最終クエスト 『人間と魔物、勝つのはどっち?』
魔物のどす黒い血でできたぬかるみを蹴り飛ばすように突き進む俺たち。
奇怪な叫びを上げて突進してくる醜悪な魔物の群れ。
互いの存亡をかけた戦いの初撃はドラゴンたちによってもたらされた。
横一直線に並んだ竜が一斉にブレスを放つ。
炎と氷と風と光と闇が混じり合い、魔物たちのど真ん中に炸裂したのだった。
この世のものとは思えない轟音。そして爆風。宙を舞い山中へと消え去っていく魔物。
一撃で数百体が灰燼と化し、さらに数百体が衝撃で吹き飛ぶ。
とんでもない威力。
見習わねば。
しかし魔物たちに怯む様子は見られない。
止まらない魔物とこちらの前衛がぶつかり、土砂と血を巻き上げる。
「どらあああああああああああああああああああああああ!」
魔物の咆哮かと勘違いしてしまう雄叫びが耳に届く。
二メートルはありそうな長身の男が大剣を振るって魔物を叩き潰した。
「彼は……まさか!」
知っている。
王都で活動するAAランクパーティー『ガルベリオンズ』の狂戦士。名は『ガートルード・ブラック』だ。
狂戦士ガートルードは銀光できらめく大剣を回し、斬る。
十体もの凶悪な魔物が一度に吹き飛び、死滅した。
「なんということだ! 狂戦士が来てくれるとは!」
ガートルードは個人ランクも一級。有名すぎて話しかけることもできない人物。
驚きは続いた。
氷と炎の竜巻が突然現れて、魔物たちを薙ぎ払う。
これにより、大型の魔物は勢いが止まった。
そこへすかさず冒険者たちが突っ込み、確実に化け物を仕留める。
魔法の竜巻はそのまま吹き続け、次の瞬間、空中で槍へと変じた。
この熟達した魔法変化。
再び、まさか、と呟いてしまう。
「氷と炎の歌い手……」
卓越した魔法士で構成されるAAランクパーティー『エターナルズ』。その中核メンバーである氷と炎の歌い手『グスタフ・ドンケルハイト』の姿がある。
青と赤の色が入り混じった派手派手ローブの男は、鋭い目で息を吐く。作り出した大量の氷と炎の槍は、魔物の群れを串刺しにした。
個人ランク準一級の超がつく凄腕も来ているなど考えもしない。
そして———
一条の閃光が後方より空を切り裂く。
スキル≪眼力≫で見た閃光の正体は矢だ。
俺は、まさか、と呟く。
というか、さっきから『まさか』とばかり言っているんだが。
「あの人も来ているのか!」
光をまとった矢は大型の魔物、地獄熊の胴体を貫き、後ろの魔物をも射殺した。
振り向いた先には、緑色のトンガリ帽子にクジャクの羽根をつけた男がいる。
小柄だが引き締まった体躯。各所に魔晶石をあしらった強弓。
「至高すぎる狩人『オスキュリーダ』!」
狩りを生業とする王都でも最高のハンター。パーティーは作らず単独でクエストを行う俺の憧れだ。
「すごい! 生で見られるなどっ!」
彼は俺と年があまり変わらないのに、個人ランクは一級。まさに天才、いや超天才だろう。
まずいぞ。見惚れて戦いに集中できない。
「はあっ!」
気を取り直し、目の前にいるゴブリンを叩き伏せる。続けざまコボルドを、そしてクロウクロウオオカミを薙ぎ払った。
まだ終わらない。
大きく息を吸いこみ、ドラゴンブレスを放つ。
口から放射された光の熱線は真っすぐに突きぬけて、魔物たちを焼いた。
最強クラスの冒険者にドラゴン。アイツフェルンの力を総結集した俺たち。どの角度から分析しても負ける要素が見当たらない。
「ケイオス! あまり先に行くんじゃねえ!」
俺に飛びかかってきた魔物をブラインが斬る。
彼の剣技は冴え渡り、ダブルスラッシュどころかトリプルスラッシュとなって三体のサラマンドレイクを屠った。
「本命が控えてんだ! 温存しとけ!」
「すまない!」
今のところはこちらが優勢。しかし油断はできない。
「そうよ、ケイオスちゃん。私たちが道を作るわ!」
