「俺はケイオス。アイツフェルンの魔物ハンターだ。パーティーには所属していない。個人ランクは準二級だな」

「覚えておくぜ、ケイオス」

「王都に来たら連絡を。『エターナルズ』に加入するか?」

「ざけんな、グスタフ。こいつは俺が誘おうと思ってんだ」


 ぎゃあぎゃあ言い合っている。

 ものすごく嬉しいが、今はパーティーに入るつもりはない。


「いやー、楽しかったよ。じゃあね、『神眼の異端狩人』さん」


 オスキュリーダが謎の名前を言って去っていく。

 控えめに言って最高だな、彼は。いや、通り名で言えば『至高すぎる』、だ。


 三人が去り、代わりにブライン、ハディスン局長、ダク、オヤジさん、ヴァイオレットとフォレスティアがやってくる。

 彼らもまた笑みを浮かべて、勝利の余韻を感じているようだ。


「ケイオス、ほんとうにやったんだな!」

「ああ、魔物は滅殺した。大魔星将も」


 ブラインと拳を合わせる。最高の相棒だ。


「ほんと、一時はどうなることかと」

「損害は?」

「町の方は少しだけよ。まあ、百体以上も魔物が来てそれだから、上出来ね」


 そんなに来ていたのか。俺もまだまだ精進が足りない。


「ダク、みんなは無事か?」

「おお、重傷者はアホほど出ちまったが、死者はいねえとさ。まあ、ドラゴンが来てくれたおかげだ」


 聞けば、ドラゴンの戦士達が盾となり、攻撃を引き付けてくれていたのだという。


「オヤジさん、ほんとうにありがとう。まさか、来てくれるなんて」

「おれのこたあいいんだよ! それよりもてめえ、剣はどうした?」

「……折れてしまった」

「なに! じゃあもっとすげえの作ったるわ! あとで取りに来い!」


 オヤジさんの勢いには笑うしかなかった。

 全員にそれぞれ礼を言っていると、一風変わった衣服の二人がやってくる。


 竜人の族長とセレーネだ。


「ケイオス!」

「セレーネ!」


 彼女がぴょんと抱き着いてくる。


「すまない、助かった」

「ううん、恩返ししなくちゃ」

「そうだぞ、ケイオス殿。我らは受けた恩を忘れぬ」


 と、族長がぐびっと酒瓶をあおった。

 酒を持ってきていたのか……

 まさかとは思うが、酔っぱらいながら戦っていたんじゃ……


「して、ケイオス殿。宴会はまだか?」

「……」


 ダメだ。一気に力が抜けてしまった。なんなんだこの竜人は。


「ケイオス、町に戻るんでしょ?」

「ああ、戦いは終わった。戻ろう」


 礼を言わなければならない人間がもう一人いるのだった。

 それをもって今回のクエストを終了としよう。







 喜びに満ちあふれたアイツフェルンの大通りを歩く。

 町の人々は笑顔で満ち、戦いが終わったことに安心していた。


 そして、職業安定所の入り口をくぐり、中へ。

 多くの人々がいる中に、鮮やかな緋色の髪と瞳のエリーシェがいた。


「おかえり、ケイオスくん」

「ただいま、エリーシェ」


 彼女が無事でよかった。ここと王都を眠らずに往復して、待っていてくれた。誰を一番に表彰するかと聞かれれば、彼女だと答える。


「君のおかげだ。俺たちは、君が呼んだ援軍のおかげで勝った」

「ううん、違うわ。ケイオスくんが頑張ったから——」


 エリーシェが抱き着いてくる。


「エリーシェ、服が汚れてしまう」

「あとで着替えればいいわ」


 そうだな。

 服は替えればいい。

 彼女の背中に手を回して抱きしめる。

 暖かい。生き返るようだ。


「……?」


 気が付けば、周りの人々が口を閉じてこちらを見ている。

 みんな、にやついているな。

 妙な雰囲気になってきた。


「ケイオスくん……無事でよかった……」

「心配をかけてすまない」

「もう無理はしないでね?」


 潤んだ緋色の瞳。

 見ていると吸い込まれる。

 なんだろう? これはやはり、魅了の魔法か?

 いつかの時と同じように、俺たちの顔が徐々に近づいていき———


「あ」

「え?」


 がくん、と膝が抜けた。

 意識が遠のく。


 緊張の糸が切れた。

 体に力が入らない。


 どさりと倒れた音が自分でも聞こえた。

 次第に視界が暗くなる。


「ケイオスくん!?」

「おい! どうした!」


 ブラインの声も聞こえるな。


「ちょっと! ケイオスちゃん息してないわよ!?」

「やだ! ケイオスくん! 死なないで!」


 そうか、俺は息をしてないのか。

 って、それはまずいだろ。

 なに? 俺、しぬの?


「誰か! 回復魔法を頼む! こりゃあやべえぞ!」

「ケイオスくん! ケイオ———」


 そこで俺の意識は途切れてしまった。

 

 しまらないな。


 まあいい。


 最後かもしれないし、言っておく。


 大魔星将は討ち取った。

 最大にして最高難度のクエストを終了としよう。


 もし死んでしまったあとに誰かが聞いてきたらこう答えてほしい。


 彼はケイオス。

 魔物の天敵であったと———

 おまけ・人物紹介


 なまえ  大魔星将ジャスティン

 ねんれい ゼロ歳

 せいべつ なし

 ジョブ  聖戦士

 スキル  聖剣撃/浄化の炎/十文字斬り/祝福/穢れ耐性(大)/血溶術/星玉/物理耐性(極大)/魔法耐性(極大)/魔物生成

 ランク  なし

 しょぞく 星?

 かぞく  なし

 こいびと なし

 ちょきん なし

 みため  金髪・碧眼・紫色の肌・強化外骨格

 とおりな 災厄の魔王


 おまけ・魔物紹介


 『大魔星将』


 ある存在によって生み出された人類を抹殺するための兵器。人知を超えた魔素を有し、魔物を生み出す。元々は力の塊に過ぎなかったが、敵である人間を取り込み強制的に進化したのが『大魔星将』。強靭な肉体に高い知性、全ての耐性を持つ恐ろしき存在。

 元Aランクパーティー『アカツキ』のリーダー・ジャスティンをベースにしており、天職『聖戦士』の技能を引き継ぐ。

 王都でも有名な、最強クラスの冒険者三人と、後に神眼の異端狩人と呼ばれるアイツフェルンの魔物ハンター・ケイオスを同時に相手取り、圧倒するほどの力を持つ。胸の奥に核があり、そこが源かつ弱点。神眼の異端狩人ケイオスはそれを看破し、核を砕くことで倒した。

 後に『災厄の魔王』と命名されることとなる。


 討伐推奨冒険者数は一万人~(二度と現れないと言われているため大げさな数値)

 討伐報酬額は機密とされている。(功名に駆られた犠牲者を出さないため)

 


 という感じです。


 決着ううううううううううううううううううううううううう! でした。


 読んでいただきありがとうございました。


 よろしければ感想、コメントお待ちしております。


 次回は最終回『継がれるもの』となります。

 どうか最後までお付き合いくださいませ。

 それでは。

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