拳に鉄の輪をはめたハディスン局長が腰の入ったストレートパンチで猪の魔物アンガーボアを真正面から粉砕する。
やっぱり拳闘士が本業なんじゃ……
別の戦場では王都から来た援軍、シュバルツの隊が躍動している。
彼らは一糸乱れぬ動きで、一体一体を確実に仕留め、出血を強いていた。
強い。
まさかこれほどとは。
ブレスを放った後のドラゴンたちもすさまじい。
空中から急襲し、踏み潰す。尻尾を使った薙ぎ払いは一度に数十体を潰した。
「セレーネ……族長……」
呪いから救ったとはいえ、命をかけてまで助太刀に来るなんて。
終わったらまた酒を酌み交わしたいと、心から思う。
ダクやヴァイオレットとフォレスティアもよく戦っている。
町の冒険者もだ。
「負けていられない」
力がわいてくる。
「影魔法……≪影ノ槍・千劔≫!」
真下から突き上がる千本の黒い槍は、前方の魔物たちをまとめて滅した。
視界が開け、ジャスティンと目が合う。
あともう少し。
もう少しでたどり着ける。
一丸となって斬り進む。
魔物の数は激減していた。
もう障害にはならない。
「行け! ケイオス!」
「終わらせるのよ!」
二人の援護を受けて、群れを突破。
大魔星将の元へ出る。
俺とほぼ同時に、狂戦士ガートルード、氷と炎の歌い手グスタフ、至高すぎる狩人オスキュリーダがやってくる。
さすがとしか言えない。
「ジャスティン、終わりだ」
「ケイオス……おまえはどこまで!」
ヤツの周囲には少ない数の魔物しかいない。
詰みだ。
俺は最強の冒険者たちと肩を並べ、ジャスティンと対峙する。
すると、狂戦士ガートルードが声をかけてきた。
「よう、兄ちゃん。やるじゃねえか。見てたぜ」
「狂戦士ガートルード……来てくれるとは」
「俺を知ってんのか?」
「もちろん。あなたほどの男を知らないはずがない」
彼は笑いながら大剣を振るい、魔物の黒い血を落とす。
今度は左に立った氷と炎の歌い手グスタフが話しかけてきた。
「君のその魔法。初めて見るが」
「氷と炎の歌い手グスタフ。会えて光栄だ」
「こちらこそ。あとでじっくりその魔法について聞かせていただこう」
緊張するな。やめてくれ。
そして、至高すぎる狩人オスキュリーダが肩に手を置いてくる。
「君さー、王都にいなかった? 見たことあるんだけど」
「いた。今は田舎町の冒険者だが」
「あ、やっぱり? もったいないな。王都に戻りなよ。僕とクエストどう?」
やばい。
一緒にクエストなどしたら昇天してしまう。
「あとさー……そっちの魔物さんも王都で見たことあるんだけど」
やはり鋭い。
「ヤツは王都の元冒険者。アカツキという名のパーティーでリーダーをしていた男だ」
「ああ、アレだろ? 確か口だけのナンパ野郎じゃねえか」
と、狂戦士ガートルードが言う。
「ほう? 人間が魔物に? 興味深いな」
グスタフが知的好奇心丸出しの視線をジャスティンに送る。
「これまで確認されなかった事例だ」
「ふむ、それもあとで聞かせていただこうか」
「おっと、お喋りはここまでだね」
大魔星将ジャスティンの顔が歪む。怒りと憎しみは俺に向けられていた。
「ケイオス……ケイオス!」
ぶるぶると震え出し、魔素をみなぎらせる。
「ケイオスウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
鬼の形相でジャスティンが突っ込んでくる。
最後の戦いだ。
剣を握り直し、構える。
大魔星将よ。
見るがいい。
「これが人の力だ」
駆けだした俺と、大魔星将ジャスティンが交錯する。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ここにきて新キャラ登場でした。
次回は『最強の分析士』となります。
よろしければ感想、コメントなどお待ちしております。
それでは。




